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これからのKAIGO~「自分にできる」がきっと見つかる~

介護の働き方改革 マッチングサイトはゲームチェンジャーになれるか

シェアリングエコノミーは、介護現場の人手不足を解決するゲームチェンジャーになるのか――。
そんな壁に挑戦する企業がでてきました。「Sketter(スケッター)」は、身体介護以外の手伝いを求める介護サービス事業者と有償ボランティアを希望する人をつなぐマッチングサイトです。関東を中心に徐々に全国に広まりつつあります。1日単位ですが、それが逆に両者にとって、失敗しない人材発掘や失敗しない就職への「お試し」という利用方法もでてきました。シリーズ「これからのKAIGO~『自分にできる』がきっと見つかる~」の4回目は、働き手の探し方の一つとしてシェアリングエコノミーの手法を深掘りしてみました。

課題:介護現場の働き手はどこにいるのか

介護イノベーター 鈴木亮平さん(すずき・りょうへい)
29歳。大学卒業後、アイティメディア株式会社に入社。3年間の記者生活を経て、学生時代から興味を持っていた介護分野で起業を決意し、2017年に株式会社プラスロボを創業。代表取締役CEOに就任。資格や経験を問わず、誰もが自分のできること、空いている時間で介護事業を支えられる仕組みを模索する中で、スケッター事業の構想にたどり着く。

身体介護以外の手伝いを求める介護施設と有償ボランティアをマッチング

株式会社プラスロボ代表取締役CEOの鈴木亮平さんが考える、アクティブシニア活用のための事業者側のポイントは次の五つです。

  1. 施設の魅力を伝え、地域全体で支え手を掘り起こす
  2. 資格や経験を問わない生活支援の分野で人材を活用する
  3. 職員が対応できないことや負担に感じることを得意な人にやってもらう
  4. 目標や課題からさかのぼって有償ボランティアに依頼する作業を絞り込む
  5. 職員と有償ボランティアは対等な関係であるというマインドセット

株式会社プラスロボ(以下、プラスロボ)は、2019年からスポット的に身体介護以外の手伝いを求める介護施設と、すき間時間を利用して有償ボランティアをしたい人をマッチングするスケッター事業に取り組んでいます。2021年9月現在、スケッターに登録する有償ボランティアの数は首都圏を中心に約2600人います。毎月70~80人のペースで新規登録者が増え続けているそうです。

「昨年までは20代の登録者が大半でしたが、この仕組みが新聞やテレビで取り上げられてから30~50代の登録者が増えてきました。いまは30代以下の登録者は全体の6割です。また、男女比は4対6でやや女性のほうが多いです」

Sketterのwebサイト

すき間時間を利用して有償ボランティアをしたい人、推計400~500万人

登録の動機は年齢によってさまざまです。20代の場合は福祉系の仕事をしていた経験があり、自分なりにこの業界に細く長くかかわりたいと考えている人が目立ちます。40~50代の場合は、親の介護が身近になり、介護施設のことをよく知りたいと応募してくる人が多いそうです。しかし、いずれも共通するのは介護の世界に興味があること。鈴木さんは、この人たちを介護施設の働き手として活用しないのはもったいないと考えます。

「僕自身、学生時代から介護分野に興味があり、慢性的な人手不足に陥っていることは知っていました。それで最初はロボットで解決しようと思ったのです。しかし、質の高い介護を提供するには最後まで人のサポートが欠かせないことに気づきました。人口が減少する中、シェアリングエコノミーの考え方が必要だと悟りました」

家事代行といった生活支援系のマッチングサイトを調べてみると、すき間時間を利用して有償ボランティアをしたいと考える人が日本全体で推計400~500万人もいることがわかりました。

「この層を介護の世界に引っ張ってきて介護施設と接触機会を作ることが、慢性的な人手不足を打開するブレイクスルーにつながるのではないかと考えるようになりました」

こうして鈴木さんは、構想に1年かけてスケッターの仕組みを作り上げたのです。

スケッターから長く働いてくれる職員を見つけて育てていく

2021年9月現在、スケッターに登録している介護施設は約300カ所です。そのうち、実際に有償ボランティアを活用している介護施設は約100カ所になります。スケッターには無料登録ができますが、有償ボランティアを受け入れた時点で情報掲載料などを含むシステム利用料が発生します。その月額の費用は介護施設の規模によって2万~5万円の差があり、平均は3万円だそうです。

「同じ人物が介護業界内で転職を繰り返すような構造がある中、当社では『施設の魅力を伝え、地域全体で支え手を掘り起こす』というサービスコンセプトを掲げています。つまり、スケッターは安い労働力を確保する場ではなく、施設の理念や運営方針に共感してくれるファンを作る場です。そして、このファンの中から長く働いてくれる職員を育てていくことが真の目的です。ゆえに当社に登録されているのは、このコンセプトに賛同し、『人手不足を解消したいから誰でもいい』といった負の採用ループから抜け出したいと考えている介護施設が多いです」

過去のデータを分析し、マッチング率が高いお勧め作業を提案

プラスロボでは、このような志向性を持つ介護施設を単なる人材マッチングに留まらない、きめ細やかなシステムで支えています。

「スケッターを利用するにあたり、最初に有償ボランティアに依頼する作業を業務の中から切り出して決めてもらいますが、各施設が自力で行うのは難しいため、当社が作成した70種類の作業を切り出した『お手伝いカタログ』から依頼する作業を選んでもらっています」

お手伝いカタログの最大の特徴は、その施設が設定するゴールや解決したい課題からさかのぼって有償ボランティアに依頼する作業が絞り込めることです。最初にプラスロボが設定した三つのゴール設定・目的(1:施設のサービスを向上させる、2:採用力・広報力・発信力を高める、3:地域住民とのつながりを強める)の中から自分たちが達成したい項目を選択。項目ごとに整理された作業を選んでいけばよい仕組みになっています。

さらに、過去のデータをもとにお互いに満足ができるマッチング率の高い作業を分析し、お勧めの作業としても介護施設に提案しています。具体例としては、「配膳下膳・お皿洗い」「話し相手・見守り」「散歩の同行」「音楽レクリエーション活動」「インタビュー・動画作成」「YouTube配信」などがあります。

介護施設で活動するスケッター(提供写真)

イメージストーリーを職員が共有することが成功のポイント

同時に、介護施設には「この作業をまかせると、職員はこんなことができる、施設はこう変われる」といった有償ボランティアを活用した、その先のイメージストーリーを具体的に伝えていきます。

「職員が対応できないことや負担に感じることを、得意な人(有償ボランティア)が代わりにやってくれるのがスケッターを導入するメリットだからです。それによって施設の課題を解決し、サービスの質を向上させることが本来の目的です」

そのため、鈴木さんは職員と有償ボランティアはあくまで対等な関係だと指摘します。このことを施設側がよく理解していないと有償ボランティアの受け入れはうまくいかないといいます。

「スケッターの導入は、経営者、施設長、現場が一体となって取り組む全社プロジェクトであるという意識改革が必要です。現場の職員にもミーティングに参加してもらいながら、このマインドを共有・理解してもらうことが欠かせません」

鈴木亮平さん

介護施設の「見える化」戦略が人材発掘の好循環を生み出す

一方、有償ボランティアには自分のスケッター体験をもとにクチコミレポートを書いてもらい、それをサイト内で公開しています。この仕組みは、介護施設の「見える化」につながり、ほかの登録者が介護施設を選ぶときの参考になるだけでなく、フルタイムの正規介護職員として働ける職場を探したり、親を入所させる介護施設を検討したりしている人たちへの情報としても活用されています。

「クチコミレポートを通して可視化されることの重要性を介護施設が認識するようになると、スポットで働く有償ボランティアであっても自分たちの施設のよさをしっかり伝え、相手にまたボランティアをしたいと思わせるような対応を心がけるようになります。それが好循環を生み、マッチング率や満足度にも反映されてきます」

スケッターに登録する有償ボランティアのモチベーションは相対的に高く、介護施設の対応に満足していれば、立地はそれほど問題ではなく、移動時間が1時間程度でも高率にマッチングするといいます。

「コロナ禍以前のことですが、秋田県の介護施設が夏祭りのお手伝いを募集したら、首都圏の大学生が面白そうだと何人も有償ボランティアに参加したという事例があります。彼らは観光するのも目的の一つだったので、自分たちで交通費を負担していました」

スケッターを卒業して職員の道へ

また、リピーターを繰り返すうちに有償ボランティアがパート職員になったケースもあります。

「スケッターの利用規約に就労報告の義務はないので、正確な数字は不明ですが、2020年には20~30人の有償ボランティアが介護施設で働き始めたと推測しています。短時間でも毎週定期的に活動するようになれば、それはパート職員の位置づけとなり、スケッターからは卒業だと考えています」

有償ボランティアの勤務中にトラブルが起こったときは、プラスロボが加入する損害賠償保険で対応するため、介護施設にも有償ボランティアにも金銭的な負担は発生しません。

高校生や大学生の空き時間をマッチングへ

プラスロボでは今後、有償ボランティアの担い手として高校生や大学生の活用も視野に入れています。2021年の11月1日から広島県の府中市と福山平成大学と連携し、スケッターに登録した大学生が空き時間を利用して府中市内の介護施設に有償ボランティアとして働く仕組みを開始しました。

「最初は福祉系学部の学生から実施します。現場でのボランティア経験を通して介護業界への就職を促すほか、ミスマッチを防ぐ狙いもあります」

また、学生から家庭内クチコミが広がり、親世代を中心に地域の介護人材を発掘することも期待できるといいます。過去の事例では、高校生がスケッターに登録し介護施設でアルバイトしていたところ、その母親も興味を持ち、有償ボランティアを経験した後、パート職員として介護施設に勤務するようになったことがあるからです。

10月からは川崎市社会福祉協議会とも連携を始めました。社協のほか、市内10カ所の施設にもスケッターを試験導入してもらい、効果を検証しています。すでに社協主催の研修の手伝いや募金活動、清掃活動の手伝いとして67人がマッチングしているそうです。本格的な導入の可否を見極めるため、マッチング実績や効果を調べています。有償ボランティアという入り口を通じて、若い世代にも社協や介護の現場の取り組みを知ってもらう狙いがあります。

「これまでのように即戦力ばかりを追い求めても介護人材の奪い合いになるだけです。育成に多少時間がかかったとしても、いろいろな人を受け入れていくことが人手不足の解消に確実につながります。それには、まず介護施設が地域の福祉拠点としてのマインドを持ち、公民館や図書館のように誰でも気軽に立ち寄れるような場所になることが理想でしょう」

株式会社プラスロボ

2017年2月設立。主事業は介護福祉に特化したスキルシェアサービス「スケッター」の運営。社員数8人。「介護業界の関係人口を増やし、人手不足を解決する」をミッションとし、最近は自治体や大学とも連携しながら、介護事業への参画を通じた地域づくりにも乗り出している。

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