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介護の裏ワザ、これってどうよ?

ばーちゃんに泥棒扱いされたら100均に行け!これって介護の裏技?

青山ゆずこです! 祖父母がそろって認知症になり、ヤングケアラーとして7年間介護しました。壮絶な日々も独学の“ゆずこ流介護”で乗り切ったけれど、今思えばあれでよかったのか……? 専門家に解説してもらいました!

ばーちゃんの頭の中で私は・・・しゃもじドロボウ。さらに、ペットボトルのフタやなべのフタも盗っちゃうぜ
でもなんか、めっちゃ、しょぼい。地味にもほどがある・・・

鍋のフタやしゃもじ、ペットボトルのキャップを盗みまくる孫。しかも毎日

前回の「お金や財布を盗られた」モノ盗られ妄想に続き、我が家では毎日ばーちゃんがわたしゆずこのことを「〇〇泥棒」と命名してきます。

例えば、ばーちゃんが自分でご飯をよそおうとしたとき、しゃもじが見当たらないと、
「ゆずこはウチのしゃもじを毎日盗んでいくんだよ!」と親戚中に被害を訴え出します。
さらに、鍋のフタをしようとして、見当たらないときも、「なんであんたは鍋という鍋のフタを全部盗むんだ! うちの鍋のフタを集めてどうしようっていうんだ!(こっちが聞きたい)」と怒り狂う。
そして、自分で飲んでいたペットボトルのキャップをどこかに落としたり、間違えて捨ててしまったときだって、「大変だ! ゆずこはペットボトルのフタ泥棒だ! フタをためて売りさばくつもりだね……」と大騒ぎ。

ほかにも、「急須の茶こし泥棒」「リモコンのカバーを盗むのが好きな人」「シャンプー&リンス(容器の中身だけ)泥棒」と、何かにつけて毎日のように〇〇泥棒と言いがかりをつけられます。

孫への暴言は、深すぎる愛の裏返し? ツンデレばーさん

さすがに毎日だとイライラしたり、ストレスも相当溜まってくるので、思わず「もー! 何言ってんの。ふざけたこと言わないでよ!」と言い返しそうにもなりました。が、ちょっと待てよと。
落ち着いてばーちゃんを観察してみると、どんなにショボイ〇〇泥棒でも、名前が挙がるのはなぜかわたしだけ。家には母や叔母も来るのに、もはやばーちゃんの頭の中にはわたししかいないような……毎日「ゆずこが〇〇を盗った」「ゆずこに〇〇をされた」と、口から出るのはわたしの名前ばかりです。

そこで考えたのが、「もしかしてばーちゃんは、裏を返せばわたしのことをもの凄く、心底、超絶“大好き”なんじゃないか……?」ということでした。好きだからなにかと名前が出ちゃう。好きだから気になっちゃう。そしてその結果、しゃもじ泥棒にもなってしまうのでしょう。それならほんのちょっとだけ、許せちゃうような気もします。

それならば、ばーちゃんからのさまざまな泥棒扱いや罵倒も、「わたしの一番身近にいてくれる」「ゆずこマジラブ」「もう、好きが止まらない」「今日も明日もフォーリンラブ」と、勝手に脳内翻訳することでストレスも軽減します。
それでも、あまりにもうるさいときは、100円ショップに行っておよそ1000円分(10個ほど)を大量購入。

さあ! フタざんまい! 100円ショップで買った鍋のフタ。しゃもじも100円ショップ。キャップはひらすらためた。

盗まれたと騒ぐばーちゃんの前にズラリと並べて、「こんなに見つけちゃった」とほほ笑むと、一気に興味がなくなったのか大騒ぎすることなく無表情で大抵その場を立ち去ります。連日のようにこの方法で使い回すので、ムダにはしません!

勝手に脳内翻訳は、自分の心を守るのに最高の方法だった!

編み出した、この“ばーちゃんの暴言を脳内で勝手に翻訳”テクニック。認知症の人と家族の会の全国本部の副代表理事であり、『認知症の9大法則 50症状と対応策』(法研)の著者、川崎幸クリニックの院長・杉山孝博医師いわく、なかなか有効なテクニックのようです。

「まず鍋のフタやしゃもじなど、僕らにとっては『なんでそんなものを盗ったと騒ぐのか』と不思議に思っても、認知症の方の世界ではもの凄く大切なものということがあります。だから、『たかがそれくらい……』と否定したり、ぞんざいに扱ってはいけません。

また、認知症の場合は、自分の身近にいてくれる人やお世話をしてくれる人に、一番強く当たってしまうことが多いと言われています。子どもが親に甘えたり、ワガママを言ってしまう感覚に近いですね。信頼しているからこそ、強くあたってしまう。それを理解していないと『なんで一番わたしが頑張って(介護して)いるのに、そんなこと言われないといけないの!』と落ち込んだり、一気にストレスとなって精神的なダメージを受けてしまいます」
それでは、わたしの“勝手に脳内で翻訳”テクニックは、あながち間違えていなかったということですね……!
「間違えていないどころか、よく自分の心を守りましたね。100円ショップで揃えるのも気を紛らわさせることに繋がりますし、おばあさんの暴言も『自分を信頼しているからこそなんだろうな』と本質に迫っている。本来なら、一番近くにいる人がもっとも潰されてしまう可能性が高いのです」

ばーちゃんは、超絶“ツンデレっ娘”。そんな勝手な思い込み(?)が、自分の心を軽くしてくれる。困ったときは、ツンデレばーさん、ツンデレじーさんと思い込んでみてください。

杉山孝博・川崎幸クリニック院長
杉山孝博先生
川崎幸クリニック院長。認知症の人と家族の会の全国本部の副代表理事であり、神奈川県支部の代表を務める。著書に『認知症の9大法則 50症状と対応策』(法研)、その他多数。

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この連載について

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