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介護アドバイス 励ましにならない言葉には距離を取る もめない介護8

冷蔵庫を開けるイメージ
コスガ聡一 撮影

認知症介護は、思いがけない出来事の連続です。予想していなかったトラブルに振り回され、疲れ果て……。そんなとき、心強いのが経験者のアドバイス。親身になって励ましてくれる人がいる。そう実感できるだけで励まされるものです。

しかし、時にはそのアドバイスをつらく感じてしまうこともあります。

「もっとご主人にも介護にかかわってもらったほうがいい」
「せめて負担は半々じゃないとダメよ」
「きちんとご主人と話し合って」

これらは義両親の認知症介護が始まったばかりのころ、よく言われたアドバイスのひとつです。当時、私は行きがかり上、義両親の介護のキーパーソンを引き受け、介護認定や介護サービスの導入の手続きに追われ、疲労困ぱいしていました。その様子は周囲から見れば、「夫になにも言えず、いらぬ苦労を背負いこむ妻」だったのだろうと思います。

ただ、実際には、どちらかといえば、夫婦で頻繁に話し合っていました。でも、夫になにをどうお願いすればラクになるのか、よくわからないまま、どんどんキーパーソンとしてかかわるタスクが増えていく……というような状況でした。

善意なのはわかるけど、ちょっとピントがズレている。そんなアドバイスに出くわしたとき、どう対処するのがいいのでしょうか。

「おかげさまで」作戦で相手の話をかわす

私は当初、(ちょっと違うんだよな……)と思ったら、「そうですか……」とお茶をにごすようにしていました。これが、大失敗。こちらの反応がニブいほど、「自己主張しないとダメ」「夫婦で話し合いなさい」とヒートアップし、もはやお説教の域に達することに。

そこで作戦変更。そういう相手には「最近、介護のほうはどうなの?」と聞かれても、「おかげさまでなんとかやっています」とだけ答え、詳細は話さないよう心がけました。

すると、効果はてきめん。しばらくの間は「大変なんでしょう?」「ご主人は少しは協力してくれるようになったの?」と水を向けられることもありましたが、そのうちなにも言われなくなりました。

なんだ、そんな簡単なことか、と思われた方もいらっしゃるかもしれません。でも、介護に追われているときや、気弱になっているとき、「介護、大変でしょう」とねぎらいの言葉をかけられると、つい気がゆるみ、愚痴や本音を打ち明ける相手の選別が甘くなることがあります。

励ましにならない言葉には、自ら距離を取って

イヤだなと思いながらも、相手がお節介を焼けるよう、せっせと情報提供してしまっていることも少なくありません。

どんな言葉が励ましになるのかは人によって異なりますし、相性もあります。

たいした話をしているわけではないのに、わずかな時間を一緒に過ごすだけで心が軽くなる人もいれば、ほんの二言三言かわしただけなのに、どうしようもなく気分が落ち込むという相手もいます。

たとえば、私の場合は「夫にもっと介護の負担をさせるべき」と言われるたびに閉塞感を覚え、“夫なりのがんばり”に目を向けてくれる人と話すと、気がラクになりました。「自分の親じゃないんだから、もっと適当にやりなさい」と言われるより、「乗りかかった船だもんね。でも、頑張りすぎないでね」と励まされるほうがしっくり来ました。

でも人によっては、夫に対して一緒に怒ってくれるほうが心強いと感じるかもしれません。誰かに「介護なんてしなくていい」と背中を押してもらいたいとケースもあるはず。

励ましになるかどうかを決めるのはあくまでも自分自身。いくら善意によるものでも、励ましにならないメッセージを無理に受け取る必要はありません。笑顔のまま、そっと距離をとる。それは不必要な執着を引き出さないためにも、身につけておきたい護身術のひとつです。

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