介護の働き方改革 ボランティア活用術 モチベーションは「社会とのつながり」
取材:渡辺千鶴、岩崎賢一 イラスト:青山ゆずこ インフォグラフ:須永哲也
ボランティアポイント制度を知っていますか――。
介護予防を目的として、65歳以上の人たちが暮らす自治体にある介護サービス事業所などで活動するとポイントがもらえ、それがたまると地場産品などに交換できる制度です。全国の中でも活発にこの制度が活用されている静岡市にある社会福祉法人桂・カリタス有東センター長の山田洋治さん(49)に、ボランティア活用のポイントを聞きました。シリーズ「これからのKAIGO~『自分にできる』がきっと見つかる~」の7回目は、ボランティアの活用について深掘りしました。
課題:ボランティアをどう受け入れていいのかわからない
- 介護イノベーター 山田洋治さん(やまだ・ようじ)
- 高校を卒業後、知的障害者施設に就職。その後、高齢者施設で介護に従事する。2001年、社会福祉法人桂に入職。特別養護老人ホーム、ケアハウスで勤務した後、在宅サービス「カリタス有東」の新設に携わる。デイサービスの管理者・相談員を経て、2021年4月にセンター長に就任。
活動時間に応じてポイントがたまり、地場産品と交換
在宅サービス「カリタス有東」センター長の山田洋治さんが考える、アクティブシニアの活用のためのポイントは次の五つです。
- ボランティアポイント制度を積極的に活用し、元気な高齢者を受け入れる
- 利用者目線でボランティアにお願いすることを日ごろから整理しておく
- ボランティアをする人たちの得意なことを任せることでリピーターにつなげる
- 年間を通して継続的に活動してもらえる仕組みづくりに取り組む
- ボランティア担当職員の担務の明確化と育成
デイサービスを中心に在宅サービスを提供する「カリタス有東」は、静岡市が実施するボランティアポイント制度をベースにした「静岡市元気いきいき! シニアサポーター事業」を活用して積極的にボランティアを受け入れてきました。
母体となる社会福祉法人の関連施設では、この事業が始まる前からボランティアの受け入れに熱心でした。カリタス有東も2017年の開設以来、この4年間で受け入れてきたボランティア数は約150人、のべ人数にすると約1000人に上ります。コロナ禍となり、グループでの受け入れは控えましたが、個人単位では受け入れを継続してきました。
サポーター登録者数は約7000人
2015年度に始まった「静岡市元気いきいき! シニアサポーター事業」は、健康な高齢者の介護予防を目的に創設されたものです。65歳以上の静岡市民が介護施設などで地域貢献活動を行うと、活動時間に応じてポイントがたまり、静岡市の地場産品と交換できます。
活動内容としては、芸能等の披露をはじめ、行事やレクリエーションの補助、お茶出し、配膳、下膳、話し相手、傾聴、散歩相手、洗濯物の整理、裁縫、草取り、清掃など多岐にわたります。いずれも自分の趣味や特技を生かしたり、日常生活の延長線上で行えたりする活動ばかりです。身体介護は含まれていません。
ボランティアを希望する高齢者は、まず説明会に参加し、活動先のカテゴリーを選択したうえで「シニアサポーター」として登録します。その際に配布される介護施設などの登録団体リストをもとに自分で各施設に連絡をして受け入れが決まったら活動を開始するという仕組みです。この制度の運営を委託されている静岡市福祉協議会の事業報告書によると、2021年3月末時点のサポーター登録者数は6999人(男性1602人、女性5397人)で、年代別にみると70~74歳(2333人)が最も多く、80歳以上で登録している人も1700人いました。
一方、この事業に参加する登録団体は848施設で、介護施設が386施設と最も多く、S型デイサービス(*)が275施設、在宅高齢者支援等が151施設、障害者施設等が31施設、病院が5施設という内訳です。また、活動先の登録として最も多いのはS型デイサービス(登録者数3537人)でした。
*S型デイサービス・・・「地域ミニデイサービス」の通称。体が不自由、一人暮らし、家に閉じこもっているといった高齢者らの生きがいづくりや社会的孤立感の解消、健康な体づくりを目的とした活動。地区社会福祉協議会が主体となり、民生委員・児童委員のほか、地域住民のボランティアが運営している。歌やレクリエーション、体操などをしながら同じ地域に住む高齢者同士楽しく語り合える場となっている。
受け入れはスピード感と利用者ニーズを重視
カリタス有東では、この静岡市のルールのもとシニアサポーターのボランティア受け入れを行っていますが、受け入れにあたってはスピード感が重要だと指摘します。
「せっかく連絡をもらってもやりとりの回数が多いと立ち消えになってしまうこともあるからです。電話がかかってきたら、その場で日程を決めるくらいの勢いが大事です。それには、施設側がボランティアに何をしてほしいのか、日ごろから明確にしておく必要があります」
その際のポイントは利用者のニーズです。
「例えば直接的なものでいえば囲碁や将棋の相手、同年代とのおしゃべりなどがあります。配膳、下膳、清掃などの家事的サポートをお願いするといったこともあるでしょう。いずれをするにしても利用者さんの満足度を重視し、そのニーズに着眼しボランティアへの頼み事を探すようにしています」
ボランティア担当の職員を固定化し、関係性を深める
また、受け入れの窓口となる職員がその都度違うと、ボランティアへの対応ノウハウが蓄積されず関係性も構築されないので、固定化することが望ましいそうです。
「当施設では2人の相談員が受け入れ窓口を担当しています。『最初の電話の応対が悪く、その施設にボランティアに行くのをやめた』というシニアサポーターさんの声を聞いたことがあったので、担当職員のボランティアへの対応についてはマンツーマンで指導しました」
ボランティアの方たちの継続性を促すため、受け入れ側としては空白をなくすためには、活動終了後のコミュニケーションが大切です。
「芸能披露のボランティアを受け入れたら、その日のうちに次回の予定を決めるようにしています。万事、この方法でボランティアの受け入れを調整しているので、2~3カ月先まで芸能披露の予約は埋まっていますし、ボランティアのリピーターも多くなっていきます」
さらに、関係性が深まってくると「こういうことをしてくれるボランティアさん、いないでしょうか」と、地域での人脈や情報を持つシニアサポーターに相談すると、適任者を紹介してくれることも少なくないそうです。
「市の配布リストに掲載されている800余りの登録団体の中から当施設を選んでもらえる確率はそれほど高いとは思えません。連絡をくださってつながることができたシニアサポーターさんは一人も逃したくないし、来てくれるのを待っているだけではボランティアは集まりません」
得意なことを担当してもらいリピーターに
カリタス有東では、芸能披露のように単発で来てくれるボランティアのほか、介護助手のように周辺業務を定期的に担ってくれるボランティアもいます。
「デイサービスに1人、認知症対応型デイサービスに2人来てもらっています。最初は話し相手や傾聴などのボランティアから始めてもらい、3年経った現在は週2回、3~4時間程度まで時間を増やしてもらえたので、レクリエーションの補助やお茶出し、下膳、配膳、清掃など職員のアシスタントをお願いしています。台所まわりのことはシニアサポーターさんのほうが詳しいので、職員が食器の置かれている場所などを尋ねることもしばしばです」
「自分たちがやってほしいことを一方的に依頼する事業所もあるようですが、それではリピーターになってもらえません。あくまでボランティアですからシニアサポーターさんに満足してもらうことが何よりも大事なのです」
とはいえ、戦力になってもらうことも期待したいので、介護施設でのボランティアが初体験の人はデイサービスに、介護分野での勤務経験がある人は認知症対応型デイサービスに振り分けています。
市外居住者や65歳未満の人たちもボランティアで取り込む工夫
また、年間を通して活動してもらえる仕組みづくりにも取り組んでいます。
「市のルールでは1時間につき100ポイントが付与され、1日の上限は300ポイント、1年間の上限は5000ポイントと定められており、積極的に活動するシニアサポーターの場合、3~4か月で上限に達します。ポイント数を達成すると活動しなくなる人もいると聞いたので、当施設ではオリジナルのポイントカードを作成し、クオカードと交換するなど継続への意欲を高めることに活用しています」
このポイントカードを作ったことで静岡市以外の地域で暮らす高齢者や65歳未満のボランティアも受け入れやすくなりました。夏休みなど長期休暇の際には「キッズサポーター」という名のもとで、パート職員の子どもを対象としたボランティアも受け入れています。
一方で、ポイントをためることを活動目的としていないシニアサポーターもいるそうです。
「このような人は時間の制約がないため、就労の対象になると考えています。当施設ではすでに70代のドライバーさんや介護助手さんをパート勤務で雇用しており、その受け皿はあるのです。しかし、シニアサポーターさんに有償ボランティアや短時間パートを打診しても、『賃金が発生すると仕事になるから荷が重い』と断られることもあります。できるだけ長く活動してもらうためには、いろいろな活動スタイルを用意したうえで、一人ひとりの目的や意向を尊重することが重要だと思っています」
ボランティアという形で地域の人たちの助けを借りる
静岡市社会福祉協議会によると、シニアサポーター登録者の高齢化が課題になっており、65~74歳の登録者数を増やすことを目標に掲げています。
一方、カリタス有東では、ひきこもり状態の人たちの社会復帰を目的としたボランティア活動など、シニア以外の世代も積極的に受け入れています。障害者雇用にも熱心で、近年は短時間勤務を希望する若い母親のパート職員も多く雇い入れています。
「多様な特性を持った人たちが個々の得意を生かしながら働ける職場づくりが、介護現場の人手不足を解消し、利用者さんも働き手も満足できる決め手になると考えています」
そのためには、オールマイティーに介護業務に携わる若手・中堅職員のマインド・セットが不可欠です。
「介護助手のできることに目を向けさせて、『この人たちが周辺業務をしっかり担ってくれているから自分たちは介護のプロの仕事に徹することができる』と管理者が根気よく伝えていくことが必要です。シニアサポーターなど周辺業務に従事してくれる人を導入してから1~2年は職員の不満も聞かれましたが、こうしたことを続けることで3年目になると理解を示してくれるようになりました」
山間部など立地によってはボランティアが集まってくれない施設がある中、カリタス有東は街中にある地の利を十分に生かしていきたいといいます。
「シニアサポーター事業を通して地域には高齢者をはじめ、人や社会とのつながりや人の役に立つことを重視する人たちが大勢いるのだと実感しています。ボランティアという形で地域の人たちの助けを借りることも、これからの介護施設の運営において求められてくることではないでしょうか」
足立晶子さんからのメッセージ
地域の人や社会とのつながりを持ちたくて活動中
- 足立晶子さん(あだち・あきこ)
- 74歳。結婚後も実家の稼業を手伝うなどして働いてきたが、2001年からヘルパーとして訪問介護に従事。70歳を超えたので訪問介護の仕事を減らし、18年9月からボランティア活動に切り替える。カリタス有東でのボランティアは4年目に。夫、次女の3人暮らし。
2001年から訪問介護のヘルパーとして在宅の方々の身体介護を中心に高齢者の身の回りのお世話をしてきました。受け持っていた利用者さんを一人ずつ見送り、気がつけば70歳を超えていました。事業所から新たな訪問先を打診されたのですが、高齢なので仕事は入れずに以前から興味のあったボランティア活動に切り替えることにしたのです。
静岡市が「元気いきいき! シニアサポーター事業」を実施していたのは知っていたので、18年9月に登録し、すぐにカリタス有東でボランティア活動を始めました。地域ごとに開かれていた説明会で、センター長の山田洋治さんに出会ったことがきっかけです。「ヘルパーの経験を生かして認知症対応型デイサービスで利用者さんの傾聴をしてほしい」といわれ、それなら私の得意なことだと思ってお引き受けしました。
3年経った現在は、話し相手や傾聴だけでなく、お茶出しや配膳、下膳など介護の周辺業務にも携わっています。お世話をしているのは認知症の利用者さんなので、マスクで私の表情がわかりにくい分、明るく接することを心がけています。
ボランティア活動する施設は自宅から近いほうがいいですよ。私は単発ではなく継続的に活動したいこともあって、通いやすさは重視しました。それから施設長さんのお人柄や職員さんとの相性、人間関係も大事。長く働きたいのなら、この点はボランティアであっても譲れません。
ボランティアではあるものの、施設側も重宝してくださって、今年10月から活動時間を週2回・3時間から週2回・4時間半に延長しました。シニアサポーター事業の1週間の活動時間の上限を超えるため有償ボランティアを打診されたのですが、賃金をいただくと仕事になるのでお断りしました。そもそも地場産品とのポイント交換もボランティアをするうえでの動機付けにはなっておらず、地域の人や社会とのつながりを持っておきたいという気持ちのほうが強いのです。「この年齢でも働かせてもらってありがたい」という感謝しかありません。健康で必要とされている間は、この施設でボランティア活動を続けたいと思っています。
▼介護の現場で働き続けられる理由と条件
- 自分の経験や知見を生かせる場がある
- 地域の人や社会とのつながりがある
- 施設長の人柄がよく、職員の人間関係も良好
- 自宅から近くて通いやすい
2017年10月設立(センター長・山田洋治)。デイサービスを中心とした在宅サービスを提供。通所リハビリに匹敵する機能訓練や3種のセレクト昼食、カルチャースクール形式のレクリエーション、温泉と同じ入浴設備など利用者の満足度を追求したサービスを揃える。デイサービス定員55人。認知症対応型デイサービス12人。利用者の平均年齢は84~85歳。要介護度の平均は1.5。職員数は35人(正職員8人、非常勤職員27人)。職員の平均年齢は45歳。