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認知症の親「トイレの失敗」間に合わないときは もめない介護20

ボンボン時計のイメージ
コスガ聡一 撮影

認知症由来なのか、加齢にともなうものなのか、原因はよくわからないけれど、どうやら「トイレの失敗」が増えているらしい。そんな予兆があったとき、家族はどのように対処すればいいのか――。我が家がいちばん最初に、その課題に直面したのは「初めての認定調査」のときでした。

離れて暮らす義父と義母が立て続けにアルツハイマー型認知症だと診断された後、ふたり同時に要介護認定を申請。認定調査の席で、調査員さんに排泄にまつわる失敗の有無を質問されると、義父は「あります!」とキッパリ答えました。そして、毅然とした態度で、日ごろの尿失禁について語りはじめたのです。

義父の説明によると「トイレに行こうと思ってから、実際の排尿まで間に合わないことがある」とのことでした。「毎日ではありませんが、便が漏れることもあります」と言います。介護用品を扱っている大型スーパーで、定期的に尿もれパットを購入していると教えてくれました。

義父は「おすすめの商品や良い方法があったら教えて欲しい」と失禁対策にいたって前向き。悩ましかったのが、“失禁なんてしたことがない”というスタンスを貫く義母への対応です。義父の話では、義母の分も尿もれパッドを購入しており、実際に自宅には義母用のものと思われるパッドがいくつもあることがわかりました。

デリケートな問題は、慌てず慎重に

ただ、うまく使えているのか使えていないのか、本人たちの話を聞くだけではよくわかりません。義父母のどちらかが、あるいは両方が記憶違いをしている可能性もあります。また、「トイレの失敗」は言うまでもなくデリケートな話題です。アプローチをひとつ間違えると、親の気持ちを深く傷つけてしまう危険性があるだけに、不用意に踏み込むのもはばかられました。

担当のケアマネジャーさんに相談すると、「状況が許す限り、あわてず慎重にいきましょう」とアドバイスされました。「親として、お子さんにだけは言われたくなかった………と落ち込む方も大勢いらっしゃいますので」とのことでした。当座は、義父が購入してくれた尿もれパッドをできるだけわかりやすそうな場所に置き、“気が向いたらいつでも使える”環境を整えて、あとは義父母の気分に任せることに。

かなり遠回しなアプローチでしたが、結果的にはこれが正解でした。当初は「リビングにこんなものを置くなんて……!」と、義母はおかんむり。尿もれパッドが入った段ボール箱に座布団をいくつも載せて隠そうとしたこともありました。しかし、ほどなく見慣れてきたらしく、「これはこれで悪くないわね」「使いたいときにすぐ取り出せるの」と義母が言及する内容が変わりはじめたのです。

はやる気持ちは抑えて、自然に慣れてもらえる道筋を

「いまあるものだと、A子さん(義母の名前)には容量が少なすぎるようです」
ヘルパーさんからそう指摘されたときも、義父母へストレートに伝える代わりに、尿もれパッドの購入係をバトンタッチ。

容量アップをめざとく発見した義母から、「あら~、真奈美さん、こんなに大きいものじゃなくていいのよ」と指摘されましたが、「ありゃりゃ! 間違えちゃいましたか」でスルー。

「ごめんなさい! 次は気をつけますね。これも評判いいみたいなので、試してみてください」「しょうがないわねえ。でも、もったいないものね」
そんなやりとりを何度か繰り返した後、またまた義母は慣れてくれました。

状況が切迫している場合には、そうはいかないこともあるかと思います。でも、少しでも様子を見る余力があれば、はやる気持ちをグッと抑え、“急がば回れ”作戦をとってみると、介護する側とされる側、双方の負担軽減に役に立つかもしれません。

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