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バイオテック侍のシリコンバレー日記

快眠体質と思いきや……無呼吸が発覚 “侍”の検査体験記in米国・後編

スタンフォード医療センター前で。”Hang in there, Taisei !!!”( 頑張れ、大成!!!)
スタンフォード医療センター前で。”Hang in there, Taisei !!!”( 頑張れ、大成!!!)

“侍”として米国社会に挑む心意気で2001年に渡米し、バイオテック(製薬)企業で新薬開発に努めてきた木下大成さん(55)。カリフォルニア州のシリコンバレーで妻、息子との生活を過ごしてきましたが、数年前から少しずつ見られていた記憶や理解力の低下が顕著になり、2022年10月、若年性アルツハイマー型認知症と診断されました。認知症とともにある人生を歩み始めた木下さんが、日々の出来事をつづります。今回は、これまでに受けてきた検査についてのお話の後編です。

※前編の記事「なかなかハード! 認知症の診断に至るまで “侍”の検査体験記in米国・前編」はこちらからご覧下さい。

今回はスタンフォード大の睡眠医学センターで受けた睡眠検査と治療についてリポートします。医師の先生とコンサルテーション(専門家との協議)をしたあと、自宅でできる簡易スリープ検査を行いました。これは、携帯電話と時計の形をした検査キットを連動させて、自宅のベッドで眠りつつ、眠りの質を測るという便利な検査です。

昔から悩み事があるときもベッドに入ったら5秒で寝られる快眠体質で、寝ても寝ても眠いのは、ただ寝るのが好きなだけだと思いこんでいましたが、一連の検査の流れで調べたところ、なんと睡眠時無呼吸の可能性がわかったのです。主治医からも、睡眠中の無呼吸は記憶力低下に良い影響はなく、治療を進めるようプッシュされ、CPAP(Continuous Positive Airway Pressure:持続陽圧呼吸療法)を始めることにしました。

睡眠時無呼吸症ホーム検査キット
睡眠時無呼吸症ホーム検査キット

日本でも一般的に使われている機械のようで、ラグビーの頭部プロテクターのようなヘッドセットを就寝前に装着し、睡眠に入ります。付属する小さな機械から圧力をかけて、水気を帯びたエア(空気)を両方の鼻腔に送り込み、無呼吸によって低下した酸素レベルを補充する対症療法的な治療のことで、記憶力の低下や起床時の不快感を含む、様々な不利益を軽減するそうです。慣れてしまえば、さして気にもならず、簡単に扱える機械のように思いましたが、水を入れるタンクやヘッドセットを毎日ゆすいだり洗ったりするのは少し手間がかかります。

他に、ウチでの小さな問題として残っていたのは、飼っている猫のグレイシーが時々、プラスチック製の蛇腹のチューブ部分をかんでやろうとウロウロすることでした。しばらく、私も気になっていましたが、割と早い段階であっさり興味が失せたようで、窓際で寝た方がマシとグレイシーも決め込んだようです。

使用開始から2カ月経ちましたが、何だか寝起きが良くなった気がします。妻いわく、朝まで起きないで眠る日が多くなったそうですが、まあ、今の段階では臨床試験でいうプラシーボ効果(偽薬効果)かもしれません。今後もCPAP の使用を継続して、この効果(思い込み?)を検証したいと思います。

猫グレイシー「あぁ、それ、気になる……」
猫グレイシー「あぁ、それ、気になる……」

これほど私たち夫婦が、認知症治療や検査などに、必死になって参加しているのには、いくつかの理由があります。若年で発症という、思いがけない時間軸で舞い降りてきた厄介な病気。米国のバイオテック(製薬)という、ストレスが多い環境にいたことも遠因になったのかもしれません。しかし、バイオテックにいたからこそ、得たこともたくさんありました。家族もそのことを誇りに感じていてくれたと思います。ですから、恨み言はこの辺にして、検査も治療も、主治医と相談しつつ、積極的に参加するよう、マインドセットしています。
もちろん、すべては自分が認知症であるがゆえのことですので、何度もそのことを思い出させられて辟易(へきえき)することがあります。でも、数カ月にわたって検査の場数を踏んできましたし、若干は何をやっているのかわかる部分もあるので、自分も研究チームの一員のような気さえし始めています。

その意味では、最近、抗認知症薬としてレカネマブという新薬が、米国で条件付きながらも承認されたのは追い風のように感じています。私たちも、できるだけ早い段階で治療に臨みたいと思っています。しかしその一方で、新薬ゆえに最初の設定価格が高いとか、生産が追い付いていないなどのハードルに出くわしてしまう可能性が考えられます。また、どんな新薬も、市場に出回ってしばらくの間は、臨床試験の大型最終テストという色合いを帯びているので、即座に誰でも好きに使えるというたぐいのものでもありません。
ですから、医者の先生グループの方々のみならず、当事者とその家族との共同作業としてとらえて、慎重に薬効と副作用をPETやMRI、その他の検査を受け、注視していく必要があります。そのため、日常的に通っている病院ではレカネマブ治療は受けられず、このエリアでは、UCSFとスタンフォードだけとなります。まだまだ不透明な部分もありますが、着実に色々なことが実現する時が近づいてきたように感じられます。
まさに、”We’re ready! ” (さぁ、やるぞ!)
夫婦で、これからの私たちの長い戦いに名前を付けてみました:“臨床試験・俺”です。

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