いくら戻ってくる?介護保険費用 知っておきたい「高額介護サービス費」
更新日 構成/熊谷わこ 協力/日本意思決定支援推進機構
高齢の親の要介護度が高くなってくるにつれて、使う介護保険サービスも増えていくものです。また、同時に様々な病気の治療を受けなければならないことも多くあります。そのようなときに、介護と医療に関わる家計の支出を少しでも抑えるためには、どのような負担軽減策を使うことができるのでしょうか。架空の朝日太陽さんのエピソードをもとに、介護保険や医療保険を使った際に支払った自己負担分が一定額を超えたときに払い戻しを受けられる「高額介護サービス費」と「高額医療・高額介護合算療養費」について解説します。アドバイスしてくださるのは、高齢になっても安心、安全に財産管理や契約など経済活動を円滑に行える社会の実現に向けて取り組む一般社団法人「日本意思決定支援推進機構」の理事で、社会福祉士の上林里佳さんです。
- 【今回のエピソード】
- 東京で働く朝日太陽さん(52)。地方で暮らす母の月子さん(80)は現在、要介護4で、介護保険サービスをめいっぱい使いながら、なんとか一人暮らしを続けています。介護保険サービスの量が増えるにつれて、毎月のサービス利用料(自己負担分)の支払いも増えていきました。さらに、在宅医による訪問診療が必要になったほか誤嚥(ごえん)性肺炎を起こして入院するなど、医療費も増えました。これまでは月子さんの年金から費用をまかなってきましたが、太陽さんは「これからは、息子の自分が金銭面で支援する必要がでてくるかも……」と不安になってきました。そんなとき、支払った自己負担分が一定額を超えると払い戻しを受けられる「高額介護サービス費」と「高額医療・高額介護合算療養費」という制度があると聞きました。どのような仕組みなのでしょうか。
備えのためのアドバイス
介護保険制度は要介護度によって支給限度額が決められており、その範囲内であれば自己負担額は、かかった費用の1~3割(所得に応じて判定されます)で済みます。しかし、要介護度が高くなり、利用するサービスが増えてくると、自己負担額もかなり高額になってきます。例えば、月子さんの場合は、要介護4で介護サービスの支給限度額は月額30万9380円で、自己負担割合は2割です。支給限度額のギリギリいっぱいまでサービスを利用した場合、毎月の自己負担額は6万円を超えることになります。けれど、ご安心ください。介護保険制度には、利用者の自己負担額が高額になった場合の軽減策が用意されています。それが高額介護サービス費です。
1カ月ごと 「高額介護サービス費」 超過分が返ってくる
高額介護サービス費とは、1カ月に支払った自己負担額が、世帯や個人の所得に応じて定められた「自己負担限度額」を超えたとき、超えた分が払い戻されるというものです=上の表=。再び、月子さんの例で考えてみますと、要介護4の支給限度額の上限のサービスを使って月額6万1876円の自己負担額を払っていても、高額介護サービス費に基づく自己負担上限額4万4400円を差し引いた1万7476円分が、あとで戻ってくることになるのです。
公的医療保険でも、月々の自己負担の上限額を定めて家計負担を軽減する高額療養費制度があります。利用したことがある人も多いのではないでしょうか。高額介護サービス費は、その介護版と考えればいいでしょう。
ただ、高額介護サービス費も、利用者が申請しなければ、払い戻しは行われません。月当たりで支払った額が自己負担限度額を超えた場合には、自治体から通知が届きますので、すみやかに申請をしてください。申請の期限はサービスを利用した翌月1日から2年以内です。
本人が申請に行けない場合は、ご家族が代理で申請できます。ただし本人確認書類や委任状など自治体によって必要書類が異なるため、申請前に電話で確認しておくとスムーズです。一度手続きをすれば、2回目以降は、通知が届いた後、再度申請しなくても、指定した口座に自動的に振り込まれます。
通常、自治体からの通知は高額介護サービス費の対象になった3~4カ月後に送付され、その後、自己負担限度額の超過分が振り込まれます。一時的には、立て替え払いが必要になることも、覚えておくといいでしょう。
対象とならない介護保険サービスも
また、介護保険が適用されていても高額介護サービス費の対象にならないものもあります。居宅(在宅)サービスの場合、自宅の段差解消や手すりの設置などの住宅改修費、ポータブルトイレや入浴用椅子といった特定福祉用具購入費は対象外です。ショートステイを含め施設利用の際にかかる食費や居住費、日常生活費など、もともと介護保険の対象外となる費用は、医療の高額療養費制度と同様に、高額介護サービス費においても対象にはなりません。
さらに、高額介護サービス費が適用されるのは、あくまで、要介護度別に設定されている支給限度額(つまり1~3割の自己負担で済む範囲)までです。支給限度額を超え、全額自己負担になる分には適用されません。決して、自己負担限度額を払えば、いくらでもサービスが使えるわけではないので、注意が必要です。
1年ごと 介護費と医療費を合算して負担を軽減
介護保険には前述の「高額介護サービス費」、医療保険には「高額療養費」という、それぞれ1カ月の自己負担額が限度額を超えた分が、あとから払い戻される制度があります。
それに加えて、医療と介護の両方を利用している世帯では、その自己負担額の合算額が著しく高額になったときには、「高額医療・高額介護合算療養費」制度も利用できます=下の表=。
特徴は月ごとではなく、1年間(毎年8月1日~翌年7月31日)単位で、所得や年齢に応じた負担限度額が決められていることです。高額介護サービス費や高額療養費の制度に基づき、月ごとの払い戻しを受けた上で、年間で合算した場合に、高額医療・高額介護合算療養費で決められた年間での負担限度額を超えていれば、その超過分の払い戻しを受けることができるのです。世帯内で同じ医療保険制度に加入している被保険者が複数いる場合は、被保険者全員分を合算できます。
ただし、高額介護サービス費と同じように申請が必要です。高額医療・高額介護合算療養費の対象となる場合には、多くの自治体では、該当する年の翌年になってからにはなりますが、加入している医療保険組合から通知が届きますので、申請漏れをしないように注意しましょう。
- 上林里佳(かんばやし・りか)
- 京都市出身。上林里佳社会福祉士事務所代表。日本意思決定支援推進機構理事。成年後見人。社会福祉士、精神保健福祉士、介護福祉士、介護支援専門員、証券外務員。元証券会社・元地域包括支援センター職員。福祉、医療、法律、金融機関に対し「認知症高齢者対応実践編」「認知症高齢者の意思決定支援」「シニア層の健康と医療」「成年後見人」「高齢者虐待対応」等の講演を行う。「認知症の人にやさしい金融ガイド~多職種連携から高齢者への対応を学ぶ」等、共著多数。