時空を旅する母に優しい甘みの煮物 認知症の母が喜ぶ毎日ごはん
撮影/百井謙子
フードライター大久保朱夏さんが、認知症のお母さんとの生活のなかで見いだしたレシピを紹介します。「もう食べたでしょう」ではなく、少量で満足できる一品があれば、母も笑顔に。
※料理は普通食です。かむ力やのみ込みに配慮した介護食ではありません
ヘルパーさんが母の夕食を作り終えて帰ってしまうと、私が仕事先から戻るまで母が一人になることがあった。もう外は真っ暗。にもかかわらず母は団地の廊下を照らす蛍光灯の光を見て、昼間だと勘違いすることがあった。ときどき出かけてしまうことがあり、一人にしておくのは不安だった。パーキンソン症状が出てすり足で歩くので、もうそれほど遠くまでは行けないだろうが、ケガの心配がある。
「ここに座って待っててね! 朱夏」と置き手紙をしてあるし、きっと家にいてくれる。
頭に次々と浮かんでくる不安をかき消して家路を急ぐ。バスを待ちきれず、駅からタクシーで帰ることもあった。緊張しながら玄関の鍵を開ける。いた!
「ただいまー!」
「あら、久方ぶりね、元気だった?」
母は毎回、私の姿を見て驚く。今朝も一緒にいたのに、1年ぶりに再会したような顔をする。ともかく母がいてくれたことに安堵し、自分の食事を用意する。
母の向かい側に座って食べ始めると「私にも、ごはんをくださいませんか?」とむっとしてしまう。母は、時空を旅している。
そんなときは「もう食べたでしょう」とは言わず、何か出すようにしていた。少量で満足できる「小豆かぼちゃ」もその一つだ。
小豆かぼちゃ
母を見守る長い夜、よく小豆を煮ていました。この小豆かぼちゃは、もともとは母がマクロビオティックを実践している友人から教わったレシピで、よく作ってくれました。砂糖を使わず塩味でいただきます。小豆とかぼちゃのやさしい甘みを感じるおかずです。
材料 2人分
小豆 1カップ
かぼちゃ 150g
昆布 10㎝
塩 小さじ1
作り方
- 鍋に小豆、2cm幅に切った昆布、水600mlを入れて中火にかける。煮立ってきたら弱火にしてふたをして、40分〜1時間煮る
- 小豆が指でつまんでつぶれるくらいやわらかくなったら、塩を加えて混ぜる
- かぼちゃは2〜3cm角に切り、皮を下にして2に加え、適宜水を足しながら、かぼちゃがやわらかくなるまで弱火で煮る