認知症の遠距離介護がストレス 交通費もかさみます 専門家が解説
構成/中寺暁子
介護事業に携わる井上信太郎さんが、介護経験を生かして、認知症の様々な悩みに答えます。
Q.関西の実家で一人暮らしをしている母(82歳)が1年ほど前に認知症を発症しました。私は大学進学を機にずっと東京で暮らしていますが、最近は症状が進行しているようで、週末のたびに帰省しています。交通費が負担になっていることや、緊急時のことも心配ですが、母は施設への入所も私と東京で暮らすことも嫌がっています。(48歳・女性)
A.お母さんがこの先も一人暮らしを続けることのリスクについて、心配されているんですね。でも、施設への入所や東京への引っ越しがお母さんの安全につながるかというと、そうではありません。むしろ非常に大きなリスクになることもあるのです。住む場所が変わるということは、これまでのつながりと切り離され、全く新しい生活が始まるということです。新しい生活になじめなければ、他者を攻撃するなど認知症の人の行動心理症状が悪化しやすく、病院に入院するようなことになりかねません。また、施設に入所したとたん、今までできていたことができなくなるなど、症状が進行することはよくある話です。お母さんが嫌がっているというのも自然なことかもしれません。今の暮らしから切り離されることに強い恐怖を感じていらっしゃるのでしょう。相談者には、まずこれまで暮らしてきた自宅を離れるリスクやお母さんの気持ちをよく理解していただきたいと思います。
とはいっても、交通費の問題も重く捉えなければならないと思います。生活が経済的に脅かされるということは、相談者の心身に影響を及ぼす可能性があるからです。そこで考えなければならないのは、相談者が今のように頻繁に帰省しなくても、お母さんが一人暮らしを続けられるかどうかということです。検討するうえで、カギとなるのが、夜間に起こる症状や行動があるかどうか。問題があれば、それをフォローする仕組みが地域にあるのかどうか。専門職の人たちで、どのようにお母さんの生活を支えていけるのか、ケアマネジャーによく相談してみてください。
最近は見守り機能がついたさまざまな福祉グッズがあります。例えばデータ通信で使用状況がわかる電気ポット、玄関の出入りがあるとメールで知らせてくれるカメラなど、道具の力を借りるというのも一つの方法です。専門業者に見守り機能があるグッズについて、聞いてみるといいでしょう。
何がお母さんにとっての安心・安全なのか。この機会にケアマネジャーと相談しながら、考えられるといいですね。
【まとめ】遠距離介護を続けるには?
- 施設への入所や引っ越しは大きなリスクになることもあると考える
- 夜間に起こる症状や行動をフォローできる仕組みが地域にあるかどうか確認する
- 交通費の問題は重く捉える
- 福祉グッズの見守りツールを利用する