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第2の人生はお遍路を?おひとり様のセカンドライフ、リアルな声 後編

「本を通じて町おこしを図る地元イベント時に出張参加。仲間と本の楽しさを届けたい」(広田さん提供)

自分のセカンドライフはどんなイメージですか? その頃、今の仕事はどうなっているだろう、自分の人生観は変わったりするのだろうか――この記事が、長い人生の後半戦を想像するきっかけになるかもしれません。なかまぁる編集部が実施した「セカンドライフに関するアンケート」回答者インタビュー後編は、独身者に聞いたお話です。(前編はこちら

働けるところまで働きたい。健康を維持して最後は献体に

「セカンドライフって定年後ということですよね? その定年に現実感がないんですよ」というのは愛知県名古屋市在住の上戸剛さん(仮名・58)。ひと昔前、55歳が定年という時代ならすでにゴールを切っている年齢だけれど、現実には節目なく「もういつまで働くか、働けるか」という感じ。今のままの状態しか想像できず、仕事を引退した後の人生を考えることもないのだといいます。勤めている会社の定年は60歳ですが、雇用主からは、がんばってできるだけ長く働き続けてほしいといわれているそうです。

仕事が忙しく日々追われる生活ですが、10年ほど前から巡礼の旅をしています。きっかけは趣味の自転車で旅をしたかったから。2011年から足掛け2年間、区切り区切りで四国八十八カ所を自転車で巡りました。「最後のお参りをすませたときの達成感はこの上なく心地よく、次はぜひ歩いて巡りたいと思ったのです」という上戸さん。その練習のつもりで地元の愛知県にある知多四国八十八カ所を歩いてみると、初日でまったく足が動かなくなり「このままでは将来、危うい」と愕然としました。以来、自分の身体や健康に意識が向いて体力づくりを心掛け、2013~2014年で知多四国八十八カ所は見事結願。でもこのときはさほどの達成感がなかったと上戸さんはいいます。

自転車の旅が趣味の上戸さん。2013年にしまなみ海道を通行したときのもの(上戸さん提供)
自転車の旅が趣味の上戸さん。2013年にしまなみ海道を通行したときのもの(上戸さん提供)

そんな上戸さんの将来の希望は献体。自分の死後、遺体を医学・歯学の研究のために提供したいということですが、そう考えるようになったのは2017年に放送されたテレビドラマ(『コード・ブルー ドクターヘリ救命救急』フジテレビ系)がきっかけです。「脳死判定のシーンで、何人もの医者が集まって人の死を尊厳的に描いていたのがとても印象的でした。自分も死ぬときにあんな風でありたいと思った。医者が解剖して、世の中の役に立つような健康できれいな身体でいたいなと思ったのです」という上戸さん。「死ぬまでにぜひ歩いて四国八十八カ所を巡礼したい」という目標はこれから。仕事はできるかぎり続けつつ、もしかしたら巡礼が上戸さんのセカンドライフなのかもしれません。

ひとり単位で生きる覚悟を決め、価値観の近い仲間作りを

千葉県在住の広田麻実さん(仮名・46)は個人事業主として古本を扱う仕事をしています。会社員ではないので決まった定年はなく、一般的な‟リタイヤ”やその後の‟セカンドライフ”もはっきりしたイメージがないといいます。「あえてそれに近いイメージとしては……今は生活のために働いていて、元気なうちは仕事をし続けたいと思っていますが、あるタイミングになったらガツガツ働かなくてもよい状況、自分のペースで余裕を持って仕事ができるような状況にしたい。それが私のセカンドライフのイメージでしょうか」と広田さんは言います。そのタイミングは健康面で不安が出てきたとき、あるいは70歳? 75歳? と現時点では曖昧のよう。「その年齢はまだまだ先。なってみないとわからないけれど、同業の先輩を見ているとそのくらいかなと思います」

そんなセカンドライフに向けて準備していることを質問すると、「やはり健康。私はたぶん、結婚して家族持ちという形態にはならないと思うから、どんなことも1人で生きていくという前提で考えるようにしています」との答え。30代の頃、仕事に関わる契約の場で「あなた1人? お父さんは?」と言われ、そのショックが“一人前に扱われていない”という意識につながったと言います。「どんなことも1人で生きていくという前提」にしはじめたきっかけです。

地元の仲間のギャラリーで版画家とコラボイベント。古本を新刊書店で販売(広田さん提供)
地元の仲間のギャラリーで版画家とコラボイベント。古本を新刊書店で販売(広田さん提供)

年を重ねるごとに意識するようになったもうひとつは、地元。今は実家で両親と同居し、仕事は都内にある事務所に出勤。仕事も友達もほぼ都内が拠点で、専業主婦の母親(70代)のようにご近所で親しくしている友だちはほとんどいません。「それでも10年ほど前から地元で年1回のイベントに参加するようになり、知り合いが少しできたのです。同年代か少し年上くらいで、たまたま皆さん子どもがいない。話してみると将来のイメージなどが似ていていろいろ話せる。将来、地元にも活動の場を広げた時、こんな友達がいれば心強いのかなと思います」

自分らしい悠々自適生活を探す

筆者(58)も今回、取材した5人のお話それぞれに、おおいに共感するところがありました。世間では21年4月の高年齢者雇用安定法改正で70歳までの就業機会確保の努力義務が課され、高齢になっても働ける機会が増えて定年制を廃止する企業も出て来るでしょう。‟定年退職”で会社側から人生のひと区切りをつけてくれるという形もこれからは減っていくのかもしれません。個人事業主(筆者も)や非正規雇用、専業主婦などはもともと区切りをつけるしきたりがありませんから、独自に区切りをつける人もいれば、「生涯現役!」を豪語する人、家族のライフステージに寄り添っていく人もいます。セカンドライフという言葉には何となく‟仕事人生に区切りをつけて悠々自適の生活にシフトする”といったイメージがありますが、区切りをつけるのが難しい世の中になってきているのも確かです。

そもそも表立って区切りをつけなければならないという法もありません。でも会社員が定年退職を言い渡される頃(60~70代)には、やはり若い頃と同じではいられない、いろいろな変化があるのだと思います。体力気力の減退はもちろん、病気になることもある。子どもが巣立ったりローン返済が終わったり少し貯えができたり。そしていろいろな経験を重ねたことで新たな‟人生の興味”が湧いてくる。

セカンドライフの枕詞のような‟悠々自適”の意味は、世俗の雑事に煩わされずのんびりと心の赴くままに過ごすこと。目の前のことに追われる現役世代には夢のような境地ですが、それは仕事や生活のスタイルではなく、若い頃には抱けなかった新たな興味を心行くまで探求する生き方なのでは? そう思い至ると、自分がワクワクするようなセカンドライフの夢を描いてみたいと思いました。

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