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補助金は出る?介護ベッドのレンタル○ 購入は× 介護保険と要介護度の注意点

介護ベッドに横たわる高齢の女性

高齢の親がけがや病気で入院した場合、無事に回復したとしても、退院した後、これまでと同じようには自宅で暮らせなくなることが多くあります。自宅で安全、安心に生活できる環境を整えるためには、どのような準備が必要なのでしょうか。架空の朝日太陽さんのエピソードをもとに、介護保険制度で使うことができる福祉用具や住宅改修について解説します。アドバイスしてくださるのは、高齢になっても安心、安全に財産管理や契約など経済活動を円滑に行える社会の実現に向けて取り組む一般社団法人「日本意思決定支援推進機構」の理事で、社会福祉士の上林里佳さんです。

【今回のエピソード】
東京で働く朝日太陽さん(50)。地方で一人暮らしをしている母の月子さん(78)が転んで骨折したため、入院して手術を受けました。懸命なリハビリテーションの結果、月子さんの退院の日程も決まりました。歩行器や杖が必要になった月子さんが、自宅で少しでも暮らしやすくなるようにと、太郎さんは、インターネットで、いわゆる介護ベッド(特殊寝台)を購入し、準備していました。すでに、介護保険制度に基づく要介護認定も済ませていたため、自己負担額は少なくなると思ったのですが、ケアマネジャーに「購入は全額自己負担になります」と言われてしまいました。どういうこと?

備えのためのアドバイス

前回は、介護が必要になった月子さんが退院後に自宅で生活する上で、介護保険制度が大きな助けになることをお話ししました。同制度の利用に必要となる要介護認定の申請やケアマネジャーの選定などの手続きは、入院中であれば病院内の「地域連携室・入退院連携室」といった名称の相談窓口にいる相談員らがアドバイスをしてくれます。早めに相談するといいでしょう。 要介護認定(要支援1・2、要介護1~5)を受ければ介護保険サービスを利用することが可能になります。ただし好きなだけ利用できるわけではなく、要介護度に応じて、支給限度額が決まっています。

福祉用具は、レンタルと購入で、利用可能なものが異なることも

自宅で安心して生活するのに、大きな助けになるものの一つが「福祉用具」です。 たとえば高さを変えることができ、背中や足を持ち上げることができる介護ベッド(特殊寝台)があれば、安全に立ち座りができます。こうすることで、廃用症候群(長期に安静な状態が続いたことなどで心身の様々な機能が低下した状態)も予防できます。また、介護の負担も軽減することができます。入浴に際しては、背もたれやひじ掛けの付いた浴室用のいすや、浴室の環境に合った適切な手すりの設置で、滑りやすい水回りでも転倒を防止し、介護もしやすく、安全にお風呂を楽しむことができます。

注意が必要なのは、介護保険制度では、購入とレンタルのそれぞれで、利用できる福祉用具の品目が決まっていたり、要介護度によって使えるものが限定されたりするということです。
例を挙げると、介護ベッドは、原則要介護2以上で、レンタルによる介護保険の対象(要支援1・2、要介護1の方も状態によっては、医師の意見などを踏まえて例外的に対象に認められることもあります)となりますが、購入した場合には対象外となり、全額自己負担となります。レンタルの場合、利用者の状態に応じて交換していくことも可能なので、安心です。
一方、入浴用のいすやポータブルトイレ、浴槽用手すりなど体に直接触れるものは購入のみで、レンタルはできません。また要介護度によっては原則、利用できない福祉用具もあるので、調べた上で利用を考えることが必要です。

レンタルも購入も、ケアマネジャーや地域包括支援センターが作成するケアプランに位置づける必要があります。レンタルは介護保険の支給限度額内であれば、自己負担分(所得によって1~3割)を支払うことになり、それ以上は全額自費になります。
購入に関しては、同一年度(4月~翌3月)内で上限10万円までは、自己負担分(所得によって1~3割)を引いた金額が、要介護度に関係なく支給されます。自己負担1割の人が上限いっぱいの10万円分の福祉用具を購入した場合、自己負担額は1万円で、9万円は介護保険から支給されることになります。
なお、介護保険の対象として福祉用具を利用する場合には、レンタルであっても、購入であっても、自治体から指定を受けた業者を利用しなければならないなど、さまざまな制約があります。また、決められた手順通りに申請しなければ、給付を受けることはできません。

住宅改修は、事前に審査の完了が必要

介護保険では、家庭内の事故を防いだり、自立を助けたり、介護者の負担を減らすための住宅改修の費用も支給されます。ただし、住宅改修のすべてが介護保険の対象になるわけではありません。和式便器から洋式便器への交換、手すりの設置、開き戸を引き戸などに取り換える、扉の撤去やドアノブの変更、段差の解消、スロープの設置など、対象となる工事は具体的に決められています。老朽化などによるリフォームは、対象外です。

手すりや固定式の踏み台、スロープなどを設定することで、家の中で安全に移動しやすくなる
手すりや踏み台、スロープなどを設定することで、家の中で安全に移動しやすくなるとともに、外出もしやすくなります。

介護保険から支給されるのは、実際にかかった工事費用から自己負担分(所得によって1~3割)を除いた金額となります。さらに、支給限度額には、要介護度にかかわらず、一律20万円の上限があります。つまり、限度額いっぱいの20万円分の同じ工事をした場合でも、自己負担が1割の人なら支給は18万円、2割の人なら16万円、3割の人は14万円と支給額が異なる結果となります。
工事費用が20万円を超えた部分は、すべて自己負担となりますが、1 回の改修費用が 20万円未満だった場合は、次回改修時に残りの金額を再度申請することもできます。また例外として、転居した場合や、改修工事後に要介護度が3段階上がった場合は、再度、支給を受けることが可能となっています。

住宅改修の施工業者は、自治体からの指定を受けていなくても工事は可能で、利用者が選定できますが、施工業者にケアマネジャーや地域包括支援センター、自治体などへ相談をしてもらい、申請用の書類を用意し、作成してもらう必要があります。手順としては、事前申請書、写真などを提出し、自治体の事前審査が完了してから工事を行い、事後にも書類や写真などを提出しなければ、介護保険は適用されず、全額自己負担となってしまいます。退院までに時間が少ないこともあると思います。早め早めに手続きを進めておくことが得策です。
また、介護保険制度では、住民票のある住所で、実際に住んでいる場所のみが住宅改修の対象となります。それ以外の場所で過ごす場合の住宅改修には、適用されません。このように介護保険にもとづく住宅改修は、手順が多くあり複雑です。手順を軽視したり、手違いがあったりすると、給付を受けられない場合もあります。福祉用具、住宅改修ともに、まずは、担当のケアマネジャーや地域包括支援センター、自治体に相談をするようにしてください。

入院中の場合には、病院にはリハビリテーションのスタッフなど様々な知識をもつ専門家が多くいます。そうしたスタッフの知恵も借りながら、高齢者も家族も、安心して日々を過ごせるように、できるかぎりの準備をして、退院の日を迎えられるように備えたいものです。

上林里佳さん
上林里佳(かんばやし・りか)
京都市出身。上林里佳社会福祉士事務所代表。日本意思決定支援推進機構理事。成年後見人。社会福祉士、精神保健福祉士、介護福祉士、介護支援専門員、証券外務員。元証券会社・元地域包括支援センター職員。福祉、医療、法律、金融機関に対し「認知症高齢者対応実践編」「認知症高齢者の意思決定支援」「シニア層の健康と医療」「成年後見人」「高齢者虐待対応」等の講演を行う。「認知症の人にやさしい金融ガイド~多職種連携から高齢者への対応を学ぶ」等、共著多数。

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