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介護の裏ワザ、これってどうよ?

深夜に「おまえ誰だ」認知症のばーちゃんを女子会ノリでもてなす これって介護の裏技?

青山ゆずこです! 祖父母がそろって認知症になり、ヤングケアラーとして7年間介護しました。壮絶な日々も独学の“ゆずこ流介護”で乗り切ったけれど、今思えばあれでよかったのか……? 専門家に解説してもらいました!

ばーちゃんがおたまを持って部屋に乱入してきたときは「早くここ来てー。さあ! 女子会のはじまりよ」すでにスタンバイ済み

夜中に家をさ迷うばーちゃん、「ここはどこ? お前は誰だ?」

静まり返った深夜2時。いつもこの時間帯になると、ミシッ……ミシッと、二階のわたしの部屋に向かう足音が聞こえはじめます。音の主は、ばーちゃんです。
眠りが浅く、真夜中でも寝たり起きたりを繰り返していて、日によっては家中を夜通し歩き回ります。そしてわたしの部屋の扉を叩き続けては、「お前は誰だ」「出て行っとくれ」と暴走を繰り返す――。
一度、あまりに眠かったので「もう寝かせてよ〜」と、布団に潜ってばーちゃんを無視したことがありました。すると、「出てけ! 出てけ!」「あんたなんか知らない!」と興奮状態になって、叫びながら孫の部屋の扉を叩き続けたり、物を投げてきたりなど余計に手が付けられない状況になってしまいました。

眠さとストレスでもうろうとしながらも、暴走するばーちゃんをなんとなく眺めていると、ある傾向に気付きました。

ばーちゃんは家の中を歩き回りながら、「ここはどこだ……私の家だよ」「これはなんだ……私のタンスだよ」「これは……ああ、よしこ(ゆずこの母)が買ってきた私の肌着じゃないか」と、一つひとつ触りながら自問自答をして、まるで今自分がどこにいるのかを確かめるように歩き回っていたのです。

どうせ部屋にくるなら、女子会しちゃおう! 騒いじゃおう!

「もしかしたら、ばーちゃんは今、自分がどこにいるのか分からない(意識が混乱している)のかも知れない」誰でも自分の置かれた状況が分からなければ、とてつもない不安に駆られます。そんな不安がばーちゃんを支配して、混乱や暴走を起こしているのでは……。
興奮状態でわたしの部屋に乗り込んできても、話し相手になったり、お茶を勧めたりしていると、自然と落ち着いて表情も和らいできます。

ならばと、ばーちゃんの不安を解消するために考えたのが、「いっそのことオールナイトの女子会として迎え入れてしまえば、不安に駆られたり、夜中歩き回ることがなくなるのでは?」作戦です。

深夜に部屋に乗り込んできたばーちゃんに向かって、無視や拒否をするのではなく、「待ってたよー! んも、おっそーい(はぁと)」「今夜はオールで何する? 映画でも見ちゃう?」「お菓子食べながら女子トークしよ(はぁと)」と勝手に盛り上がります。わたしは元々寝る時間がすごく遅い夜型人間で、だからこそできたことかも知れませんが、スナック菓子をすすめながら枕を抱えて長時間トーク。なんか、すごく楽しい。
やっているうちにノリノリ状態になってきたのですが、そんなわたしとは裏腹に、ばーちゃんはどんどん真顔になっていくではありませんか。
そして、「あんたには付き合いきれないよ」とポツリと一言。珍しく素直に寝床に戻っていきました。

ばーちゃんに見捨てられたので、ひとり女子会なう。寂しす

結果的に作戦通りになったのですが、手元に残ったのはこのスナック菓子の山と、半分悪ふざけで買ったクラッカー。なんだろう、ちょっと寂しいぞ。

不安解消に効果的なのは、音や明かり、そして女子会!

一抹の寂しさを覚えたこの“ゆずこのオールナイト女子会”ですが、果たして効果はあったのでしょうか。認知症の人と家族の会の全国本部の副代表理事であり、『認知症の9大法則 50症状と対応策』(法研)の著者、川崎幸クリニックの院長・杉山孝博医師にお話を聞きました。

「認知症の症状の一つに、時間や場所が分からなくなる『見当識障害』というものがあります。夜中に目を覚ますと、辺りは真っ暗で誰もいない。自分がどこにいるのかも分からなければ、恐怖感に襲われるのは誰でも当然のことです。そこで本人が『ここは安心して居られる場所だ』と感じるかどうかが大切です。
ゆずこさんが企画した女子会も、明るい場所で向き合って話をするという点では有効だったのではないでしょうか。ほかにも不安や恐怖感を解消するために、部屋や廊下の電気をあえてつけっぱなしにしたり、ラジオやテレビも(ボリュームを下げて)つけっぱなしにして寝たり。家族の会話を録音したテープを流すなど、何かしら安心できる音が常に聴こえるようにする方法もあります。時には添い寝をしてみるのも効果がありますよ」

ときどき、「俺もまぜてくれ」とじーちゃんまで乱入してきます。その後ばーちゃんも加わり、その光景は女子会ではなく、もはや老人会。翌日は全員がほぼ寝不足状態なので、昼過ぎまで爆睡。これが意外と楽しいのです!

杉山孝博・川崎幸クリニック院長
杉山孝博先生
川崎幸クリニック院長。認知症の人と家族の会の全国本部の副代表理事であり、神奈川県支部の代表を務める。著書に『認知症の9大法則 50症状と対応策』(法研)、その他多数。

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この連載について

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