認知症とともにあるウェブメディア

介護の裏ワザ、これってどうよ?

26歳、夏休みの宿題「ばーちゃん植物観察手伝って」これって介護の裏技?

青山ゆずこです! 祖父母が認知症になり、ヤングケアラーとして7年間介護しました。壮絶な日々も独学の“ゆずこ流介護”で乗り切ったけれど、今思えばあれでよかったのか……? 専門家に解説してもらいました!

「まったくもう・・・」ポイッ、ポイッ

「一体なぜ……?」行動の背景には何がある?

じーちゃんとばーちゃんが認知症になったとき、ご近所さんには早々に二人のことを相談していました。
ゆずこが同居する前は母とオバが定期的に通っていたのですが、二人暮らしには限界があります。そんなときご近所さんは、ゴミ出しを手伝ってくれるなど何かと様子を見に来てくれていました。わたしも介護ド素人だったので、何かと相談したり力になってもらったりと、本当に色々と助けてもらっていたものです。

しかし、ある日のこと。フラッと外に出て行ったばーちゃんがなかなか帰ってこないので様子を見に行くと……。なんとお向かいさんが育てているオシロイバナを、ちぎっては捨て、ちぎっては捨てと繰り返しているではありませんか。
道端の塀に沿って綺麗に植えられているのに、それを無造作に掴んで捨てているばーちゃん。はたから見ると、ただの嫌がらせにしか見えません。

「ここに花を植えちゃだめなんだ」ばーちゃんのこだわり

一心不乱にオシロイバナをむしり取っているばーちゃんを説得しようとしても、まったく聞く耳を持ってくれないどころか、目線も合わせてもらえずスルーされます。やんわりと制してもすぐにまたちぎり始めてしまう。そこでカッ!となって勢いで止めるのではなく、「(ちぎって捨てることで)ばーちゃんは本当は何をしたいの?」と聞いてみました。すると、ゆっくりと口を開いて、
「……ここは道路だ。通る子どもや車の妨げになっちゃうじゃないか。事故が起きたら危ないから」
と呟いたのです。
実際にオシロイバナが生えているところは塀沿いで、車道にはギリギリはみ出していません。でもばーちゃん的には「みんなが通る公道で花を育てるなんて!」と、正義感が原動力となってそんな行動を起こしていたのです。正義感がとんでもない方向に突き進んでいたとはいえ、ひとまず嫌がらせではなくて良かった……のですが、どんな理由であれやめさせなくては。
お向いさんには以前からばーちゃんの認知症について相談していたため、「わかっているから大丈夫よ。気にしないで」と言っていただけたのですが、なんかもう、申し訳ない気持ちでいっぱいです。本音と建て前というか、一生懸命に育てた花を見るも無残な姿にされたら、わたしだったら相当がっかりするはず。

『ばあちゃん・・・』

そこで実践したのが、家じゅう、特に玄関周りや、ばーちゃんがよく座る場所周辺に植物を置いて、「自分ちの植木の世話が忙しくて、人の家の庭に構っていられなくなっちゃうZE☆」作戦です。最初はばーちゃんも「なんだいこれは!」とかなり戸惑っていたのですが、「夏休みの宿題で、植物の観察日記付けなきゃいけないの!」と真顔で言い放ったわたしの演技力が結構高かったのか、しぶしぶ水をあげるなど世話を始めたのです。※ ゆずこ26歳(当時)
ちなみに植物はミニトマトが8割、残りの2割はパンジーなど。「どうせ育てるなら食べられるものを」という、食い意地のはったゆずこチョイスです。

結果的にミニトマトの世話もほとんどわたしがやったのですが、それでもばーちゃん的に多少気が紛れたのか、オシロイバナ荒らしはゆっくりと落ち着いていきました。だがしかし! 家の中のミニトマトがことごとく食い荒らされるという連続事件が勃発! トマトを育てるなんて珍しくて、しかも美味しかったのでしょう。若干まだ青い部分が残っているトマトまで一粒残らずきれいに食べ尽くされましたとさ……。
ちょっと楽しみにしてたのに。けっ。

正論や力では“こだわり”は止まらない!

ばーちゃんの暴走を止めつつ、「あわよくば育ててもらったミニトマトでおいしいミートソースのパスタでも作って一石二鳥作戦」は叶いませんでしたが、この一連の出来事を専門家の先生はどう見るのでしょうか。
認知症の在宅医療推進や認知症情報の発信に積極的に取り組み、『認知症の人を理解したいと思ったとき読む本 正しい知識とやさしい寄り添い方』(大和出版)の監修を務める、湘南いなほクリニックの院長・内門大丈先生にお話を聞きました。

「認知症の人によく表れる症状でもあるのですが、ゆずこさんのおばあさんも『絶対にこうしたい』『こうでなければいけない』と、ご自身の中に“強いこだわり”があったのでしょうね。ゆずこさんの話では、元々正義感が強かったり、リーダー気質だったということで、おばあさんとしては『私が手入れをしてあげている』という感覚だったのかも知れません。認知症の人の世界を否定せず、うまく受け入れるというのは向き合い方の鉄則でもありますが、そればかり優先しても周囲との折り合いがつきませんよね。
そこで、ゆずこさんがとった“何か別のことに関心を向ける”という方法は正解です。意識を別のところに向けられれば、自然とこだわりや執着心も薄れてくるはずです」

これがもしご近所さんに「家族が認知症」という説明ができていなかったら、さらにご近所トラブルに発展してしまったかもしれません。ちぎれた花は元には戻らないけれど、色々と赤裸々に相談することで、勝手ながらも「わかってくれる人がいる」という安心感や、地域が支えになってくれるという実感につながる気がします。

内門大丈先生
内門大丈先生
湘南いなほクリニック院長。いなほクリニックグループ共同代表。日本老年精神医学会専門医・指導医。日本認知症学会専門医・指導医。認知症の在宅医療推進や認知症情報の情報発信に積極的に取り組んでいる。『認知症の人を理解したいと思ったとき読む本  正しい知識とやさしい寄り添い方』(大和出版)監修。

あわせて読みたい

この記事をシェアする

この連載について

認知症とともにあるウェブメディア