一人暮らしの母が認知症に 介護休業が難しいときは【お悩み相談室】
構成/中寺暁子
地域包括支援センターに勤務する中村亘さんが、高齢者や介護の様々な悩みに答えます。
Q.遠方で一人暮らしの母(78歳)が認知症になりました。私の勤務先は小さな会社で、介護休業などは取りにくく、仕事を辞めて実家に帰ろうかと悩んでいます。兄からは「施設に入れるしかない。お前は介護を言い訳に仕事を辞めたいだけだ」と言われ、頼りになりません(50歳・女性)
A.認知症のお母さんを1人にしておくのは、確かに心配ですね。仕事を辞めて実家に帰るべきか、とのことですが、一度考えていただきたいのは相談者自身の人生も大事にするということです。私の経験では、介護だけに専念した生活は行き詰まる傾向があります。逃げ場がなくストレスがたまり、自分が自分ではなくなるような感覚になる人もいます。そして、最初に抱いた「母親を支えたい」という気持ちから、どんどん離れていってしまう人も少なくありません。また、将来的に介護には終わりがきます。その後の人生を考えたときに、できることならば仕事は続けていたほうがいいと思うのです。
小さな会社で介護休業などは取りにくいとのことですが、現在は国が「介護離職ゼロ」を推進し、勤務先の制度に関わらず、法に基づいて「介護休業」や「介護休暇」を利用できます。介護休業は、要介護状態にある対象家族1人につき通算93日まで、3回を上限に分割して休業を取得できる制度です。条件や手続きの方法など、制度の詳細については、全国にある都道府県労働局雇用環境・均等部(室)に連絡すると教えてくれるので、相談してはいかがでしょうか。
介護休業などを取得できる権利はあったとしても、会社が人手不足などの事情を抱えていると、心理的に休みづらいということもあるでしょう。しかし、会社にとっても大事な社員に辞められてしまうことのほうが痛手かもしれませんし、相談者が介護休業を取得することで、同じような悩みがある同僚にとっても休みやすい環境が整うかもしれません。
介護休業などを利用しつつ介護保険サービスを使って遠距離介護をする態勢を整えられれば、お母さんが一人暮らしを続けることは不可能なことではありません。たとえ仕事を辞めて介護に専念するにしても1人での介護には限界があるので、介護保険サービスを活用してほしいと思います。
現状ではお母さんの介護に対して、お兄さんと考え方の相違があるようですね。兄妹で話し合えればいいですが、それぞれのお母さんとの関係性もありますし、難しい面もあるかもしれません。そうしたときには、ケアマネジャーなどに間に入ってもらうとスムーズにいくこともあります。大事なのはお母さんの気持ちです。もしかしたらお母さん自身、1人では不安なので施設に入居したいという気持ちがあるかもしれません。ケアマネジャーは利用者の代弁者という役割もあるので、お母さんの気持ちをくみ取りつつ、今後の介護の方針について提案してもらえると思います。
介護保険サービスを利用するために要介護認定を受けたり、ケアマネジャーを決めたりするのは、地域包括支援センターがサポートしてくれます。まずは、実家近くの地域包括支援センターに相談することをおすすめします。
【まとめ】一人暮らしの母が認知症になり、仕事を辞めて実家に帰るべきか悩んでいるときには?
- 介護が終わったあとの自分の人生についても考える
- 介護休業は法に基づいて利用できる制度。自分が退職するよりも、介護休業を取得するほうが会社や同僚のためになると考えることもできる
- 実家近くの地域包括支援センターで相談したうえで、介護保険サービスを利用する
≪お悩みの内容については、介護現場の声を聞きながらなかまぁる編集部でつくりました。≫