渋谷と認知症

若者の、福祉の、多様性のシブヤ どれも本当です 教えて課長さん2

東京都渋谷区が主催した「認知症なっても展」は、「そもそも認知症とは?」というところから、「認知症になっても大丈夫」と言い合える街づくりの指針を示す新鮮なイベントでした。引き続き、同区の小野健一高齢者福祉課長に話を伺います。

前編はこちら

※「認知症なっても展」「ラン伴+渋谷2019」の記事は来週公開予定です

見晴らしのいい区役所新庁舎15階で開かれた「認知症なっても展」の一角(2019年6月14日~28日)
見晴らしのいい区役所新庁舎15階で開かれた「認知症なっても展」の一角(2019年6月14日~28日)

ピカピカの新庁舎で斬新なイベント 「まずやってみる」精神で

――渋谷区は認知症予防に関する連携の協定を日本認知症予防学会、ソニーと結び、今年6月に「認知症なっても展」を開きました。その経緯を教えてください。

認知症の正しい知識の普及と重要性を感じ、何か新しいことが出来ないかと考えていたところに日本認知症予防学会から提携のお話がきたのです。2018年の秋ごろです。福岡を拠点とする同学会は西日本での取り組みが多く、東日本でもその知見を広めていきたい希望があったようです。渋谷区に話が来たのは、「発信力がある」「影響力がある」から、という理由だと聞いています。会場探しに難航することもあるのですが、今年1月に建て替えが終わった区役所新庁舎15階の「フリースペース428」が使えるとわかり、開催への機運が高まりました。

とはいえ、「人は来るのか」「期間は」「どの程度イベント性を持たせるか」など手探りで不安は大きかったのです。長谷部健区長に「やれる機会があるなら、やってみてから考えればいいじゃない」と背中を押され、年明けから一気に準備をはじめました。

「認知症予防大使」のフリーアナウンサー徳光和夫さんに出演いただく講演や区の施策に関するパネル展示などに加え、ユニークなイベントも試みました。左右で違う動きをして脳に刺激を与える、落語家・立川志ららさんの「シナプソロジー落語」や、人気バンド、元「JUDY AND MARY」のドラマー五十嵐公太さんによる参加型のパフォーマンス「ドラミングハイ!」を開いたり、渋谷駅近くに「かつお食堂」を開いた話題の女性「かつおちゃん」には、かつお節の匂いで昔を思いだそうという「かつお回想法」を開催してもらったりしました。ソニーとはAIやカメラを搭載した犬型ロボット「アイボ」の見守り機能で協働していて、会場に置いて来場者に触ってもらいました。

その結果、来場者は約4千人ほど。アンケートの好意的な意見を見るとやって良かったなと、開催できたことに感謝しています。

企業と協力し、認知症という社会課題を解決していきたい

――ソニーのほか、企業や他団体との協働も多いですね。

渋谷区では、地元の企業や大学と協働して社会課題を解決していこうという、S-SAP(シブヤ・ソーシャル・アクション・パートナー)協定という公民連携制度があります。地域のお祭りなどで地元企業が飲料を提供するような「点」の活動ではなく、区として企業と手を組んで大きく広く展開していこう、という渋谷区独自の協定です。セコム、京王電鉄、ディー・エヌ・エー、伊藤園、青山学院大学、津田塾大学……、有名な企業や大学ばかりです。高齢者部門では、キユーピーやシダックスなどと介護食、飲料などの分野で協働しています。認知症の方がおひとりで安心して外出できるようなまちづくりなど、解決していきたい課題もまだまだ多いので、ITテクノロジーなどを使って挑戦出来たらと。企業や団体、学校、メディア、他自治体と協力していけたら、と思っています。

医師会、薬剤師会、歯科医師会の「3師会」と良好な関係

――オリジナル体操には口腔(こうくう)ケアも入っています。認知症の予防にも関連しますか?

歯科医師会では「お口のアンチエイジング教室」という口腔ケアの講座を開催しています。のどや舌、唾液などについて調べ、口腔内や顔の筋肉を鍛えるストレッチなども教えます。これは医師会の取り組みを参考にしたものです。医師会では、「認知症サポート医」という制度によって認定された医師がおり、専門医でなくても認知症の患者さんの早期発見が出来る仕組みがあります。ならば歯科医師会でも「話す」「食べる」というところから認知症の早期発見やケアが出来るのではないか、という発想です。もちろん認知症だけでなく、「フレイル」(心身の活力が低下する状態)の予防を含めてやっています。渋谷区と「3師会」(医師会、薬剤師会、歯科医師会)の関係が活発で良好なこともよい循環になっています。

「認知症フォーラム2019」で、これからの街のあり方を語る小野健一・東京都渋谷区福祉部高齢者福祉課長
「認知症フォーラム2019」で、これからの街のあり方を語る小野健一・東京都渋谷区福祉部高齢者福祉課長

目指すはロンドン、パリ、ニューヨーク、シブヤ 発信力と多様性のある都市へ

――2期目の長谷部区長は47歳と若いです。施策に影響はありますか?

認知症への施策は、前区長からの流れもありますが、お話ししたような独自の施策は現区長が就任してからのものが多いです。民間出身という経験もあり、思いがけないアイデアに驚くことはありますし、実行へのスピードは感じます。ロンドン、パリ、ニューヨーク、トーキョーと表現されることがありますが、ロンドン、パリ、ニューヨークときたら各国の都市と並んで「シブヤ」と言ってもらえるような成熟した街づくりを目標にしています。そのためには多様性のある街こそが力を生むという理念もあります。「パートナーシップ証明書」(2015年)が目立って取り上げられましたが、「多様性」とはLGBTに関することだけではないですよね。福祉の面でも「高齢だから」「障害があるから」と意識して区切らず、すべての人が価値観の違いを超えて暮らしやすい街にすることが理想です。現場の希望を聞き入れ予算でも対応してもらい、区長のアイデアを現場で実践する。トップとの意識の差が少ないと物事を進めやすいということはあるかもしれません。

渋谷というとハロウィーンイベントや年末カウントダウンイベントなど楽しく派手なことばかり受け入れていると誤解されがちなのですが、福祉政策も非常に力を入れています。これは声を大にして言いたいところです。

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※「認知症なっても展」「ラン伴+渋谷2019」の記事は来週公開予定です

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