避難所生活を認知症の人と家族が「うまく乗り切る」ための6つのポイント
構成/岡見理沙
急激な環境の変化が苦手で、人一倍ストレスに弱い認知症の人たちにとって、災害などによる避難所での生活は、より困難を伴います。認知症の人と家族が、避難所生活を少しでもうまく乗り切るためのポイントは何でしょうか。避難所での生活に役立つガイド(参照PDF)を作成した認知症介護研究・研修東京センターの永田久美子研究部長に、教えてもらいました。
1.静かな居場所の確保・工夫
避難所はいろいろな人が出入りし、大勢の人が寝起きを共にせざるをえないので、ふだん健康な人にとっても厳しい環境です。ましてストレスに弱い認知症の本人にとっては、混乱や体調悪化が起きてもおかしくない状況です。出入り口から離れて、雑音や人の動きにさらされることが少しでも少ない場所を探しましょう。
災害時には、我先に良い場所を確保しようとみんな必死です。その中で、認知症の人とその家族は遠慮せず、自分たちが支援を必要としていることを、避難所にいる行政や自治会の人などにはっきり伝えましょう。
本人の前で認知症と言いにくい場合も、「物忘れがあり混乱しやすい」などの伝え方もあります。
避難所では、配慮が必要な人用の専用スペースを確保している場合もあります。そうしたスペースがない場合も、避難所を管理する関係者に要望したことで、設営された例もあります。
ただ実際には、静かな場所を確保できないこともあります。そんな場合は、環境を少しでもよくするための工夫があります。たとえば、本人の座る方向を人の動きの多い方とは逆に向けて刺激をできるだけ減らす、毛布や段ボールなど手に入るもので小さくても囲いをつくる、少しでも静かな場所へ本人を誘って気晴らしタイムをつくる、などです。
2.トイレのための工夫
東日本大震災でも1番困ったことのひとつがトイレ事情でした。避難所のトイレは、居場所から遠い、たどり着いても行列している、トイレの使い勝手に戸惑うなど、難関続きです。特に、避難所では夜ぐっすり眠れないために尿意を催す回数が増えることもあり、本人や家族にとってとても負担になります。
そんな時には無理して本人をトイレに連れて行こうとせずに、手作りトイレでしのぐ方法もあります。遠距離ドライブ中の使い捨てトイレをまねたやり方です。二重三重にした簡易ポリ袋の中に新聞紙や古い布きれを入れその中に排泄する、洗面器やバケツなどをトイレ用にして新聞紙などを敷いてその中へ、など。毛布でからだをくるんだり段ボールなどで本人の周りを囲うなど、あるものを使って工夫し、本人が安心して排泄できるようにした例もあります。
避難所でのトイレの辛さは認知症ではない人も十分分かります。そっと周りにも伝えると、見守ってくれたり、さらなる工夫を一緒にしてくれたりする人もいます。
3.本人に心地よい刺激とリフレッシュタイムを
避難所では寒かったり、暑かったり、うるさかったり、窮屈だったり・・・など、不快なことが重なり、身も心も消耗していきます。本人は不快が重なると、行動が落ち着かなくなりがち。不快感が募る前に、意識的にストレスを発散したり、心地よい刺激を感じてもらうリラックスタイムを一日に何度かつくりましょう。
手のひらや足、顔などをマッサージする、肩や背中をゆっくりさするなど、認知症の本人が気持ちいいと感じることを少しずつしてみてください。
本人の中にはマッサージや指圧が上手な人もいます。家族や周囲の人がマッサージをしてもらったら、お互いに和んだ時間をもてた、という工夫もありました。
不眠も見られますが、災害などの非常時では眠れなくてあたりまえです。
また、大声を出したり、動き回ったりすることもありますが、本人が強く不安やストレスを感じていることの表れです。
眠らせよう、落ち着かせようと無理強いしたり、いさめようとすると逆効果。
困ったなあ、という言動が見られた場合は、まずはリラックスを忘れずに。
4.本人が安心できる活動や情報を
避難所で「何もすることがない」ことが、落ち着かない言動の引き金になることもあります。「じっとしていて!」ではなく、むしろ「人手が足りないようだから、ご飯の手伝いに行こう」「お母さんたちが赤ちゃんをずっと見てるのは大変だから、代わりにちょっと遊び相手になろうよ」など、本人ができる範囲で手伝ってもらい、活躍できる場面をつくりましょう。
炊き出しや支援物資の荷下ろしなど、本人がみんなと一緒に汗を流すことで、本人が満足して落ち着き、周囲の人たちの理解も深まった避難所もありました。
いずれにしても、認知症の人は状況を把握することが苦手です。それに輪をかけて、本人に今の状況を伝えないと、本人はどんどん不安や不満を募らせて落ち着かなくなっていきます。「ここは、家の近くの○○だよ」「今、○○時。あともう少しで夕ご飯になるよ」「明日は保健師さんが巡回にきてくれるんだって」など、本人にシンプルにやさしく伝えましょう。忘れてしまうかもしれませんが、「自分にも説明してくれる」ということ自体が、本人の安心感につながります。
5.家族が自分の身と心をいたわる
認知症の本人のそばにずっといる家族たちのストレスは並大抵ではありません。周りに気を遣いすぎたり、一人でがんばろうとせず、「ちょっと代わりにみてほしい」「ちょっと今、助けて」と、小さなSOSを遠慮せずに言葉にしましょう。避難所にいる保健師や医療・介護職の人たち、ケア関係のボランティアは、家族の方からそんなサインを早めに出してくれるとむしろ助かります。
災害時は避難所にいる人たちや家族の表情も硬くなりがちです。すると、本人は怒られているように感じて「どうして?」という疑念や不満が増しがちです。
避難所では先が見えず、どうしたらいいのか家族も不安でいっぱいになりますが、そんな時こそ、家族はちょっと肩の力をストンと抜いて、どうぞ自分で自分をいたわって下さい。家族の表情がやわらぐと、本人もほっと安心します。表情をやわらげることが難しければ、軽く口をあけると、体の力が抜けます。
6.福祉避難所への早めの移動
高齢者や障害者、妊産婦など特別な配慮が必要な人向けの避難所「福祉避難所」があります。介護する家族も一緒に入れる場合もあります。認知症介護研究・研修仙台センターが実施したアンケートによると、東日本大震災のとき、認知症の人が、地域の避難所で生活できる限界は、平均3.11日でした。
避難所を運営する人や保健師さんなどと、本人の状態や意向をもとに福祉避難所に早く移るための相談をしましょう。
福祉避難所や次の場所への移動に備えて、認知症の本人の情報や、本人にしてほしい配慮をメモにしておきましょう。本人に関する具体的なメモがあると、支援側も行動しやすくなります。
大きな災害のときは介護福祉士らで作る災害派遣福祉チーム(DCAT)のような、ケアの専門職も避難所支援に入るようになってきています。「認知症に詳しい人がいたらお願いします」とはっきり要望を伝え、専門職とつながり、その力を活かしてほしいです。
- まとめ「避難所生活を認知症の人と家族が『うまく乗り切る』ための6つのポイント」
- 1.静かな居場所の確保・工夫
2.トイレのための工夫
3.本人に心地よい刺激とリフレッシュタイムを
4.本人が安心できる活動や情報を
5.家族が自分の身と心をいたわる
6.福祉避難所への早めの移動
認知症介護研究・研修東京センターが作成した「避難所でがんばっている認知症の人・家族等への支援ガイド(参照PDF)」も参考になります。
- 永田久美子(ながた・くみこ)さんプロフィール
- 1960年新潟県生まれ。千葉大大学院看護学研究科修了。学生時代から認知症の人と家族の支援と研究を続けている。東京都老人総合研究所を経て、現職。日本認知症本人ワーキンググループ(JDWG)の設立に加わる。『認知症の人たちの小さくて大きなひと言』などを監修。
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