家族でも無理なもんは無理 介護はブラックバイト?ヤングケアラー調査隊
最近、さまざまなメディアで「ヤングケアラー」と呼ばれる子どもたちがよく取り上げられています。でもぶっちゃけ、どのような存在なのか聞かれたら、あなたは即答できますか? 認知症だった祖父母の介護を7年間続けてきたゆずこが、いろいろな人たちに話を聞いてひもときます。名付けて「ヤングケアラー調査隊」。一人だけどな!
分からなかったら専門家に直接聞いちゃえ! 教えて、澁谷先生!
「ヤングケアラー」という言葉を数年前に初めて耳にして、当時は知ったかぶりでやり過ごしていた、ゆずこ。でも、この企画を始めるにあたって、それじゃいかんと思いました。そこでさっそく、専門家の先生を直撃することにしました。
ヤングケアラーの調査・研究をされている、成蹊大学文学部現代社会学科教授の澁谷智子先生。これまでに『ヤングケアラー ―介護を担う子ども・若者の現実』(中央公論新社)、そして『ヤングケアラー わたしの語り』(生活書院)と、ヤングケアラーにまつわる著書を出されています。
そもそも、「ヤングケアラー」という言葉がどこでどのような経緯で生まれたのか、なぜ日本で注目されるようになったのか、ほとんど知らない……。少しネットでググって(検索サイトのGoogleで調べること)みると、どうも言葉が生まれたのはイギリスらしい。先生、そんな超根っこの部分から教えてください!
「わかりました。おっしゃる通り、世界に先駆けてヤングケアラーと呼ばれる子どもたちに目を向けたのはイギリスです。1980年代後半頃から問題が提起されはじめました。『ケアを担う家族にも重い負担がかかっているんじゃないか』と、ケアする人のケアの必要性を政府が認識したのです。介護者への支援を積極的に打ち出していく中で、ヤングケアラーに対しても全国規模の調査が実施されるようになります。そうした調査によって、それまであまり見えなかった『ケアをしている子どもたちの存在』が明るみに出て、さまざまな支援やサポートが行われるようになっていきました」
なんと、約25年も前から対策されていたのですか。ほえ~、イギリス半端ねえ!
ちなみに日本での本格的な調査は、ヤングケアラーの実態調査や効果的な支援プログラムの開発、そして啓発・広報活動を行う「日本ケアラー連盟ヤングケアラープロジェクト」によって、2015年に行われています。澁谷先生もそのメンバーの一人です。
「このときの対象は、新潟県南魚沼市の公立小中学校26校・446人の教職員で、271人が回答してくださいました。あくまでそれぞれの認識によるものなので、実際のヤングケアラーの人数とズレはあるかもしれませんが、それでも結果をみてみると、回答した教職員の4人に1人が『これまで教員をしてかかわった児童・生徒の中で、家族のケアをしているのではないかと感じた子どもがいる』と答えています」(注1)
2021年になった今ほどヤングケアラーという概念や存在が知られていないことを考えると、先生の語る「4人に1人」という数字は、けっして少なくないはずです。
変わる“家族のカタチ”、そして一向に変わらない“古くっさい介護のイメージ”
澁谷先生のお話を伺っているうちに、実はちょっと心配なことが頭に浮かびました。今の国の政策や姿勢、つまり「(介護は)できるだけ家族でやろうね!」とか「地域の助け合いを目指そうね!」って、なんとな~く家族や地域に丸投げしているように感じるということ。遠い親戚や周りの人からの「昔は介護は家族でするのが当たり前だったんだよ」「昔はできたんだから、今もできるよね?」っていうナゾの圧も……。
そして、今後さらに高齢化が進んだら、自分の子どもたちにしか頼ることができない家庭がものすごく増え、ヤングケアラーが今よりもっと爆誕!するしかない時代が到来しそう。そんな思いを澁谷先生にぶつけてみると、こんなお返事が……。
「そうですね。社会の構造は大きく変化しているのに、なぜか『家族ってこうだよね』というイメージは変わっていない気がします」
なんだろう、家族のイメージが本当に“ド昭和”からまったくアップデートされていないですよね。今、令和なのに。もう、「ぴえん超えてぱおん」(泣きたい時、感情が高ぶった時などに使う若者言葉だそうです)ですよ……。
時代とともに家族の形がどう変わったか具体的に見てみると、たとえば共働き世帯は1980年には614万世帯だったのに対し、2018年には1219万世帯に増加しています(注2)。また、ひとり親世帯数(母子世帯数)は、1988年は84.9万世帯だったのに対し、2011年には123.8万世帯と、約1.5倍になっています(注3)。
なんとなく変化は感じていましたが、こんなに大きく変わっていたのですね。改めて数字を見て、驚きました。
「人手の面でも、家のことにかけられる時間の面でも、昔に比べて“家族が家族を支える力”は減っています。どう考えても負担が大きすぎるのに、周りの人も当事者も、『家族は助け合うもの』『助け合うことは素晴らしい』といった意識を持っていて、そのプレッシャーはまだまだ根強い気がします」
また、澁谷先生は「さらにヤングケアラーが生まれやすい状況ができつつある」と付け加えます。
「今は『人生100年時代』と言われ、元気な高齢の方も労働市場で働くことを推奨されています。ケアを必要とする人は増えているのに、支える家族の力が減っている状態です。すると、どうしても子どもたちにしわ寄せがいってしまう。さまざまな背景や困難が絡み合って、子どもに頼らざるを得ない状況ができやすくなっていると思います」
人手が減って介護にかける時間も減っているのに、「できるよな? 家族だもんな! 仕事は倍に増やすからな!」って、結構ブラックなバイトのお話のような……。
第一線で活躍する専門家の本音。繊細な子どもたちへの向き合い方
ご自身の調査や研究について、そして、改めてヤングケアラーについて丁寧に教えてくれた澁谷先生ですが、取材中にほんの一瞬、どこか不安そうな表情が混ざった瞬間がありました。
「……私は家族のケアをする子どもたちを“美談”にするつもりも“かわいそうな存在”にするつもりもありません。子どもたちが思春期に感じたことは永遠ではなくて、大人になって振り返ってみて、はじめて感じることもあるはず。そんな不安定な時期の子どもたちの話を、取材でその後も残るものとして固定化してしまっていいのか。子どもたちが記事や本を見て傷つかないか。ご両親がショックを受けないか。そういったところまで考えて活動をしていくべきだと思います」
ぽろっとこぼれた、先生の思い。この言葉は絶対に忘れちゃいけない。
子どもたちが置かれた環境や悩みは全員違うはずです。自分の足元をしっかりと見て、一歩ずつ進めたい。ヤングケアラーの取材をする立場として、改めて背筋が伸びました。
ヤングケアラーへの具体的な支援やサポートは、まだ始まったばかりです。県独自の調査や国主導の全国調査など、今、大人たちは踏ん張ってもがきまくって、子どもたちのために動き出しています。次回はそんな踏ん張りまくっている現場の人たちに話を伺います。
引き続きヤングケアラー調査隊、行ってきまーす!(……一人だけどな←しつこい)
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