これからのKAIGO~「自分にできる」がきっと見つかる~

介護の働き方改革 キーワードは「生きがい就労」と「多世代交流」

介護予防、フレイル予防の処方箋として重要なのが社会的役割です。東京都健康長寿医療センター研究所の「社会参加と地域保健研究チーム」研究部長である医師の藤原佳典さん(59)は、ライフステージに応じた社会活動として元気な高齢者には「生きがい就労」が効果的だと指摘しています。ボランティアでなく就労であり、お金に価値を置くのではなく生きがいに価値を見いだす。シリーズ「これからのKAIGO~『自分にできる』がきっと見つかる~」の6回目は、生きがい就労を深掘りしました。

課題:アクティブシニアや地域を巻き込むメリットを見いだせない

介護イノベーター:藤原佳典さん(ふじわら・よしのり)
北海道大学医学部卒業。京都大学医学部附属病院老年科などを経て、2000年から東京都老人総合研究所研究員、11年より東京都健康長寿医療センター研究所 社会参加と地域保健研究チーム研究部長(チームリーダー)。「世代間交流」「多世代共生の地域づくり」「ソーシャル・キャピタル(社会資本関係)」の視点から高齢者の認知症予防とフレイル予防の研究を続ける。高齢者就労支援研究会「ESSENCE」を主宰し、高齢者就労についての多面的な意義について研究を進めている。

就労はフレイル予防の重要なカード

高齢者の社会活動は、就労、ボランティア活動、趣味・稽古の活動、友人・近所づきあい、通所サービスの利用といったように、さまざまな方法があります。少子高齢化で生産年齢人口が減少する中、高齢者の中には生涯現役を望む人がいたり、就労へのニーズが高まったりしています。介護の仕事と似たようなことを行うことがある、ボランティアに対する感覚も変わってきているようです。

「ボランティア活動を呼びかけても、以前のように高齢者の心にはそれほど響かず、今や就労が社会参加や社会貢献の重要な柱になりつつあります。地域に根ざした高齢者の就労支援のあり方を考えていく必要があるでしょう」

健康寿命を延ばすことが社会の大きな課題となっています。加齢に伴い、体力や気力が弱り始めることは自然なことですが、そうした要介護状態になってしまう危険性が高い状態であるフレイル(虚弱)の予防のため、高齢者の社会参加の一つである就労は、重要なカードになっています。ライフステージに応じた社会活動をすることが、フレイル予防、介護予防につながっていきます。

目的は収入より生きがいに重きを

高齢者の就労がもたらすメリットはどのようなものがあるのでしょうか。藤原さんは、収入を得ることのほか、次のようなことを挙げます。

  • 外出頻度
  • 知的活動
  • 社会とのつながり
  • 生きがい

このほか、社会にとっては消費や納税というメリットもあります。

一方、高齢者一個人に目線を落としてみると、就労と健康リスクには関連性があるとされています。

「私たちの調査研究では、健康の維持において就労の目的がより重要であることがわかっています。東京都大田区在住の就業している高齢者945人を対象に、就労の目的と2年後の健康悪化リスクの関連性について調べたところ、生きがいを目的とした人に比べてお金のみを目的とした人は主観的健康感の悪化リスクが1.42倍、生活機能悪化リスクが1.55倍高いことが明らかになりました。つまり、健康面からみた場合、高齢者の就労では生きがいを目的とすることがとても重要なのです。だから生きがい就労なのです」

感謝の言葉を直接もらえる仕事

「高齢者の生きがい就労に、介護や福祉の業界はもっと注目すべきだと思います。例えば、(周辺業務を行う)介護助手として働いている高齢者にヒアリングをすると異口同音に『直接感謝される仕事はやりがいがある』という言葉が返ってきます。サービスを提供する利用者だけでなく、同僚の若手職員から感謝されることも大きな励みになるようです」

コロナ禍により社会活動が制約されてきました。しかし、同じ施設でも、高齢者によるボランティアは一斉に活動中止を余儀なくされましたがが、高齢者の介護助手は若手や中堅職員と同様にシフト通り勤務しているそうです。

リア充のポイントは「役に立っている」という実感

生きがい就労を目的とする高齢者は「自分が役に立っている」という充実感を重視する傾向が強いため、その成果を得られやすい介護助手の仕事が最適だとも考えられています。なぜなら、この仕事は日常生活の延長線上のスキルがあれば誰でもすぐに取り組めるものだからです。

そして、若手や中堅職員にとってもメリットになるようにシニア職員の活用を考えていくことが肝心です。

「朝型の生活スタイルで土日でも時間にゆとりがある高齢者は、子育て世代のパート職員が働きにくい時間帯をカバーすることができます。両者をうまく組み合わせることにより、それぞれが短時間労働であっても全体として業務をスムーズに回していくことが可能になります」

藤原さんたちの調査研究では多世代が交流することは、高齢者だけでなく、20代~40代のこころの健康においても良い影響を与えることがわかっています。

「これは一般市民を対象とした調査結果ですが、介護施設においても同様の結果になると考えられます。シニア職員が若い職員のよき相談相手になっているという話もよく聞きますから」

効果が出やすい中規模以上の介護施設

一方、介護助手として高齢者を雇用しやすいのは専門性の高い仕事とそうでない仕事の切り分けと委譲がしやすい中規模以上の介護施設だそうです。

「小規模施設は少人数のスタッフで運営しているため、何でもこなせるマルチタスクの人材を欲しがる傾向があり、高齢者の雇用が難しい印象があります」

また、介護施設の規模にかかわらず「マルチタスクな人材ではないと介護のプロとはいえない」といった風潮が根強い職場では、新しい働き方である介護助手の導入がうまくいかないそうです。

「なぜなら、生きがい就労であってもスタッフとして雇われているという意識が強い高齢者とうまくやっていくには、若手や中堅職員のマインド・セットが不可欠です。なかでもキーパーソンとなるフロアのリーダー格の職員には、介護助手のコーディネートやトレーニングに特化したリーダー研修を受けてもらうことも必要でしょう」

高齢者に響かない求人情報と響く求人情報の違い

求人活動においても工夫が大切です。シルバービジネスの一つとして中途半端な形で求人情報を発信しても、生きがい就労を目的とする高齢者には届かないか、あるいは届いたとしても心に響かないそうです。

「募集はターゲットを絞りましょう。子育てを終えた主婦や学生などにも対象を広げて母集団を大きくするより60~75歳までのアクティブシニアに限定し、生きがいを前面に押し出す方が応募者は集まることがわかっています」

さらに、個々の介護施設が散発的に取り組んでも社会の空気は作れず、地域に広がっていかないといいます。

「各地の先例を踏まえると、自治体や社会福祉協議会と組んでイベント化することが重要です。ボランティア講座などの最後に介護助手の募集案内をするのも効果的だと聞いています。その際も情動的に呼びかけることが肝心で、ある市では若い職員が『介護現場は人が足りなくて本当に大変です。みなさん、助けてください』と訴えたら、それを意気に感じた高齢者たちが『そういうことなら手伝いに行こう』『おこづかいがもらえるのならありがたい』と多数応募してくれたそうです」

シニア職員は地域との架け橋や将来の顧客という認識を

高齢者の採用に関しては、施設から徒歩や自転車通勤圏内の地域に限定することも重要なポイントです。

「介護ビジネスは地域包括ケアの枠組みの中で考えていくものです。最初は就労目的でやってきた高齢者も、働いているうちに施設の様子がわかってきます。居心地が良ければ『自分が世話になるときはこの施設にしよう』と将来の選択肢の一つになります。つまり、シニア職員は将来の顧客ともいえる存在なのです」

シニア職員が介護を受ける立場になっても介護職員とはすでに気心が知れているのでお互いにストレスが少なく、施設に対しても愛着があるので運営に協力してくれることも期待できます。

一方、地域に向けてさまざまなイベントを実施する際にはシニア職員が地域の人を呼び込んでくれたり、地域のキーパーソンとの架け橋になってくれたりするメリットがあります。

「これは施設と生活圏をともにするシニア職員ならではの役割で、施設がある地域とのかかわりが薄い若手や中堅、外国人の職員には担えないものです。シニア職員は介護施設が地域とのつながりを深めるうえで心強い味方になってくれるでしょう」

三方良しの地域づくりを

介護や福祉業界で高齢者の就労を推し進める際、念頭に置いておきたいのが三方良しの精神です。すなわち、高齢者本人だけでなく、同じ職場で働く同僚、そして地元の地域社会にもメリットをもたらすような仕組みを考えることが重要です。

「さまざまな調査をしていると、介護助手に接している職員ほど介護助手に対する評価が高く、介護助手を導入している介護施設は人間関係も総じていいように思います。職員間の多世代交流が介護現場におけるコミュニケーションを促進し、こうした好環境を生み出しているのでしょう。人手不足の介護や福祉業界に変革をもたらすのは、まさに高齢者の生きがい就労と多世代交流なのです」

地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター研究所

澁澤栄一が初代院長として運営した、我が国の福祉事業所の草分けである東京養育院をルーツとする。1972年の開設以来、超高齢社会がもたらす諸問題の解決に向けた研究に取り組んできた。「社会参加と地域保健研究チーム」では、持続可能な地域共生社会の実現に向けて、生活機能が自立した高齢者を主な対象とし、プロダクティビティ(社会貢献)の増進とヘルシー・エイジングの推進、さらには社会とのつながりの中で抱える課題の解明に寄与する研究を行っている。

あわせて読みたい

この記事をシェアする

この連載について