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今日は晴天、ぼけ日和

私に触れるあなたの手 肌から肌へ 互いの温もりで感じ合う命への敬意

《介護福祉士でイラストレーターの、高橋恵子さんの絵とことば。じんわり、あなたの心を温めます。》

ベッドでうとうとするひと

私は一日中、
ベッドでうとうと。

しめくくりの大切な時を、
ひとり、たゆたっている。

だからだれかと話したり、
そとを見たりする必要も、
もうないの。

ヘルパーさん

けれど、毎日
私に伝わるなにかがあるの。

それは、
私の肌から伝わる、
あたたかさ。 

ほんのりじんわり、
全身をめぐるように。

空に手をあわせるひと

ぬくもりのはじまりは、
私にふれる、あなたの手。

あなたの思い、
ぜんぶ肌から受け取っているのよ。

私はここにいると、
あなたの愛に気づかされて。

私たちは、言葉にならないなにかを、
それでもたしかに受け取ったという実感があるとき、

「肌で感じた」といい表すことがあります。

それくらい人は、肌から外界の機敏をつぶさに受け取り、
もしかしたら目で見えるものよりも、
本能的には信頼をおいているのかもしれません。

介護では肌と肌の接触が多くうまれます。
だからこそ私は、そのふれあいには言葉以上に気をつかい、
肌から肌に伝わるものがあるという前提で、身体介護を学んできました。

それはイラストのお話のように、ベッドの上で、
しめくくりの時を過ごす人の介護にかぎりません。

たとえば入浴の介護では、
相手は肌をさらして、介助者の私は着衣のままでいる場合が多くなります。

そのとき、表情や肌からその人のぬぐいきれないはずかしさや緊張が、伝わってきます。

そしてやはり、その緊張が私の肌にも伝播(でんぱ)するのです。

だから、その人の肩に滑らせるタオルごしにでも、
せめて安心を伝えられるように、
手にこわばりや荒さがのらないようにします。

すると、お互いの呼吸が少しずつあうようになって、
気持ちのいい時間をつくることができます。

それは「介護は大変だ」という日頃の思いを越えて、
お互いの命に敬意を感じあえるような、
得難いコミュニケーションのときでもあります。

介護は大変だけれど、その時を分かち合ったぶんの、
得難いきらめきがあるという思いが、私は消えません。

それは、この見えなくとも繊細な、
肌と肌との語らいに由来しているのだろうと思うのです。

 

 

《高橋恵子さんの体験をもとにした作品ですが、個人情報への配慮から、登場人物の名前などは変えてあります。》

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