避けられない戦争話 勉強不足に後悔 あるある探検隊の活動報告26
構成/福光恵 写真/レギュラーのマネジャー
「あるある探検隊」のリズムネタで一世風靡したお笑いコンビ・レギュラーの松本くんと西川くんは、いま介護施設をまわっています。テレビや劇場の一般客相手と違って、施設の利用者さんたちを笑顔にするのは、やっぱり難しい! そんな2人が見つけた、今日の介護現場の“あるある”は――。
介護レクリエーションの現場では、常に思いもよらないことが起きる。とくに、レギュラーの2人が場の空気をほぐすため、介護レクの冒頭で必ず行う「アイスブレイク」。利用者たちの個人的な話を掘り下げていくと、そこはもうハプニングだらけだ。
この日は、利用者たちの思い出話を聞かせてもらおうと、西川くんがこう問いかけた。思い出話は脳の活性化にもつながる、「回想法」と呼ばれるテクニックである。
「これまで旅行に行ってよかった場所はどこですか?」
「北海道」「熱海」「四国」——会場のあちこちから、さまざまな地名が挙がる。そんななか、「ハワイと、グアム、ヨーロッパ、それからパラオもよかったなあ」と答える、やたらと海外派の御仁が。見れば、イメージ通りのダンディーな男性利用者だ。
「すごいですねえ。ハワイは何しに行かはったんですか?」
そう掘り下げる松本くんに、男性利用者が答える。
「海がキレイなところが好きでね。ハワイの海はよかったなあ。グアムもキレイだった」
いつ行ったんですか? 家族と? へえ、ダイビングもするんですか——と話が弾む。そこで、松本くんがさらに聞いた。
「じゃあ、パラオも海がキレイだから?」
すると、低い声で一言こう答えるのだった。
「戦争や」
青い海と白い砂浜……そんな楽しい思い出話からの思いもよらない急展開に、思わず動揺する松本くん。一方の会場は、お笑いの基本である「三段オチ」のようなやりとりにドカンと大ウケ。
結果オーライと言えども、回想法は“いい思い出”ばかりが出てくるわけではないことを肝に銘じる松本くんなのであった。
松本くん あんときはハッとしたで。回想法が、悲しい思い出を引き出してしまうこともあるんやなって。介護施設で高齢者を楽しませるレクリエーションをするなら、戦争で日本が戦った場所くらいは覚えておかないといかん。つくづく、そう思ったわ。
西川くん 盛り上げるためとはいえ、なんでもかんでも話を広げればいいってもんじゃないな。僕も、まさかあそこで「戦争」の話が出てくるとは思わなかったから、一瞬、どんな顔をしていいのか迷った、迷った。
松本くん ふだんの劇場では、まずないことやからね。僕の場合は高校もサッカーのスポーツ推薦で入って、いままでちゃんと勉強した記憶がない。こりゃ、あかんわ〜!って、あのときの一瞬で、そこまでさかのぼって後悔してしまったわ。
西川くん なにげに松本くんのオカンは学校の先生だったりするからな。「勉強せえ!」と言われすぎて、かえって勉強しなくなったんやろうな。漢字もほとんど読めへんし。台本は、すべての漢字にふりがなが振ってある(笑)。
松本くん ほんましっかり勉強したといえば、介護の勉強が初めてくらいやないか。
西川くん そういえば、介護レクリエーションの勉強をしていたときにも先生が言ってたな。「基本的に利用者さんたちからは戦争の話が出てくると思ってください」と。
松本くん そうそう。「その場が暗くなることもあるから、気を付けてください」と教えてもらった。確かに、僕らも何度も経験してるしな。気軽に話を振ってみたら、10分くらいずっと戦争の話をしていた人もいたやん。
西川くん ネガティブな記憶を引き出さないようにする、というのは基本だけど、それでも出てくるもんや。僕らもドキッとするけど、それをなんとか笑いに変えるのがプロの技や。
松本くん あのときの利用者さんは、戦争でパラオに行ったことを、どちらかというと誇らしげに話してたやんか。それもあって会場が暗い雰囲気にならなかった。ほかの利用者さんも、「パラオに戦争で行った」っていう意外な答えにシーンとするかと思いきや、普通に笑ってたし。
西川くん 僕らみたいな戦争を知らない世代は「戦争」という言葉を聞いただけで、思わずビクッとしてしまうけど、ほんま、先生の言っていたとおり、高齢者の回想法では必ず出てくる話やもんな。避けては通れないってことやろうね。
松本くん どういう記憶として残っているかは、人それぞれ。利用者さんを楽しませるはずが、反対に暗い気持ちにさせないように、どっちにしても勉強はせなあかん。人生とは勉強やで!
西川くん 松本くん、それはたしかにアルな!
(編集協力/ Power News 編集部)