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「晴れの国」の青空の下に集合! 岡山市で進むチームオレンジの活動

七夕飾りを付ける「MK!あおぞら教室さくら組」のメンバーたち(左は代表の宮本京子さん)
七夕飾りを付ける「MK!あおぞら教室さくら組」のメンバーたち(左は代表の宮本京子さん)

2025年には認知症の人が約700万人になると予想されています。近所のスーパーやコンビニ、スポーツジムや公園、交通機関にいたるまで、あらゆる場面で認知症の人と地域で生活を共にする社会が訪れます。少しずつではありますが、認知症の人の思いや立場を尊重した独自の取り組みが個人商店や企業、自治体で始まっています。各地に芽吹いた様々な試みをシリーズで紹介します。

「チームオレンジ」という言葉を知っていますか。全国で1400万人いる認知症サポーターが地域の核になってチームを組織して、認知症と思われる初期の段階から、心理面や生活面を支援する取り組みです。2019年にまとめられた「認知症施策推進大綱」の中で提唱され、認知症の人が700万人になると予想されている2025年までに全国の市町村で整備する目標が掲げられています。まだ一般的にはあまり知られていない活動かもしれませんが、組織化について頭を悩ましている自治体や福祉の関係者は多いのではないでしょうか。

岡山市は早くからこのチームオレンジに取り組んできました。2022年には市内で3つのチームの活動が始まりましたが、「南区西地域」で行われている「MK!(まじでかいてき)あおぞら教室さくら組」は、今年2月に全国キャラバン・メイト連絡協議会が主催した「認知症サポーター・キャラバン 令和4年度表彰式・報告会」の「チームオレンジ取り組み事例」で「特別賞」を受賞しました。7月初旬、そのあおぞら教室を訪ねました。

あおぞら教室が開かれているのは岡山駅から車で約40分の岡山市南区の田園地帯にある一軒家です。このあたりは古くは児島湾でしたが、安土桃山時代から干拓が始まり、あおぞら教室が開かれている興除地区も200年前に干拓された場所です。訪れた時は周囲の水田はどこも田植えが終わったばかりで、水を張った田んぼに小さな苗が規則正しく並んだ風景が広がっていました。

あおぞら教室は月3回、火曜日に開かれます。参加費はお茶代の100円。メンバーは近くに住む人たちで、75歳から88歳までの女性12人、男性1人です。納屋の軒先に椅子を並べて、まさに青空の下で午前10時から約2時間、工作や朗読、合唱などを楽しみ、最後は岡山市が介護予防として独自に実施している「あっ晴れ!もも太郎体操」を行います。もも太郎体操は岡山市内で約370団体、約4800人が取り組む、「歩く力」「食べる力」を高めるためのストレッチや口腔体操、筋力トレーニングを組み合わせた体操です。身体機能を高めコミュニケーションを増進するのが目的で、身近な所に「通いの場」を作るツールとして広がっています。

高齢者向け電動車両で自宅からやって来たメンバー
高齢者向け電動車両で自宅からやって来たメンバー

あおぞら教室の代表はこの家に夫と暮らす宮本京子さんです。宮本さんは長い間夫の事業を手伝っていましたが、夫が引退したのをきっかけに民生委員になり、6年間続けました。華道や茶道を教えていて、小学校で子どもたちに指導することもあります。仕事を辞めてからは、何か地域に役立つことをしたいと考えていましたが、「井戸端会議」のような気軽な集まりができればいいなと思っていたそうです。
「昔は近くの川べりに友だちと一緒に座って、何時間も話をしたんですよ。そんなことがまたできたらいいなって思って…」と宮本さん。この宮本さんの思いを知っていたチームオレンジコーディネーターが、近所に暮らすボランティア活動を積極的にしていた認知症の人を誘って、2022年12月からチームオレンジとしてのあおぞら教室の活動が始まりました。同時にメンバー全員が認知症の正しい知識を得るため認知症サポーター養成講座を受講しました。

この日、まず参加者が取り組んだのは「七夕飾り」です。笹は宮本さんの敷地に自生している笹を切り出しました。メンバーはおしゃべりをしながら短冊を切ったり和紙でこよりを作ったりして活動に取り組みました。
途中、メンバーに「ここに来て何が楽しいですか」と質問すると、全員から即座に「おしゃべり!」という答えが返ってきました。メンバー13人のうち一人暮らしの女性は5人います。自分の健康のことや家族のことなど、何気ない世間話をするのが最高の楽しみだということでした。

納屋の軒先で行われるあおぞら教室
納屋の軒先で行われるあおぞら教室

奥さんを軽トラックで送迎している88歳の萩原公郎さんに話を聞きました。こよりを作りながら奥さんについて「昔は町内の世話をよくやっていたんじゃが、2年前ぐらいから調子が悪くなって、デイサービスでリハビリとかやったけど指示されるのが合わんかったな。普段は外出できんので、ここでみんなと交流できるのがええなあ」と話していました。

合唱するメンバー
合唱するメンバー

七夕飾りの後は、詩の朗読や合唱を楽しみました。最後は音楽に合わせて「もも太郎体操」を行いました。ストレッチ体操に始まり筋力トレーニングまである本格的な内容で、1時間近く念入りに体を動かして、この日のプログラムが終了したのは正午前でした。梅雨の合間、「晴れの国」岡山のこの日の最高気温は32.7度。私は日陰でメンバーの様子を見ていただけでしたが、汗が噴き出して着ていたTシャツはベトベトになっていました。

もも太郎体操を行うメンバー
もも太郎体操を行うメンバー

岡山市では2025年までに市内の6福祉区全てで1つ以上のチームオレンジの活動を始める予定です。順調に進むチームオレンジの活動について岡山市高齢者福祉課の岡本祐佳さんに話を聞きました。岡本さんは「岡山市のチームオレンジは認知症の人やその家族の声を聞くことから始まります」と言います。地域包括支援センターの職員(地区担当、認知症地域支援推進員、認知症初期集中支援チーム員)が、ていねいに認知症の人や家族の声を聞きニーズを把握するのです。「普段の業務の中から本人や家族のニーズを拾い上げる地道な活動が、チームオレンジにつながる種になったのではないでしょうか」と岡本さん。

また、チームオレンジの結成時には、町内会長や民生委員などと情報共有を行う仕組みを構築しています。岡山市内には6センター10分室の地域包括支援センターがあって約130人の専門職員がいます。市内の地域包括支援センターの事務局である岡山市ふれあい公社地域包括支援課の秋山倫代さん(チームオレンジコーディネーター)によると「とくに民生委員が地域の住民の様子をよく把握していて、彼らからの情報提供が多いのが助かります」と話していました。

この話を聞いてふと思い出したのが、1917年に当時の岡山県知事だった笠井信一が民生委員の先駆けとも言える「済世顧問制度」という、地域の貧しい人の相談に乗る支援制度を作ったことです。笠井以外にも「児童福祉の父」と言われる石井十次や「感化事業の父」とも称される留岡幸助など、岡山は日本の社会福祉の基礎を築いた人とゆかりがあります。こうした伝統が着実に受け継がれているのかもしれない、と感じた今回の取材でした。

完成した七夕飾りの前に集まったメンバーたち
完成した七夕飾りの前に集まったメンバーたち

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