もめない介護

認知症の義父母の「ガラクタ捨てたい」にひそむ落とし穴 もめない介護18

コスガ聡一 撮影

介護がスタートした途端、実家のちらかり具合が気になって仕方がなくなったという話をよく耳にします。

玄関に置きっぱなしの古新聞に壊れた傘、部屋の隅に転がっている壊れた家電、変色したタオルなど、実家には「なぜ、とっておくのか?」と首をひねるアイテムが盛りだくさん。「まだ使えるのにもったいない」「そのうち捨てるからいい」と、一向に処分しようとしない親の姿は、子どもからするとなんともじれったいものです。

しかし、ここで「こんなガラクタ捨てちゃえば?」「持っていても仕方がないでしょ?」などと親に詰め寄るのは得策ではありません。親のものを勝手に処分するのはもってのほか。親には親の考えがあり、ペースがあります。認知症で判断力が衰えつつあったとしても、子どもから生活に口を出されるのは気分のいいものではありませんし、子どもの目にはガラクタそのものでも、親には思い入れがある可能性もあります。そこで生じた不信感はのちのちまで尾を引きます。

しつこく説得するよりも、時間をかけて

ただ、たとえば、生活動線上に、ものがいくつも置かれているような場合はやはり、転倒防止のための片付けが必要でしょう。とくに、「寝室とトイレとの間を行き来するルート」は夜中に寝ぼけ眼で歩く可能性が高いだけに、注意深くチェックしておきたいものです。

そんなときは、まず、親には「転倒を防ぐために、置き場所を移動したい」と説明し、承諾を得ます。場所を移動するだけであれば、OKしてくれる可能性は高まります。それでも親が拒否する場合には、しつこく説得するよりも、一時撤退がおすすめです。時期を置いて、忘れたころに再度尋ねてみると、すんなりOKがもらえることも。また、ケアマネジャーや医師など第三者から口添えしてもらうことで、親が納得するケースもあります。

親自身が「片付けたい」と言い出した

一方、悩ましいのが、親自身が「ガラクタを捨てたい」と言い出したときです。

我が家の場合、離れて暮らす義父母の認知症介護が始まった直後は、義父母ともに「捨てたくない」の一点張り。お尻に穴が開いたパジャマのズボンですら「家内につくろってもらうから、とっておいて」と義父に言われ、処分できずにいました。

ところが、訪問介護(ホームヘルプ)を週2回ペースで利用するようになると、義母が突然、「2階がガラクタだらけなので、片付けたい」と言い出しました。

たしかに義母が言うとおり、夫の実家の2階はかつての子ども部屋が物置スペースと化していて、なかなかのカオス状態。単なる気まぐれの可能性もあると思い、しばらく様子を見ていましたが、義母は繰り返し「片付けたい」と訴えます。

「B子(義姉の名前)に相談したけど、『業者を呼べば?』と言って取り合ってくれないの。真奈美さん、どこかいいところを知らない?」

片づけが終わると、義母はご満悦

義母のリクエストも具体的で、本気度が伝わってきます。これは、思い切って片付けに踏み切るチャンス……? わたし自身もその気になりつつも、念のため、ケアマネさんに相談してみたところ、“待った”がかかりました。

「ご本人がものの処分に積極的になられたのはとてもよいことですが、あわてて対応しないほうがいいかもしれません。部屋の様子が大きく変わると不安に駆られ、『勝手に捨てられた』『ドロボウに入られた』などとおっしゃられる方も少なくありません」

ケアマネさんと相談し、まずは大がかりな掃除ではなく、限られたスペースを義母と一緒に片付けることに挑戦してみることに。当時、1階のリビングに置かれている多段チェストの引き出しの一部にはなぜか、義母のセーターやカーディガンが詰め込まれていました。とりあえず、ここから。

「どうして、こんなところに洋服を入れているのかしら。ヘンね」
「ほかの洋服と同じように寝室に移動しましょうか」
「そうしてちょうだい」

そんなやりとりをしながら、引き出しの中の洋服を寝室に持っていきました。「スッキリしたわね。ここにはなにを入れようかしら」と義母はご満悦でした。

ケアマネさんの懸念は的中

ところが、数日後のことです。ヘルパーさんから「A子さん(義母の名前)が『引き出しにしまってあった洋服をぜんぶ盗まれてしまった!』とおっしゃっていて……」と連絡がありました。義母は「片付けたい」と言ったことも、一緒に片付けたこともすっかり忘れ、「ドロボウがいる!」と大騒ぎ。まさにケアマネさんが懸念していたことが起きたわけです。

幸い、ヘルパーさんが機転を利かせ、何着かの洋服を引き出しに戻してくれたことで義母の気持ちは落ち着きました。でも、もしこれが、2階の大掃除をしてしまった後だったら、どうでしょうか。ベッドやタンスなどの大型家具や家電を思い切って処分した後で「そんなことは頼んでない」「知らない人が来て、盗んでいった!」と訴えられたら……と思うと、冷や汗が出ます。アブなかった!

そもそも、2階のガラクタにしろ、引き出しの中の洋服にしろ、生活動線上には関係ありません。命の危険にかかわらないのであれば、親の気持ちを不安定にさせるリスクをとる必要はなかったのです。安全な暮らしを確保するために、必要最小限な分だけ片付ける。それぐらいの気持ちでのぞむほうが、親子喧嘩も片付けの負担も減らせて一石二鳥だと気づかされた出来事でした。

あわせて読みたい

この記事をシェアする

この連載について