なってもいいか、と思えるよ。SHIBUYA「認知症なっても展」イベント
文・撮影/戸﨑美和
「認知症を楽しく!」でつなぐ試み
様々な場所で、アルファベットの「SHIBUYA」を見かけるようになりました。もはや漢字よりSHIBUYA!
渋谷区職員の名刺も「シブヤフォント」なるものを採用しつつ、色やデザインまで選べるらしいです。自由!! POP!! しかも自由にダウンロードでき、誰でも使えるんだとか。改めて、区として本気でダイバーシティを目指しているんだなぁ、と感心しました。
個人的には、可視化のあり方ってほんとうに大切だと思っています。文字のフォント、言葉の選び方、デザイン、視点の置き方など。見え方次第で、これまでの世界の映り方、捉え方ががらっと変わることを私は知っています。
大まじめなことを大まじめに伝える方法ではなく、ちょっとずらして見せる。
今回のイベントでは、「楽しく」「あたたかく」をキーワードにステージイベントや常設展を体験していたら、気づくと人ごとじゃなくて、自分ごとになっていました。おまけに帰り道、「もし自分が認知症になっても……ま、いいか」って、ポジティブになれるきっかけをお客さんに与えられたかも、そんな感がありました。
さて、実は今回は写真撮影での参加ではなくて、私が所属するグループホーム(認知症対応型共同生活介護)での事例を発表してきました。
テーマは「高齢者に音楽を! 日本のパーソナル・ソングを求めて」。認知症のチカラと音楽のチカラを掛け合わせたら、さて、どうなったでしょう。
心と体に、薬以上に必要な音楽
私たちの“ミニシンポジウム”は、会場の一角の特設ステージで行われました。登壇者は――
武蔵国分寺公園クリニック副院長 福士元春氏
エコロジーオンライン理事長 上岡裕氏
第一興商 音楽健康指導士 山岸利英氏
グループホームつつじ管理者 戸崎美和(私)
という面々。それぞれの現場での実践報告と、パネルディスカッションでした。
福士先生の発表は、訪問医療の現場に音楽療法士が同行しているというものでした。往診前に当事者と音楽療法士が関わることで、診察にいかに良く影響しているかを知れたことは発見でした。最近ではなんとイラストレーターまで同行しているらしく、福士先生のユーモアと柔軟な感性で、副作用のない医療を模索している姿が印象的でした。
上岡さんは、アメリカのドキュメンタリー映画『パーソナル・ソング』の上映会を全国的に行っていることと、その日本版の試みの発表でした。この企画のキーパーソンである上岡さんは元々、音楽業界の人。フットワークが軽く好奇心にあふれ、異業種を軽やかに越えていきます。音楽と高齢者を繋ぐ企画の数々に、改めて「認知症ケアにもっと音楽を」と実感したのでした。
山岸さんは自社の高齢者向けのカラオケ機器を用いながら、音楽と口腔ケア体操、音楽に合わせた各種体操、クイズ形式音楽カラオケなどを実践。発表の場でも実際の機器を使って本番さながらに披露すると、来場されていた方々から笑顔が! アクティビティのあたらしいアプローチを垣間見ました。
そして私の発表は、「認知症のチカラ×音楽のチカラ」を、どう実践したか、です。
「私だけの物語の延長を生きるためのパーソナル・ソングを探して」(個別ケア)
「ボディパーカッションと楽器、そして歌を歌う」(集団ケア)
この二つのトライアル経過報告でした。音楽のチカラが薬以上に心にも身体にも効くことを、映像を用いながら伝えたかったのです。
歌いながら調理。ベランダで鼻唄を歌いながら植物に水やり。買い物で外を歩いている時も自然に好きな歌が出てきますし、集団で音楽を楽しむこともあります。グループホームでの日々の暮らし、様々なシーンで、音楽は薬以上に必要です。
こんなエピソードがあります。あるおばあちゃんは車椅子生活だったのですが、好きな曲が流れると立ち上がってスクワットをしました。そして思い入れのある大切な曲をヘッドフォンで聴いた後、昔の夢を思い出して少女のような瞳で未来への思いを語ったのでした。
五感が揺さぶられ、点と点の記憶が繋がったときに語り始める、その人だけの物語をもっと聞きたい。「自分物語」の主人公として生きてもらえるよう、これからもケアのひとつとして取り組んでみたいと思っています。
今回のイベントではほかにも、丹野智文(なかまぁる特別プロデューサー)さんが「認知症とともに笑顔で生きる」と題して当事者の話をしたり、動物セラピー提案としてAIを搭載した犬型ロボットaiboが展示されていたり、ダンボールでドラムを作って参加者みんなで体を揺らしながら音を奏でたりなど、多くの見どころがありました(プログラムは下の画像で見られます)。日々の暮らしを楽しみながら、認知症とともに生きていく術をSHIBUYAらしく捉え、発信!です。
他職種や多世代を繋ぐその街らしい取り組みが、今回のイベントみたいに楽しい気持ちと影響を与え続けられるようになれば、きっともっと認知症に対するイメージが刷新するんだろうなぁ。
以上! ではまた、写真企画「WATASHI 戸﨑美和が撮る当事者」にてあいましょう!