みんなが当事者。本人も家族も、にわか者も ~認知症フレンドリーを目指して3
構成/村井七緒子 撮影/上溝恭香
「1億人のスイッチを切り替える~認知症フレンドリー社会を目指して」
詳報3/全3回
認知症の母親との日々をブログにつづるフリーアナウンサーの岩佐まりさん、「注文をまちがえる料理店」発起人の小国士朗さんとのトークセッション詳報です。「なかまぁる」編集長の冨岡史穂が進行役を務めました。
当事者の意見を大きな道しるべに
冨岡史穂編集長(以下、冨):「注文をまちがえる料理店」のプロジェクトに対して、ネガティブな反響や、準備するなかで議論したことはあったのでしょうか。
小国士朗さん(以下、小):「注文をまちがえる料理店」は、間違いを受け入れて一緒に笑っていこうよというのが目的ですけど、来てくれるお客さんへのサービスという観点でいうと、間違えることをどれくらい恣意的に作り出すかということが僕らのなかで最大の議論になりました。
間違える料理店って言っているんだから、お客さんのなかには間違いを期待して来る人もいるだろうから、その人たちに対してサービスになっているのかどうかっていうことですね。間違えることをわざと作り出すのか、作らないのかということは激論でした。
若年性認知症のご本人とだんなさんを、認知症のグループホームを運営する和田行男さんが呼んで、会議に参加してもらったときに、どう思うか聞いてみたんです。ご本人の奥さんのほうはニコッと笑うだけで、だんなさんが「コンセプトは素晴らしいと思う。だけどやっぱり妻を見ていると、間違えたときにすごくつらそうなんですよね」と話しました。
それで僕らはそうだよな、当たり前だよな、と思った。だから「注文をまちがえる料理店」は、間違えることを目的にするのではなく、間違えないための準備を最大限して、その上で間違えたら「ごめんね、テヘペロ」っていうふうにしようねって決まりました。
当事者の意見がすべてを決めるというわけではないですが、僕たちにとっては、その一言は大きな道しるべになりました。恣意的につくられた間違いって、笑えないじゃないですか。本当に思いきりみんなが間違いを受け入れて笑うためには、安心して間違えられる環境をつくって、それをみんなで一緒に楽しむところまで準備しない限り、やる資格はないよねっていうことを教えてくれたんだと思います。
無関心から自分事へ「スイッチ切り替える」
冨:お二人から、最後にメッセージをお願いします。
岩佐まりさん:認知症の介護は本当に大変だと思います。けれど、マイナスなことばかり起きるわけではない。人間として、とても成長できると思っています。無理だったらやらないほうがいいですが、やれるならば是非やってほしい。そのときは、私からコツを二つ教えます。
一つは、絶対に福祉サービスを使うことです。そして自分の時間は絶対に持つこと。自分の人生を諦めずに、福祉サービスを使いながら、自分のやりたいことを必ずやってほしいです。介護をしながら、自分の人生も歩む。そのための福祉制度、サービスがあるのです。
そしてもう一つ。仲間をつくってくださいね。それはサービス提供者の仲間ではなくて、同じ家族の仲間です。きっと家族会に行けば同じ境遇の人たちがいますから。仲間ってそんなに大切かって思うかもしれないですが、大切です。これは身をもって分かっています。この二つさえやっていれば、そんなに恐れなくても絶対に大丈夫です。
小:僕ははっきりいって、認知症についても、福祉やいろんなことにも、ど素人なんです。それでいいと思っています。当事者って誰かというと、本人や家族だけじゃなく、みんなだと思うんです。色んな方向から入ってきやすい仕組みや舞台があったらいいなと、いつも思っているし、僕がやれることはそういうことだと思います。僕みたいな、にわか者がヒョコヒョコ出ていって、レストランつくって。
でも、「いいじゃん、そういうのもありだよね」みたいなことを言ってくれる福祉だったら楽しいだろうし、そういった寛容さがあれば、結果的にスイッチが変わっていく。これからも、にわか者も入れる場所をつくっていきたいなと思っています。
冨:今日のお話のタイトルは、「1億人のスイッチを切り替える」。日本に生きている人全員が認知症を、自分には関係ない、自分は絶対認知症になりたくない、じゃなくて、どこかで自分や自分の大切な人がなるかもしれないし、自分にできることがないかなって考える社会になったらいいなと思っています。
「なかまぁる」は、認知症の当事者とともにつくるウェブメディアです。今日のイベントで、午前中に登壇した認知症ご本人の福田人志さんが話していたのは、「認知症のイメージを壊してほしい」ということでした。認知症の人と家族の会東京都支部代表の大野教子さんは、「認知症になることも介護するのも大変だけど、必ず出会いと気づきがあって、ポジティブな側面がある」と話していました。
そんなふうに、認知症の色んな側面があるんだよということを、一人ひとりが発信していけるような世の中が本当のフレンドリー社会なのではないかと思っています。
今日はこのへんで、皆さんご静聴ありがとうございました。
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