認知症とともにあるウェブメディア

「フレイル」の予防法やチェック法 サルコペニア、ロコモとの違いは?

フレイルについて専門医が解説します
フレイルについて専門医が解説します

「健康と要介護の中間状態」と定義される「フレイル」。一方で、生活習慣などを見直すことで健康な状態に戻れる可能性もあるとされています。東京大学高齢社会総合研究機構・未来ビジョン研究センターの飯島勝矢教授に、要因や「サルコペニア」や「ロコモ」との違い、チェックリスト、予防法などについて、詳しく教わりました。

フレイルとは
フレイル、サルコペニア、ロコモの違い
フレイルの要因となる三つの構成要素
フレイルのチェックリスト
フレイルを予防するには
社会とのつながりをもとう

フレイルについて解説してくれるのは……

飯島勝矢・東京大学高齢社会総合研究機構 機構長・未来ビジョン研究センター教授
飯島勝矢(いいじま・かつや)
東京大学高齢社会総合研究機構 機構長・未来ビジョン研究センター教授
東京慈恵会医科大学卒業後、千葉大学医学部付属病院循環器内科入局、東京大学大学院医学系研究科加齢医学講座講師、米国スタンフォード大学循環器内科研究員などを経て、現職。内閣府「一億総活躍国民会議」有識者民間議員。フレイル予防のための大規模コホート研究およびシステムを構築し、市民フレイルサポーター主導型健康増進プログラムを推進。

フレイルとは

日本老年医学会が2014年5月に提唱した「フレイル」。虚弱を意味する「Frailty」という英語をもとにした和製英語です。フレイルの定義、フレイルの状態になるとどうなるのか、五つの兆候について紹介します。

フレイルの定義

フレイルの学術的な定義は確定していませんが、厚生労働省研究班の報告書では、「加齢とともに心身の活力(運動機能や認知機能等)が低下し、複数の慢性疾患の併存などの影響もあり、生活機能が障害され、心身の脆弱(ぜいじゃく)化が出現した状態であるが、一方で適切な介入、支援により、生活機能の維持向上が可能な状態像」と定義しています。
簡潔にいうと、要介護と健康の中間地点にいる状態であり、生活習慣などを見直すことで健康な状態に戻れる可能性もある段階ということです。一方で、身体的、精神・心理的、社会的などの多面的な問題が重なってなりやすいという特徴があります。

フレイル状態になるとどうなるのか

健康な状態から、さまざまなことがきっかけとなり、加齢とともにプレフレイル→フレイル→要介護という段階に進みます。フレイルは、要介護の手前というデリケートな分岐点ともいえる時期です。何も対策をしなければ、早い段階で日常生活に支障が出て、一人で自立して生活することが難しく(要介護状態)、早期での死亡のリスクが高くなります。

5つの兆候とフレイルサイクル

体重減少、筋力低下、疲労、歩行速度の低下、身体活動の低下

フレイルの身体的な兆候には、「体重減少」「筋力低下」「疲労」「歩行速度の低下」「身体活動の低下」があると言われています。これらの兆候は互いに関連しあって、悪循環に陥ります。例えば、病気による入院などで2週間、寝たきりの生活をすると、約7年分の筋肉が失われると言われます。すると筋力や基礎代謝量(生命を維持するために消費される必要最小限のエネルギー代謝量)が低下します。筋力の低下は歩行速度の低下などに関わり、基礎代謝量の低下などでエネルギー消費量が減り、加齢に伴う食欲低下が重なると、低栄養状態に陥ります。こうした悪循環を「フレイルサイクル」と言います。さらに精神・心理的な部分や社会的な要素も絡み合うと、フレイルは加速しやすくなります。

フレイル、サルコペニア、ロコモの違い

超高齢社会になった日本では、高齢者の健康に関心が高まる中、フレイルのほかに「サルコペニア」「ロコモ」という概念が注目されています。どのような違いがあり、どのように関わっているのでしょうか。

サルコペニア

加齢や病気によって筋肉量が減少した状態のことで、フレイルを招く大きな危険因子になると考えられています。ギリシャ語で「サルコ」は筋肉、「ぺニア」は喪失の意味があります。サルコペニアになると、歩く、立ち上がるなどの日常生活の基本的な動作に影響が出て、介護が必要になったり、転倒しやすくなったりします。また、さまざまな病気の重症化や生存期間にもサルコペニアが関わることが指摘されています。サルコペニアかどうかは、筋肉の力(握力の測定)、筋肉の機能(歩行速度、5回イス立ち上がりテストの測定)、筋肉の量(特殊な機器を用いるBIA法、DXA法などで骨格筋量を測定)という三つの側面から判断します。

ロコモ

「ロコモティブシンドローム」の略称で、運動器(骨、関節、筋肉、神経など)の障害のために「立つ」「歩く」といった移動機能の低下をきたした状態のことを言います。英語で移動を意味する「ロコモーション」と移動するための能力があることを表す「ロコモティブ」からつくられた言葉です。ロコモが進行すると、将来要介護になるリスクが高くなります。ロコモはフレイルよりも早い時期から現れやすく、ロコモが進行して身体能力の低下が目立つようになると、身体的フレイルの状態になります。

フレイルの要因となる三つの構成要素

フレイルの要因には大きく分けて「身体的要素」「精神・心理的要素」「社会的要素」の三つがあります。フレイルの特徴の一つは多面性であり、三つの要素が互いに関連して、悪循環を引き起こします。サルコペニアなど身体的なきっかけでフレイルに進む人、うつ傾向など精神・心理的なことがきっかけとなる人、独り暮らし、1人での食事など社会的な要因がきっかけとなる人など、さまざまです。

身体的要素

サルコペニアや歩行、バランス、筋力など運動機能の低下(ロコモ)、かんだり、のみ込んだりという口の働きの機能低下、聴力や視力など身体機能の低下などが身体的要素となります。例えば病気で入院して、筋肉量が落ちると、疲れやすくなって活動量が低下し、精神・心理的、社会的にもフレイルが進みます。

精神・心理的要素

意欲、判断力の低下、抑うつ、不安などが精神・心理的要素となります。ちなみに、認知機能の軽度低下(いわゆるMCI:mild cognitive impairment)に身体的フレイルが加わると、認知的フレイルといわれており、早い速度で要介護に進みやすいと言われています。

社会的要素

独り暮らし、閉じこもり、1人での食事、支援者や友人、近隣者の不在などが社会的要素となります。フレイルに進むきっかけとして、最も頻度が高いのが、社会的要素です。独り暮らしなどで人とのつながりがなくなり、引きこもりがちになって身体的、精神・心理的にもフレイルが進みます。

フレイルのチェックリスト

J-CHS基準

フレイルには、統一された評価基準がありません。主に身体的フレイルを評価する代表的な基準に日本版CHS基準(J-CHS基準)という評価方法があります。

 J-CHS基準 【体重減少】6カ月間で2キログラム以上の意図しない体重減少があった、【筋力(握力)低下】握力:男性<28キログラム 女性<18キログラム、【疲労感】(ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする、【歩行速度】通常歩行速度<1.0メートル/秒、【身体活動】①軽い運動体操をしていますか?②定期的な運動・スポーツをしていますか? の問いに2つとも「週に1回もしていない」と回答 3つ以上該当=フレイル 1〜2つ該当=プレフレイル 該当なし=健常

イレブン・チェック

東京大学高齢社会総合研究機構が、高齢者を対象にした大規模調査をもとに開発したフレイルチェックも、市民が主体となってフレイル予防に取り組むための評価方法として普及しています。栄養、口腔機能、運動、社会参加に関連する質問からフレイルのリスクを簡易的に調べる「イレブン・チェック」は、その1つです。

 「イレブンチェック」それぞれの質問に対して、あてはまると思う方に丸をして下さい。[4]、[8]、[11]の質問は「はい」「いいえ」の位置が他の質問と逆になっているので注意して下さい。【栄養】[1]ほぼ同じ年齢の同性と比較して、健康に気をつけた食事を心がけている はい・いいえ [2]野菜料理と主菜(肉か魚)を両方とも、毎日2回以上は食べている はい・いいえ 【口腔】[3]「さきいか」「たくあん」くらいの硬さの食品を普通に噛み切れる はい・いいえ [4]お茶や汁物でむせることがある いいえ・はい 【運動】[5]1回30分以上汗をかく運動を週2日以上、1年以上実施している はい・いいえ [6]日常生活において歩行または同等の身体活動を1日1時間以上実施している はい・いいえ [7]ほぼ同じ年齢の同性と比較して、歩く速度が速いと思う はい・いいえ [8]昨年と比べて外出の回数が減った いいえ・はい 【社会性・心】[9]1日に1回以上は、誰かと一緒に食事をしている はい・いいえ [10]自分が活気にあふれていると思う はい・いいえ [11]なによりもまず、物忘れが気になる いいえ・はい 右側の赤い欄についた丸が 0〜2個・・・正常群 3〜4個・・・プレフレイルの可能性 5個以上・・・フレイルのリスクが高い

フレイルを予防するには

フレイルを防ぐには、栄養(食事、かんだり、のみ込んだりという口の働きの機能の向上)、運動、社会参加の三位一体で取り組むこと、そして継続することが重要です。たとえフレイルの状態になっても、自分次第で健康な状態を取り戻すことはできるのです。フレイル予防のための食事、運動、口の中のケア、社会とのつながりについて紹介します。

食事

高齢になると食が細くなり、必要な栄養がとれずに低栄養になってしまうことがあります。3食しっかり、栄養バランスよく食べることを意識するのはもちろんですが、特にフレイル予防のために意識したいのがたんぱく質です。たんぱく質は筋肉をつくりますが、高齢になるほどたんぱく質から筋肉をつくる効率が悪くなるのです。肉類、魚介類、卵、乳製品、大豆製品などたんぱく質源となるさまざまな食品をとることが大切です。さらに筋肉や骨をしっかりと維持するためには、たんぱく質に加え、ビタミンDも重要です。

運動

運動は身体機能の向上だけではなく、ストレスの発散、脳の活性化などさまざまな効果があります。今より10分多く体を動かすことを心がけましょう。サルコペニア予防のためには、散歩やウォーキングのほか、筋肉量や筋力を減らさないための筋トレも大切です。また、十分な栄養を摂らずに運動だけを頑張ってしまうと、むしろ痩せてしまいます。すなわち、栄養と運動はセットだと考えましょう。

口の中のケア

滑舌の低下、食べこぼし、わずかなむせ、かめない食品が増える、口の中の乾燥など、かんだり、のみ込んだりする口の働きの機能の低下は「オーラルフレイル」といって、フレイルに影響を与える要素の1つです。このため、オーラルフレイルの兆候を見逃さず、口の中のケアに取り組むことが大切です。かかりつけの歯科医師を持ち、定期的に歯科健診を受けるほか、根菜類を利用する、食材を大きく切る、野菜の加熱時間を短くする、ご飯の水分量を少なくするなどの工夫で、かみごたえがある食事を意識しましょう。

社会とのつながりをもとう

社会とのつながりがいかにフレイル予防に重要かということを示す調査結果があります。東京大学高齢社会総合研究機構の研究チームが、自立した高齢者約5万人を対象に①身体活動という運動習慣②文化活動③地域・ボランティア活動という三つの行動習慣があるかどうかを調査して、フレイルのリスクを調べました。三つすべての習慣がある人のフレイルのリスクを1とすると、いずれの習慣もない人はフレイルになるリスクが16.4倍、運動習慣はあるけれど、ほか二つの習慣がない人は6.4倍、運動習慣はないけれどほか二つの習慣がある人は2.2倍でした。つまり、運動習慣があっても、文化活動や地域・ボランティア活動などの習慣がない人は、この二つの習慣がある人に比べて、フレイルのリスクが約3倍になるのです。運動をしていなくても地域に出て、人とつながりをもち、継続的に活動していれば、自然と身体活動量が増えていると考えられます。

地域に求められる多様な選択肢

趣味や文化、芸能などのサークル活動や地域活動に参加して、外出の機会を増やすことで、社会とのつながりを持つことができます。ただし、こうした社会とのつながりがフレイル予防にとって大事だということがわかっても、誰もがいきなり多趣味にはなれませんし、集団での地域活動に参加できるわけではありません。1人で読書をするのが好きな人を無理やり大勢の人が集まる場に引っ張り出しても、本人にとっては居心地の悪さを感じるだけです。大事なのは、もともと1人でいるのが好きなのか、本来は集団活動ができていたのに何らかのきっかけにより活動範囲が狭まって孤立しているのか、見極めることです。1人で過ごすのが好きな人でも、日常的にスーパーなどに買い物に出かけていれば身体活動は増えますし、健康に配慮した生活を送っていればフレイルに進行しないので、安心してください。高齢者一人ひとりに合わせられるように、地域に多様な選択肢があるということも、フレイル予防のために欠かせない要素といえるでしょう。

あわせて読みたい

この記事をシェアする

認知症とともにあるウェブメディア