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副業ヘルパー

難易度高い大人のおむつ交換に四苦八苦 サイズも手順も子どもとは大違い

大人用のテープ式おむつ。Mサイズで大きいです
大人用のテープ式おむつ。Mサイズでこの大きさです

新卒で入社した出版社で、書籍の編集者一筋25年。12万部のベストセラーとなった『87歳、古い団地で愉しむ ひとりの暮らし』(多良美智子)などを手がけた編集者が、40代半ばを目前にして、副業として訪問介護のヘルパーを始めることを決意しました。働き始めるために必須とされたのが「介護職員初任者研修」の受講。今回は、研修で学んだ「排泄(はいせつ)介助」についてです。

育児経験から、おむつ交換には抵抗がなかったけれど…

研修も半ばをすぎ、いよいよ実技のハイライトである排泄介助を習うことになりました。
排泄介助には、大きく分けて2つあります。
ひとつは、トイレ利用の介助。排泄はトイレでできるけれど、体が不自由なため、ひとりで便座に立ったり座ったりが難しい。ズボンや下着の上げ下ろしが難しい。排泄後の始末(ペーパーで拭く)が難しい…といった方のお手伝いをします。
こちらはポータブルトイレで練習しましたが、トイレ利用の介助の難易度は低め。便座にしっかり座っていただくことができれば、あとはご自分で排泄されるのを待つだけです。

難易度が高いのはもうひとつの排泄介助。ベッド上でのおむつ交換です。
寝たきりだったり、排泄のコントロールが難しかったりといった理由で、トイレ利用ができない(トイレに間に合わない)方の場合、おむつ内に排泄することになります。
尾籠(びろう)な話ですが、おむつを開けば、そこに便があるわけです。これに抵抗があり、介護職を敬遠する人も多いようですね。
ただ、私はおむつ交換にあまり抵抗がありませんでした。2人の子どものおむつを、それこそ何千回と取り替えてきました。おむつ交換には耐性があるつもりです。子どもと大人の排泄物のにおいは違うと言いますが、いやいや赤ちゃんの頃はまだしも、大人と同じ食事をとるようになれば、子どもの便も十分くさいです(苦笑)。
それに、おかしな言い方かもしれませんが、育児の中でもおむつ交換はわりと好きなことでした。排泄物がおむつの中で密着したままなのは、とても気持ちの悪い感触だと思います。排泄物を処理し、おしりをきれいに拭いて、新しいおむつに替えると、「すっきりしたね!」と、こちらもすっきりした気分になったものです。

子どもと大人では、おむつのサイズも交換手順も違う

おむつ交換の実技のメモ。体で覚えるまで練習しました
おむつ交換の実技のメモ。体で覚えるまで練習しました

育児の経験から「おむつ替えなら慣れてるわ」という気持ちで臨んだ実技でしたが…。ちょっと甘かったです。子どものおむつ交換とはまったくの別物でした。
まず、おむつの大きさが全然違うのです。見慣れた子ども用おむつと比べて、大人用おむつは「お、大きい…」。テープで前に止めるタイプのおむつは、広げると巨大。縦の長さは60~70cmくらいある。腰全体を包み込むわけで、それは巨大になります。最初は扱いに苦労しました。
利用者さん役の人の体に、おむつをフィットさせるのが難しいのです。講師の先生から、「おむつの中心線を背骨に合わせましょう」といった指導が入るのですが、なかなか思い通りにいかない。こちらの端を固定しようとしても、あちらの端が動いてしまう…。使いこなせるようになるまで四苦八苦しました。

また、子どもの場合、体が小さく体重も軽いので、片手で両足を上に上げて腰を浮かし、もう片方の手でおしりを拭いて新しいおむつをあてる…ということも簡単。ささっと終わりますが、大きな成人の体では片手で両足を持ち上げるなんてできません。まして、利用者さんは体が不自由という設定。自力で腰を浮かしてもらうこともできません。
ではどうやっておしりを拭くかというと、1つひとつ工程を踏みます。利用者さんの体を、仰向けから横向きにします。そうすれば、臀部(でんぶ)があらわになるので、ここで排泄物を処理。そして、利用者さんの体は横向きにしたまま、ベッド上に新しいおむつを広げておきます。利用者さんの体を仰向けに戻せば、おしりに新しいおむつが敷かれていることになります。
このように、利用者さんが起き上がれなくてもおむつ交換ができてしまうのは、すごい技術ではあるのですが、全工程を通して何度も体位変換を行い、少しずつ進める必要があります。一度に終わらないのです。
子どものおむつ替えと大人のおむつ替えは勝手が違うもの。イチから習得する必要がありました。

おむつを「替えられる側」の経験で学んだこと

おむつ交換の実技で、とくに勉強になったのは、利用者さん役をしたことでした。
実技全体を通して、「利用者さん役をすることで、介護をされる側がどういう気持ちを抱くか、どういう触れ方や声がけをされたいか、どういうことをされるのがイヤか、身をもって理解することが大切です」と、講師の先生方に言われていました。
利用者さん役となり、介護ベッドに寝転がってみます。それだけで、とても新鮮な体験でした。そうか、横になったこの位置から、介護者を見上げるんだ。「声をかけるときには、かがんで近づいて」と教えられましたが、たしかに高い位置から見下されるより、低い位置で声をかけられた方が安心する。「利用者さんの感覚」は、実際に経験してみないとわからないものです。

おむつ交換の実技は、もちろん洋服を脱いでするわけではなく、洋服は着たまま、その上におむつを着脱する形です。あくまで「疑似」ではありますが、それでもベッドの上で下半身をさらされ、おしりを拭かれる「心もとなさ」「気恥ずかしさ」は十分実感できました。さらには、介護者に排泄物を処理してもらう「申し訳なさ」も。
「おむつ交換の際には、バスタオルなどを腰の辺りにかけましょう。保温のためだけでなく、配慮として」
「“おむつ”という単語は使わないように。『下着を取り替えましょう』と言ったり、布団の上から腰のあたりに触れて『こちら、替えましょう』とあいまいに伝えたりします」
と教えられました。
こうした心遣いこそ、介護ではとても重要なのだなあと思い、ヘルパーとして働くにあたって忘れてはならないこととして強く記憶に残っています。

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