だんじり曳く手にオレンジの輪 大阪・泉大津で認知症サポーター爆増
取材・撮影/コスガ聡一
いつもは「コッシーのカフェ散歩」で動画連載を担当しているコスガ聡一です。今回はカフェではありませんが、認知症のイメージを大きく変えようという意欲的な取り組みを紹介します。
みなさんご存じ、オレンジリング!
そう、所定の講座を受講した認知症サポーターの証としてもらえる、あのオレンジ色のリストバンドのことです。最近では市役所や、病院、介護施設などを訪れると、職員の方が身につけているのをよく見かけます。それから講演活動などをされている丹野智文さんら認知症当事者のみなさんもお持ちになっていますね。
認知症を正しく知るためのファーストステップとしても位置づけられている「認知症サポーター養成講座」は、いまや全国でのべ1000万人以上が受講したのだとか。きっと、なかまぁる読者の中にも持っている人はたくさんいることでしょう。
このオレンジリングを、あっ!と驚く方法で広めているまちがあります。
それが泉大津市。大阪府南部にある人口7万5千人ほどの比較的小さな市ですが、繊維産業が盛んな大変活気のある街です。
そんな泉大津が、さらに一段と盛り上がるのが毎年10月に行われる「だんじり祭り」。
オレンジリングを広める「あっ!と驚く方法」とは、この伝統あるお祭りと認知症サポーター養成講座を組み合わせたことです。
その名も「だんじり認知症サポーター」!
だんじり祭り本番には、繊維の町らしいタオル地のはちまきに、各町ごとに揃いの法被を着た何百人という人々が、手首にオレンジリングをつけて地車(だんじり)を曳くのだそうです。
この取り組みは地元の医師・川端徹さんが発案者となりました。
「市から認知症サポーターを増やす方法についてアイデアを求められ、地域に根ざしているだんじり関係者にやってもらったらいいのではないかと思いつきました。そして自分が所属していた『上之町』からはじめたというわけです。」
川端さんは泉大津の生まれ。物心ついた頃から「上之町」の地車を曳いて育ち、祭礼全体の運営にも携わってきました。そんな川端さんの呼びかけだったからこそ、多くの人たちに賛同が広がったのでしょう。
9月23日・秋分の日、泉大津駅前の施設で、だんじり研究者・若林公平氏の講演会とともに認知症サポーター養成講座が行われました。
前後半合わせて81名が参加し、新たに44名のサポーターが誕生したというその場で目立っていたのは高校生たちの姿。
ひときわ熱心に講座を聞いていたひとり、八木臣さん(16)に話を聞いてみると「今年から宮本町の青年団に入ったので、サポーターになるためにきました」とのこと。
泉大津では、だんじり祭りの中核を担う高校生から20代後半までの「青年団」に入る際に、認知症サポーターとなることがもはや当たり前になりつつあるのです。
川端さんとともに「だんじり認知症サポーター」を広める活動をしてきた「同志」藤原誠一さんは「だんじりは先輩後輩の関係がしっかりしているので、上の世代がオレンジリングをつけていれば、若い世代も見習ってくれます。オレンジリングを忘れたらだんじり曳かせへんぞ、なんて言うこともありますけど(笑)」と教えてくれました。
実は今年の5月、だんじり祭り本番さながらの光景を見ることができました。
「だんじり認知症サポーター」発祥の町である「上之町」で、約80年ぶりに地車が新調され、お披露目の記念曳行が行われたのです。
一生に一度あるかないかという晴れの日に、「上之町」の人々はほぼ全員オレンジリングを身につけて集まりました。また、地車を曳く人だけでなく、沿道で見守る人の中にもリングをした人を見かけることができました。
青年団の若者たちに写真を撮らせてほしいとお願いすると、みなさんリングを掲げてこころよく撮影に応じてくれます。彼らが「だんじり認知症サポーター」として、その理念を自分たちの誇りにまで高めている様子が感じられました。
祭礼は世代を超えて人々の結束を強めます。若者たちにとっては、学校や職場では得られない経験を積み、地域の一員となっていく機会になります。「だんじり認知症サポーター」とは、祭礼のそうした側面に、認知症啓発の機会を組み込んだ妙手といえるでしょう。
日本全国には、だんじり以外にもさまざまな祭礼や伝統行事があります。
この「だんじり認知症サポーター」のアイデアが、各地の取り組みにも広がっていくとき、日本の認知症啓発活動は新しい段階に入るのかもしれないという予感がします。
今年の10月12日(土)・13日(日)、泉大津では令和初のだんじり祭りが開催されます。
泉大津のだんじりが他の地域と異なるのは、地車どうしをぶつけ合う「かちあい」があること。
ぜひその迫力と、町中の人がオレンジリングをつけているという無二の風景を見に、ぜひ大阪・泉大津まで足を運んでみてください!
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