「知恵と根性の結晶」これから会議フィナーレ 対話はこれからも続く
取材/コスガ聡一
新型コロナウイルスの流行拡大という未曽有の事態に見舞われたこの1年。およそ8千か所に上る全国の認知症カフェもまた、休止や変更を迫られるなど大きな影響を受けました。国も自治体も認知症カフェの今後について明確な見通しを示せないなか、カフェ関係者がそれぞれの工夫やアイデアを持ち寄って打開策を探ろうと始まったのが「認知症カフェこれから会議」です。第1回オンラインシンポジウムが開催されたのは2020年6月14日。以後、1年弱にわたりテーマとメンバーを変えながら計7回の対話を行い、3月28日(日)に開催された第8回オンラインシンポジウムをもって最終回となりました。これまでのパネリストが一堂に会し、あらためてこの1年を語り合ったフィナーレの様子をレポートします。
認知症カフェという視点からみたコロナとの1年
東京都世田谷区「オレンジカフェKIMAMA」代表の岩瀬はるみさんは、昨年6月のシンポジウムの時点では会場都合でカフェを休止していたものの、「なるべく早く再開したい」と語っていました。その後、感染防止策を講じ、参加人数を制限したうえで再開することができたそうです。コロナ下の自粛生活が続き、「高齢者のフレイルや認知機能の低下が進んでいる」という危機感を持っており、オンラインにも挑戦してみたものの「リアルが一番」という感想を述べました。
愛知県東郷町「昼の町内会」代表の田中恵一さんは、オンラインカフェの先駆者として第1回に登壇しました。感染拡大初期においてクラスターが発生した愛知県ではオンラインカフェへの関心が高く、問い合わせを受けたり、メディアに登場することになったりした1年だったそうです。田中さんはオンラインカフェが増えてきたことを前向きに評価し「これからもすそ野を広げるお手伝いをしていきたい」と語りつつ、一方で「地域にカフェがあり続けること」の重要性も認識しており、自らはリアルとオンラインを併催するハイブリッドという形でカフェを行っていると述べました。
もう一人、コロナ以前からオンラインカフェに取り組んでいたのが石川県金沢市「もの忘れが気になるみんなのHaunt」の道岸奈緒美さんです。昨年6月の時点で、小さな画面ではカフェを楽しめない当事者の人もいるなどの知見を語っていた道岸さんは、「大きなモニターに映してみたところ成功体験を得られた」という事例を紹介しました。一方で今後の課題としたのはリアルとオンラインでカフェを併催した際のファシリテーション技術について。人材の確保、育成の方法などこれから考えていかなければいけないと指摘しました。
オンライン上に「新しい地域」
名古屋市の地域包括支援センターに勤める鬼頭史樹さんは地域のカフェをサポートする役割を果たしながら、同時に自ら立ち上げた「borderless -with dementia-」という任意団体で全国規模の発信を行っています。今回鬼頭さんは「学びや情報へのアクセスの良さというオンラインの利点に対し、地域のカフェが再開できない状況が続き情報格差が広がりつつある」という認識を示しました。今後はオンラインで小さな場同士をつないでネットワーク化することを模索したいといい、それは新しい「地域」のあり方になるだろうと語りました。
東京都八王子市の地域包括支援センター長・中村真理さんの「八王子ケアラーズカフェわたぼうし」は、コロナ下においても休止しなかった常設型カフェの一つですが、やはりこれまで通りにはいかない難しさを痛感した1年となったそうです。それでも地域の家族会と認知症地域支援推進員との結節点としての役割などを果たすなかで、「オンラインの利点が次第に共通認識になってきた」と実感を語りました。これまで積み上げられてきた取り組みやニーズへの対応を新たな手法とどう組み合わせていくか、地域で模索が始まっていることを頼もしく感じているようでした。
同じ常設型ですが東京都千代田区の「きのこカフェ」は感染者も出た高齢者施設を会場としているために緊急事態宣言以降は1度もオープンすることができませんでした。オンラインの取り組みにもチャレンジしつつ、昨年秋以降は区内に本社を構えるファミリーレストランの協力を得て小規模な集まりから再開しているそうです。顔を合わせて一緒にパフェを食べながら「カフェは続ける価値がある」ということを確認できたといいます。
「行政」の枠を超えて
市内に認知症カフェがない一方、当事者を中心としたインフォーマルな活動を盛んに行ってきた和歌山県御坊市介護福祉課の谷口泰之さんは「これまでの活動がほとんどできない1年だった」と振り返りました。それでもできたこととして、オンラインで仲間たちをつなぎ、得意のDTM(デスクトップミュージック)で音楽制作を行ったエピソードを紹介。長崎県在住の福田人志さん(第5回登壇者)が「メインボーカル」として活躍するなど地域を超えた成果を得られたそうです。
福島県いわき市地域包括ケア推進課の橋本沙由里さんは、昨年9月に「これから会議」に参加したときには「いわき市でもオンラインを取り入れてみようと思った」といいます。しかしその後、多くの人が対面の場を楽しみにしていることが分かり、今はそちらの方向で努力をしているとのこと。まだ多くのカフェが休止しているものの、常設型に近い「いつだれキッチン」でのオレンジカフェが再開しており、必要な人にはそちらを紹介しているそうです。「行政の担当者の予想を超えた動きが地域で次々と起きています」と報告してくれました。
千葉県浦安市「オムソーリ・カフェ」の齋藤哲さんは、昨年の緊急事態宣言の際に開催場所の確保が難しくなり7年間休まず続けてきたカフェを休止。すると多くの人から再開について問い合わせを受け、「初めて認知症カフェが地域のなかでようやく根付いてきたと感じれられた」といいます。また浦安市議会議員でもある齋藤さんはいわゆる「認知症条例」の制定に向けて準備中であることを明かし、先行して独自の条例を制定した御坊市の谷口泰之さんと接点ができるなど「これから会議」に参加したことがいい結果につながりつつあると述べました。
哀しみを否定せず、1人ひとりの葛藤に焦点を
高齢者の生活や認知症について取材しているフリーライターの斉藤直子さんは、ケガで松葉杖生活を強いられた際、「家族から甘えてもいいよと言われても、社会の一員だと思うほど簡単には甘えられない」という思いをし、認知症の実母の心情に思いを馳せたそうです。そんな理屈ではない悲しみを否定しない取材者・メディアでありたいと自身の姿勢について述べつつ、認知症カフェにもまた「全部受け止める」場所になってほしいと希望しました。
パルシステムの情報誌『のんびる』で全国の居場所づくりを取材してきた濱田研吾さんは、第1回の岩瀬はるみさんや第6回の三橋良博さんを過去インタビューしてきたエピソードを披露。さらに「これから会議」が縁で斉藤直子さんにも最新号で寄稿を依頼していると明かしました。認知症について「ネガティブだったり、ノウハウ的な情報に終始したりの内容になるのではなく、ひとりひとりがどういう葛藤を抱いているのか、そのなかでどういう工夫をしているのかというところを取材していきたい」と語りました。
点から線、線から面へ。当事者のつながり
長崎県佐世保市「峠の茶屋」の福田人志さんは「町には買い物に行きやすい店舗とそうでない店舗がある」という参加者の声から始まった「商店街のマップ作り」について語りました。みんなで佐世保の街に繰り出して店を回り、どこのレジが買い物しやすい、安売りの時間帯があるといった情報や、信号や公共交通についての情報なども手作りマップに落とし込んでいるそうです。これもまたソーシャルディスタンスが求められ、室内の活動がこれまでのようにいかなくなった状況を逆手に取ったアイデアといえるでしょう。
兵庫県豊岡市「認知症カフェひまわり」の巻田菊さんは、2度目の緊急事態宣言が明けて再開した際のカフェの様子を紹介しました。たまたま同じ時間帯に東京都町田市の「Dカフェ」がオンライン開催していたため、巻田さんたちもその場からアクセスして参加したそうです。はじめてオンラインカフェを体験したみなさんにも好評だったようなので、今後の活動につながるかもしれません。カフェ同士をオンラインで結ぶというアイデアは前述の鬼頭さんの提言に通じるものがあります。
なかまぁる特別プロデューサーであり「第3の司会者」として「メディア」回に登場した丹野智文さんは、認知症当事者が認知症カフェの視察を行っていること、そして当事者同士で認知症や権利の勉強会を行っていることなど地元・仙台市での活動について語りました。カフェ視察について丹野さんは「怖いでしょう」といたずらっぽく笑いましたが、間違いなく今回集まったみなさんのカフェならいつでもウェルカムでしょう。
「場」があり続けることの大切さ
「認知症の人と家族の会」神奈川県支部や若年性認知症家族会「彩星の会」で世話人を務める三橋良博さんは、自分自身がかつて家族会の場に顔を出せなかった経験を語りました。三橋さんの体感的には半数以上の人がカフェの存在は知っていても中に入れないのではないかということです。しかし「いつか相談しに行ってみようかなと思う時が来る。そのためにカフェは継続していてほしい」と希望しました。
浄土宗・香念寺(東京都葛飾区)の若き住職・下村達郎さんは主催していた「介護者の心のやすらぎカフェ」が開催できなくなった昨年5月からオンラインカフェを始めました。オンラインだとなかなか新規の参加者が増えにくい傾向があるものの、継続していると徐々に増えてくるという手ごたえを感じているそうです。また従来の参加者でも急に家族の状況が変わる人もいて、不安や葛藤を分かち合える場所があり続けることの重要性を語りました。
千葉県浦安市職員の斉藤誠さんは、市内6か所のカフェすべてが2度目の緊急事態宣言で休止したと報告しました。一方で全市対象の地域ケア会議をオンラインで開催するなど、今後のための環境整備が進んでいると述べ、さらに「これから会議」での出会いをひとつの契機として浦安市議・齋藤哲さんとともにいわゆる「認知症条例」制定に動きはじめているとのことです。
広がる、浸透する「こぢんまり」の可能性
認知症だけでなく様々な事情のある人が一緒に活動するサーフィンサークル「ナミ・ニケーション」(神奈川県鎌倉市など)の代表者を務める柴田康弘さんは、今春の活動再開予定について語りました。さらに「せっかくパーソナルな認知症カフェと紹介していただいたので」と前置きしつつ、今年はコーヒーやパンを用意して「認知症カフェ・オン・ザ・ビーチ」とする目標を立てたそうです。地域のニーズやライフスタイルに合ったやり方ができるのは、まさにカフェの良さといえるでしょう。
アメリカ出身の実母・スーザンさんが楽しめる空間を作りたいとして、自宅で小さな認知症カフェを始めた村尾・メリー・香織さんは、奈良から東京へのスーザンさんの転居後、再開第1回目となる開催について報告しました。今年2月の「これから会議」で存在を知った生活支援コーディネーターに相談したところ、さっそく英語に堪能な近隣の人々を紹介されたそうです。その様子は「コッシーのカフェ散歩/愛しい人を真ん中に。新たな地で再開した小さな自宅カフェ」で取り上げています。
奈良県若年性認知症ピアサポーターの平井正明さんは、オンラインの利点とともに限界も良くわかった1年だったと振り返りました。そのうえで自身が参加してきた村尾さんの「ホームパーティ」のような、こぢんまりとした集まりをオンラインでつなぐというのが一つの理想形になるのではと考察。環境さえ整えれば認知症のある本人もオンラインを楽しめるのでサポートしていきたいと述べました。
京都府南丹市の社会福祉協議会で生活支援コーディネーターを務める上薗和子さんは、実行委員として関わっているカフェが今年度は2度しか開催できなかったと報告。参加者には手紙を送るなどしてつながりの維持に努めていると語りました。オンラインについては地域の民生委員や福祉関係者と練習会を行う機運が高まっているそうです。
認知症カフェのこれから、その先へ
全員が発言した後、シンポジウムは「認知症カフェこれから会議」の今後について話題になり、「なかまぁる」編集長・冨岡史穂さんが名称を変え幅広いテーマを話し合える場にしていきたいとの意向を示しました。意見を求められた齋藤哲さんは「カフェがケアプランに組み込まれるような環境整備」について議論したいと回答。また、岩瀬はるみさんは「自治体への政策提言」というアイデアを述べました。さらに鬼頭史樹さんはこの日多くの人が言及した「カフェ継続の重要性」というキーワードに対して「個々のカフェの継続性だけでなく、横のつながりがある地域としての継続性が重要」と指摘しました。
さらに中村真理さんが丹野さんらのカフェ視察をオンブズマン的であると評価し、「認知症カフェのベースラインを担保する取り組み」の必要性を語りました。これは岩瀬さんが示した「カフェはそれぞれの自由度が高いのがいいが、予防をうたっている(など、参加しにくい人を生みがちな)ところも多い。共通の基本理念がない」という問題意識に通じる意見であり、それを受けてモデレーターのコスガ聡一(本稿著者)が「認知症カフェ憲章の制定」という私案を述べて締めくくりました。
フィナーレに寄せて
全8回・合計12時間以上という世界最大級の認知症カフェシンポジウムが終わりました。コロナ対策だけでなく様々な角度から、その本質を語りつくそうという対話の試みに加わってくれたすべての仲間たちにあらためて感謝いたします。「認知症の人と家族、地域住民、専門職等の誰もが参加でき、集う場」という認知症カフェは、異なる立場の人との出会いが宿命づけられた場です。つまり「言わなくても分かる居心地の良さ」ではなく「常に対話しつづけなければならない居心地の悪さ」こそ本質といえます。分かり合えないこともあるかもしれない。でもあきらめるわけにはいきません。まさに知恵と根性の結晶である「認知症カフェこれから会議」の膨大な記録は、これからも対話をあきらめないすべての人々の勇気の源となるはずです。
コスガ聡一
これまでのシンポジウム動画はこちら
これまで開催されたオンラインシンポジウムは下記Facebookグループに参加(無料)するとすべて録画視聴することができます。どうぞいつでも、何度でもご覧ください。
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