もめない介護

認知症の義母「髪は自分で洗うわ」心配なときの一言は? もめない介護19

コスガ聡一 撮影

認知症が進んでくると難しくなることの一つに「洗髪」があります。本人は洗っているつもりだけれど、髪を濡らすだけで終わっていることもあれば、そもそもお風呂に入りたがらないケースもあります。

うちの義母の場合は、入浴をいやがることはなく、むしろお風呂が大好き。週に3回ペースで通っていた通所リハビリテーション(デイケア)施設での入浴も「温泉みたいで楽しいの!」とノリノリでした。髪のべたつきや匂いといった目立ったトラブルもわたしが知る限り、一度もありません。そのため、「いまのところ、自分で洗えている」あるいは「デイケア施設で職員さんに洗ってもらっている」のだろうとすっかり思い込み、油断していました。

きっかけは「訪問理美容サービス」

ところがあるとき、実はきちんと洗髪できていなかったことが発覚します。きっかけは自治体が提供する「高齢者向けの訪問理美容サービス」を利用したことです。

これは、理容店や美容室に出向くのが困難な高齢者が、自宅で理美容サービスを受けられるよう、理容師・美容師の出張訪問経費を助成する仕組みです。対象者や費用負担額は自治体によっても異なりますが、たとえば東京都中央区の場合、「要介護2以上の寝たきりまたは認知症の方で、理容所・美容所の利用が困難な居宅者」を対象に、理美容サービス券を年間6枚まで配布しています(費用負担は1回あたり630円、非課税世帯の場合は1回180円)。

サービス券と一緒にもらえるサービス協力店一覧を参考に予約を入れ、あとは家で待っているだけでOK。何か特別な準備をする必要はありません。カットに必要な道具はすべて持ってきてくれ、部屋に髪が散らからないよう、工夫して散髪してくれます。

「どんな方がいらっしゃるのかしら。いつも行っている美容室は慣れているから、本当はそちらのほうがいいんだけれど……」

当初、義母はとても不安そうにしていました。でも、その<いつも行っている美容室>がわからないというのも、訪問理美容サービスの利用を決めた理由の一つでした。義母に聞いても「近所にある」「いつも行っている」と言うだけで、名前も場所もはっきりしません。
義父も、自分の行きつけの理容室は覚えているけれど、義母が行っていたところまでは知らないと言います。

訪問美容師の手が止まった……

そわそわする義母をなだめながら、迎えた訪問美容の当日。やってきたのは3代続く美容院を継いだばかりだという、50代ぐらいの女性でした。気さくな雰囲気でおしゃべり上手。義母はすっかりリラックスし、「あのあたりもずいぶん変わったでしょうね」などと、美容師さんの話に興味津々。美容師さんは楽しくおしゃべりしながらも、手際よくカットの準備を進めていきます。

さて、ドライシャンプーを使って洗髪をしましょうというタイミングで、美容師さんの手が止まりました。

「肌が少し荒れていらっしゃるみたいですね。今日のところはシャンプーで刺激を与えないほうがいいかもしれません」
美容師さんに手招きされ、義母の頭皮を見ると、ギョッとするほどガサガサになっていました。義母の手前、「少し荒れている」とやわらかな表現にしてくれていたけれど、かなり広い範囲にわたって、湿疹のようなものが広がっていました。なんじゃこりゃ!!!! 

「おかあさん、ときどき頭がかゆくなったりします?」
「そうねえ。あったかもしれないけど、最近はよく覚えてないわ」

内心の動揺を必死に押し殺して義母に確認すると、のんびりした答えが返ってきます。美容師さんと相談し、シャンプーはせずにヘアカット自体は続行。頭皮の状態については、ケアマネジャー(ケアマネ)と訪問看護ステーションに連絡し、対応策を相談することに。

「自分で洗う」と言っていた義母

ケアマネさんはすぐ、デイケア施設に確認をとってくれました。すると、そこで分かったのは、入浴するたびに義母は「自分で洗うからいいわ」と洗髪を断っていたということでした。
施設の職員さんに洗ってもらってるわけじゃなかった!

義母の気持ちも尊重してくれたデイケア施設の職員さんの判断が間違っていたわけではありません。ただ、いまは頭皮トラブルへの対応を優先したいというのが実情です。家族からも義母と改めて話をするので、これまでよりも少し積極的に洗髪の声がけや介入をお願いしたい旨、ケアマネさんを通じて、デイケア施設に伝えました。

また、担当の訪問看護師さんの話では「これまでに頭のかゆみを訴えたことはなかった」とのことだったので、次回の訪問時に頭皮の状態を見てもらえるよう、お願いしました。軟膏などを塗ったほうがいいのか、そのまま様子を見るのか、そのあたりは訪問看護師さんと往診医で相談してくれるとのことでした。

義母の心に刺さった、訪問美容師のひと言

そしていちばんの難関は、義母に「デイケア施設では、職員さんに頭を洗ってもらう」ことをどうやって納得してもらうか。「自分では頭皮までしっかり洗えていないから」という理由をストレートに伝えたら、きっと「私だってできるわよ!」と反発されるに違いありません。
切り出し方を決めかねていたら、訪問美容師さんが助け船を出してくれました。

「髪は洗ってもらったほうがお得ですよ。洗ってもらわなくても料金は同じですから」
お得と聞いた途端、義母の目がキラーン!

「言われてみたら、それもそうね! 料金は同じなのよね」
「そうですよ。スーパー銭湯もそうですけど、ああいう場所ってだいたい、ぜんぶ込み込みの料金ですから」
「それは利用しなくちゃ損よね」

すっかり、義母はその気になっています。これまで自分ひとりでできていたはずなのに、他人の助けが必要になるということは、プライドが傷つくものです。でも、“お得”と聞くとちょっと試してみたくなる。長年家計を預かってきた義母にとっては、“お得”はあらがえない魅力を持ったキーワードなのだと、改めて知ったできごとでした。

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