「早く死にたい」認知症の父 家族もつらい 専門家がアドバイス
構成/中寺暁子
介護事業に携わる井上信太郎さんが、介護経験を生かして、認知症の様々な悩みに答えます。
Q.同居している父(85歳)は初期の認知症なのですが、1日に何度も「早く死にたい」と訴えます。妻も私も気が滅入ってしまい、最近は父のためにはそのほうがいいのではないかとさえ思うようになってしまいました。(56歳・男性)
A.お父さんは初期の認知症ということですが、初期であるほど、本人は自分が自分でなくなっていくことに誰よりも気づいているのだそうです。「生きている意味があるのか」「このまま存在していていいのか」。こうした認知症の人特有の苦悩は“実存的な痛み”と呼ばれています。認知症になった人にしかわからない痛みであり、その強さや程度も本人にしかわかりません。
まずご家族は、お父さんははかりしれない痛みを抱えているんだということを認識するだけでいいと思うんです。「早く死にたい」というのは、「痛い」と言っているのと同じことだと考えてください。そうすれば自然と「痛みをとり除くにはどうすればいいのか」と考えますよね。
実存的な痛みを持つ人は、社会的な役割を失ったり、今までできたことをさせてもらえなくなったりしたときに痛みを感じやすいと言われています。一方で周囲は、当事者が認知症と診断されると、それまでの本人の役割を奪ってしまうことがあります。大切に思っているからこその言動なのですが、役割を奪うことは大切にすることにつながりません。これまでの趣味を続けられるような環境を整える、できることはなるべく自分でやってもらうといったことで、お父さんは自分が生きる意味を感じられるかもしれません。
お父さん自身が、今の暮らしの中で自分が存在している意義を見つけられるといいですね。
【まとめ】「死にたい」という本人に家族ができることは?
- 精神的な痛みを抱えていることを理解する
- 「死にたい」と言うのは「痛い」と言っているのと同じことと考える
- 本人が存在意義を見つけられるようにする