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高齢の親が骨折 退院後の要介護認定に備えて子世代ができること

歩行器で歩く高齢の女性

高齢の親がけがや病気で入院した場合、無事に回復したとしても、退院した後に、介護サービスの利用が必要になることが多くあります。自宅などに戻ってすぐに介護保険サービスを使うためには、入院中に、どのような準備をしておけば良いのでしょうか。架空の朝日太陽さんのエピソードをもとに、介護保険制度の要介護認定の申請手続きについて解説します。アドバイスしてくださるのは、高齢になっても安心、安全に財産管理や契約など経済活動を円滑に行える社会の実現に向けて取り組む一般社団法人「日本意思決定支援推進機構」の理事で、社会福祉士の上林里佳さんです。

【今回のエピソード】
東京で働く朝日太陽さん(50)。地方で一人暮らしをしている母の月子さん(78)が転んで骨折し、入院して手術を受けました。月子さんは懸命にリハビリテーションに励み、歩行器や杖を使いながらなんとか移動できるまで回復しました。担当医から「あと1週間ほどで退院できるから」と伝えられた太陽さんですが、以前と同じようには動けない月子さんが一人暮らしを続けるために何を準備すればいいのか、見当もつきません。

備えのためのアドバイス

月子さんは、歩行器や杖が手放せなくなり、退院後は入浴や家事などで手助けが必要です。こうした人に、必要な介護サービスを提供し、その費用の一部を給付してくれる制度が、「介護保険制度」です。高齢者の尊厳の保持と自立支援という基本理念のもと、介護を社会全体で支える仕組みとして創設されました。「そんな保険に加入した覚えはないけど…」と思われるかもしれませんが、40歳以上の国民には加入が義務付けられ、健康保険料と一緒に介護保険料も徴収されています。
そのため、月子さんのような65歳以上の高齢者であれば、介護が必要になった原因を問わずサービスを受けることができ、自己負担はかかった費用の1割(所得によっては2割、3割)で済みます。

介護保険サービスを利用するには

介護保険サービスには、7段階(要介護1〜5、要支援1〜2)の「要介護度(介護が必要な程度)」に応じた支給限度額が設けられていて、要介護度が重いほど(要介護5が最重度)限度額は大きくなり、使えるサービス量が増えます。限度額以上のサービスを受けたい場合、超えた分については全額自己負担となるものの、受けること自体は可能です。
介護保険サービスを受けるにはまず、要介護認定を受ける必要があります。区市町村の介護保険窓口などで申請すると、認定調査員が派遣され、心身の状態などを聞く訪問調査を行います。この結果や主治医が作成する意見書などをもとに、介護が必要かどうか、どの程度必要かなどについて、保健・医療・福祉の専門家によって審査、判定を行います。そうして、要支援や要介護度が決まります。

認定結果を現在の心身の状態に少しでもあったものにしてもらうためには、普段から医師に心身の状態を知っておいてもらうことが大切です。訪問調査時には、普段できないことを無理に頑張ってしまう場合もあるため、日常の状態を知っているご家族や支援者などが同席し、伝えることも重要です。ただ、ご本人の気持ちを害さないように、メモを認定調査員らに渡したり、あとで伝えたりといった工夫も必要でしょう。

要介護と認定された場合は、契約を結んだ後、ケアマネジャーが、要介護度に基づいてご本人の意思や必要性をアセスメントし、ケアプランを作成します。さらに、介護サービスに関わる人々で会議を開き、役割分担や支援方法を確認の上、ご本人やご家族が安心して生活を送れるように介護サービスの利用につなげていきます。

【要介護認定の流れ】申請→認定調査(認定調査員による訪問調査)・主治医意見書→一次判定(コンピューターによる判定)→二次判定(介護認定審査会)→自立、要支援、要介護

要介護認定は原則1カ月ほど 入院後、できるだけ早く相談員とつながっておく

注意が必要なのが、要介護認定には原則1カ月くらいかかるということです。
太陽さんの場合は担当医に退院の話をされてから動き出すことになってしまいましたが、入院中でも症状や状態が落ち着けば、要介護認定の申請は可能です。できれば、退院後に介護保険サービスを利用する可能性があるならば、入院したらすぐに病院に相談をしておくと良いでしょう。そうすれば、退院時には要介護認定が下り、自宅ですぐに介護保険サービスが使える可能性が高まります。
ほとんどの病院には、「地域連携室・入退院連携室」といった名称の相談窓口を設置しています。専門知識のある相談員が、退院後の生活を見据えたサポートをしています。
こうした相談員が、要介護認定の申請や、地域包括支援センターとの連携、ケアマネジャーの紹介などのサポートをしてくれたり、退院後、スムーズに自宅での生活へと移行できるように、様々な職種や立場の関係者らと調整をしてくれることも少なくありません
また、このような調整が難しい場合は、区市町村が設置している地域包括支援センターでも、在宅で必要な医療や介護サービスが受けられるよう、相談に応じてくれます。

介護保険でできる様々なこと

月子さんがご自宅に戻る場合、介護保険が利用できる居宅サービスは大きく分けて六つあります。

【居宅サービス】
1:主な訪問系サービス
訪問介護(ホームヘルプサービス)、夜間対応型訪問介護(要支援の人は利用できない)、訪問入浴、訪問看護、訪問リハビリテーションなど
2:主な通所系サービス
通所介護(デイサービス)、認知症対応型通所介護、通所リハビリテーション(デイケア)など
3:主な短期入所系(泊まり)サービス
短期入所生活介護(ショートステイ)、短期入所療養介護など
※上記のような通所介護を中心に訪問介護や泊まり介護を組み合わせた小規模多機能型居宅介護というサービスもあります。
4:福祉用具貸与(レンタル)
車いす、特殊寝台、手すり、歩行器、補助杖など
5:福祉用具購入
腰掛け便座、入浴補助用具、簡易浴槽など(直接肌に触れて使用する入浴用や排泄用の用具など貸与になじまないものが対象:指定業者や支給に必要な書類があり、事前に相談が必要)
6:住宅改修
手すりの取り付け、段差の解消、洋式便器への取り換えなど(工事の着工前に申請が必要。事前に相談が必要)

これらのサービスを利用するためにも、家族は、地域連携室などの相談員に相談し、介護サービスを受ける人(親など)の生活環境や自身(家族)の事情(遠方に住んでいることなど)を伝えておくことが大切です。このように相談員は事前に得たご本人の意思やご家族の事情、心身状態などの情報をもとに、主治医などの医療関係者と退院後の在宅の支援者と連携しながら準備を進めたり、適切なタイミングでご家族に備えるべきことを提案、助言してくれたりします。ご本人やご家族にとって、さまざまな相談にのり、退院後の生活を見通せるよう対応してくれる相談員とつながっておくことは、何よりの安心感をもたらすでしょう。遠慮なくご相談くださればと思います。

上林里佳さん
上林里佳(かんばやし・りか)
京都市出身。上林里佳社会福祉士事務所代表。日本意思決定支援推進機構理事。成年後見人。社会福祉士、精神保健福祉士、介護福祉士、介護支援専門員、証券外務員。元証券会社・元地域包括支援センター職員。福祉、医療、法律、金融機関に対し「認知症高齢者対応実践編」「認知症高齢者の意思決定支援」「シニア層の健康と医療」「成年後見人」「高齢者虐待対応」等の講演を行う。「認知症の人にやさしい金融ガイド~多職種連携から高齢者への対応を学ぶ」等、共著多数。

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