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デイサービス通いを説得 認知症の義母が嫌がる理由 もめない介護22

植木のイメージ
コスガ聡一 撮影

「日中はデイサービスに通ってほしい。でも、うちの親は周囲への不信感が強くて、なじめるとは思えなくて……」

家族としては、日中の一定期間を施設で過ごす「デイサービス(通所介護)」や「デイケア(通所リハビリ)」などを利用したい。でも、当の本人がなかなかウンと首を縦にふってくれないという悩みを時折耳にします。

はっきりノーと言われたわけではないけれど、「イヤがるに違いない」と家族側が早々にあきらめているケースもあります。不信感と警戒心を隠さない親の姿を見せつけられると、ひるむのも事実です。

不安感が強く、バッグを3つ以上抱える義母をデイに……。

我が家も、デイ通いのスタートはおっかなびっくりでした。医師からは「認知症の進行を遅らせるためにはデイに通い、刺激を受けることが大切」「他人とのかかわりは生活のハリにもなるし、ご本人たちの自信にもつながる」と勧められていました。

でも、当時の義母は連日、「もの盗られ妄想」に悩まされていて、「見張っていないと盗まれる」が口癖でした。家の中でも、バッグやその他貴重品を45ℓゴミ袋に入れ、サンタクロースのように引きずって歩いていたのです。お風呂にもそのまま入っていると聞いていました。

不安感も強く、外出のときは「なにかあったら困るから」と、バッグを3つ以上抱えていました。そんな義母がデイに通える……? まずはケアマネジャーに相談し、義父母と一緒に見学。そして、おふたりの意向を確認しながら、契約へ……とステップを踏みながらも、半信半疑なところもありました。

ただ、希望が持てる要因もひとつだけありました。それは見学のとき、施設Aでは義母が荷物を素直にスタッフさんに預けていたこと。同じ日に見学した施設Bでは「預かりましょうか」と声をかけられても、聞こえないフリを決め込んでいたのにもかかわらず、です。

最終的に「施設Aなら行ってもいい」という話になったので、何かしら義母の琴線にふれるものがあったのかもしれません。

大きな空き瓶をデイに持って行く義母。それでも様子を見て

そして、いよいよ始まったデイ通い。ケアマネの助言にしたがい、デイ用のトートバッグを用意してはみたものの、果たしてこのバッグだけを持って出かけることが可能なのか。現地でそのバッグを預け、1日を過ごすことができるのか。不安は尽きません。

「おふたりとも無事に出発されました」
デイの初日、送り迎えの時間帯にサポートをお願いしたヘルパーさんによると、義母は不安そうではあったけれど、大量のバッグを持つことなく、出発できたそう。ただし、デイ用のトートバッグの中には、本来持っていくべき着替えや歯ブラシセットなどの必要アイテムに加えて、さまざまなものを詰め込んでもいたそうです。

「お声がけはしてみたのですが、『必要だから』と強くおっしゃられて……。施設のほうでうまく対応してくれると思うので、様子を見てもいいでしょうか」
しつこく説得して、「もう行かない!!!!」となっては元も子もありません。担当のヘルパーさんの提案通り、しばらく様子を見ることにしました。

季節外れのカーディガンに箱入りのクッキー、救急箱。義母が持ちこみたいものは、クルクルと入れ替わります。「大きな空き瓶のようなものを持っていらしたのですが、職員がお声がけすると『これはいいの』とおっしゃって、詳細は確認できませんでした」と施設から報告されたこともあります。空き瓶!?

ただ、施設の話では「おそらく危険はない」とのことで、やはり様子を見ることを勧められました。家族からのアプローチとしてやったことは、施設から渡された「持ちものリスト」を、義父母が読みやすいよう、大きなフォントで打ち直し、プリントアウトしてご本人たちに渡したぐらい。

45ℓゴミ袋を引きずらなくなり

デイ通いが始まって1カ月が過ぎ、2カ月が経ち……。次第に施設から謎アイテムの持ち込み報告は減っていきました。送迎タイムを担当してくれるヘルパーさんや施設の職員さんが不安を受け止め、見守ってくれたことが功を奏したのか、もの忘れ外来で「気持ちを落ち着かせるために」と処方された薬が効いてきたのか。いずれにしても、義母の様子は少しずつ変化し、気づけば45ℓゴミ袋を引きずって歩く姿を見なくなりました。

いやがる親を無理矢理デイに通わせるのは至難のわざだし、そのストレスが悪影響を及ぼすのでは? という懸念もあります。でも、通っていくうちに気が変わることもあれば、状態が変化することもある。無理強いはしないけれど、うまくいく可能性も手放さずにとっておく。介護にかかわるうえでは、その“どっちつかず”の状況を受け入れることも大事なんだと、義母が身をもって教えてくれたように感じています。

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