これからのKAIGO~「自分にできる」がきっと見つかる~

介護の働き方改革 施設から半径2キロの人材を掘り起こし 「介護」色消した職種導入

ハローワークに求人票を出したり、求人広告を出したりしても反応がない――。
このような現実から脱した介護サービス事業者がでてきています。神奈川県海老名市にある特別養護老人ホーム和心(なごみ)では、「介護」色を消した職種を新設し、働く側が働きやすい環境を整えることで乗り越えました。同時に雇用形態や年齢を問わず、ユニットごとに業務改善の提案を考えていく手法などを採り入れ、世代を問わず、働きやすい、やりがいのある、自分が成長していると実感できる職場づくりを実現しています。シリーズ「これからのKAIGO~『自分にできる』がきっと見つかる~」の3回目は、地域に埋もれた人材の採用手法から定着への布石、現場のチーム感の醸成について深掘りしました。

課題:働き手はどこにいて、どのように探せばいいのか

介護イノベーター 金子直浩さん(かねこ・なおひろ)
44歳。就職氷河期に理系大学を卒業。卒業後、介護専門学校に進学し、介護福祉士の資格を取得後、神奈川県内の高齢者施設に就職。翌年、社会福祉法人ケアネットに転職。神奈川県で第1号となったユニットケアの特別養護老人ホーム開設にかかわる。その後、法人内の別施設に異動し、2017年、特別養護老人ホーム和心の施設長に就任。

すき間時間を使った家事援助の仕事ならできるかもしれないとどう思わせるか

特別養護老人ホーム和心の施設長、金子直浩さんが考える地域に埋もれた人材の活用ためのポイントは次の五つです。

  1. 施設がある地域に募集ターゲットを絞り、地域から人材を掘り起こす
  2. 「介護」というキーワードは使わず、イメージを変える
  3. 無資格でも問題のない仕事や単純作業の業務であることを明確にする
  4. 個々の得意や特技を丁寧に聞き取りし、それをいかした業務を振り分ける
  5. 世代や雇用形態で壁を作らせない、風通しのよい職場づくり

和心は2018年、これまでとは発想を転換し、「ライフメイト」と呼ばれる家事援助を専門に行う新しい職種を導入しました。高校生アルバイト、ダブルワーク、定年を迎えた職員など地域に埋もれた人材に、働きやすい職場を提供するためです。

「介護職員の業務は多岐にわたり、入居者と接する直接的な介護よりも専門性を必要としない掃除などの作業を優先しなければならないときが日常的にあります。このような環境は、サービスの質、専門職のやりがいやモチベーションを低下させることにつながります。そこで、この問題を解決するためにライフメイト制度を創設しました」

和心での介護職員とライフメイトの仕事の違いを端的に表すと「入居者に触れるか、触れないか」に尽きるといいます。ライフメイトの仕事は、食事の盛り付け、配膳、下膳、食器洗い、入浴時の着替えの準備、脱衣後の後片付け、お茶出し、見守り、話し相手、洗濯、シーツ交換、居室清掃、ゴミ出し、リネンの回収など広範囲にわたります。

2021年10月現在、和心では16人(男性1人、女性15人)のライフメイトが働いています。この中には大学生もいますが、ライフメイトの平均年齢は54歳で、大半は40~70代の女性です。

「募集にあたっては『介護』というキーワードを一切使いませんでした。この言葉には『おむつ交換』などに代表される3K(きつい、きたない、きけん)といった負のイメージが定着していて、職員募集をしていても私たちがターゲットにしていたシニアや主婦層に応募してもらえないと考えたからです」

金子さんたちは、求人をする際、「介護」というキーワードを使わず、「家事援助」という言葉を押し出すことで、求める人材であるシニア層や主婦層の人たちに自分にもやれそうだと感じてもらえるように工夫しました。週1回×1時間からの勤務も可能であることを示し、時間の自由度が高いことも強調しました。

そして、求人サイトに募集広告を出すだけではなく、人材を地域から掘り起こすことを目的に施設の半径2キロ圏内の住宅地に募集チラシをポスティングしていきました。

「ポスティングも手当たり次第にまくのではなく、施設から半径2キロ圏内でも単身者や若い世帯の住民が多い地域を外して配りました。求人活動を戦略的に行うためには募集のターゲットを明確にすることが欠かせないと思います」

和心がポスティングしたチラシ(一部)

介護職員サポートの観点で補助業務を洗い出し、個々の得意作業を振り分ける

これらの人材戦略は的中し、最初の応募者27人のうち、ポスティングで求人を知った人は21人に上りました。応募者の年齢は40~80代と幅広く、日常の隙間時間を活用した働き方を希望する主婦が多くいました。和心では応募者に説明会と面接を実施し、一人ひとりに勤務できる曜日と時間帯を丁寧に聞き取りしたうえで、ライフスタイル別にライフメイト2~3人を組み合わせて、常勤職員1人分の働きになるようにして各ユニットに配置しました。最終的に14人を採用しました。就業にあたっては入職式も実施しました。

「専門性を必要としない作業とはいえ、ライフメイトはボランティアではありません。職員としての自覚と責任を持ってもらうために行いました」

ライフメイト専用のエプロンを全員に支給し、新職種の『見える化』と『仲間意識の醸成』も図りました。

入職から2カ月後には、ライフメイトを集めて座談会を開催。日ごろの働きをねぎらうとともに労働環境の整備や改善などに生かせるよう実際の業務状況についての聞き取りをしました。同時にライフメイト制度を導入した効果を検証するため、ライフメイトと介護職員の双方にアンケートを実施しました。

「ライフメイトの仕事に対する満足度は全体の75%が『満足』と回答しています。また、全員が勤務の継続を希望しました。その理由としては、『柔軟な働き方が可能』『責任が軽い』といったものが挙がっています」

このアンケートから4年が経過した現在も、ほとんどのライフメイトの職員が離職せず仕事を続けています。そのため、ライフメイトの求人活動はその後、口コミをベースに補充しているそうです。

「ライフメイトが辞めない背景には、得意分野で力を発揮してもらえる場を用意しているということがあると思います。ルーチンの作業は大体固定化されていますが、その他の仕事もあります。これは各ユニットで働く職員(介護職員を含む)がみんなで話し合って決めて、ライフメイトの職員にお願いしています。『この部分を担ってもらえると介護職員が助かる』という視点から補助業務を洗い出し、個々のライフメイトの性格や得意・不得意を考慮したうえで作業を振り分けています」

専門性を必要としない作業でも自分の得意なことを頼まれ、介護職員に感謝されるのは、ライフメイトのやりがいにつながっているそうです。また、こうしたモチベーションを高められるよう特技や趣味を生かした活動にも積極的にかかわってもらうようにしています。

介護に興味を持ったライフメイトが介護職員になれる仕組みも整備

一方、アンケートでは介護職員のライフメイト制度に対する評価も高かったといいます。

「ライフメイト導入後の業務の変化について85%の介護職員は『楽になった』と答えており、否定的な回答はありませんでした。また、現在は2ユニットに常勤職員1人を配置する換算でライフメイト数を確保していますが、その数について介護職員の60%は『ちょうどよい』と回答しています」

ライフメイト制度の導入により、全体の業務を「専門性を必要とする作業」「専門性を必要としない作業」「単純作業」の三つに切り分けられるようになり、介護職員が「専門性を必要とする作業」に集中できるようになったことでサービスの質も向上したと感じています。

「ライフメイトの活用は、入居者さんが安心して楽しく生活できることを目標にすることが大事で、介護職員の人手不足を補うことが第一義ではないのです」

ライフメイトへのアンケートでは、『今後は入居者と直接かかわる業務もしていきたい』と答えた人が全体の40%余りいました。こうしたニーズを受け、和心では介護に興味を持ったライフメイトが介護職員に替われる雇用体制も整えており、すでに実例があります。

「コロナ禍でオンライン授業中心の生活になった経済学部4年の男子大学生が、ライフメイト制度の特徴である働く側の都合のよい時間に好きなだけ働けることに魅力を感じて応募してきました。勤務するうちに介護の仕事に興味が出てきて週4日勤務の介護職に替わりました。介護職員初任者研修も受け、大学卒業後は和心に常勤の介護職員として就職することになりました。将来は介護福祉士の資格を取りたいというキャリアプランも描いているようです」

施設内で開かれた催し「居酒屋」の風景(提供写真)

このような人材確保の成功事例を踏まえ、金子さんはライフメイト制度が多様な人材を採用するための強力なツールになり得る可能性があると考えています。

「負のイメージが定着する介護の仕事の魅力を発信していくのはとても難しいものの、これまでとは違った方法で人材を集め、いろいろな背景や経歴を持った多様な人が活動できる職場にしていくことが人材戦略のかぎを握ると考えています」

ライフメイトは事務職枠で雇用していることもあり、金子さんが次のターゲットとして考えているのが大企業で働いてきた中高年男性です。

「早期退職した人が介護施設の中で自分の得意なことをいかしながら働いてもらえる方法を模索中です」

施設のミーティング風景(提供写真)

働きやすい環境を整え、働き手からも選ばれる施設になっていく

全職員に長く勤務してもらうために働きやすい職場づくりにも腐心しています。

「現場では、ユニットごとにリーダー級の職員が中心となってボトムアップで物事が決まったり動いたりする仕組みにしています。しかも能力主義なので入社2~3年目でリーダーになることもあり、全体的に職員のモチベーションが高いのも特徴です」

目標を設定する際は、法人全体でまず年間目標を定め、それをベースに施設、部署、個人と細部に向かって落とし込みながら、(業績評価システムである)バランス・スコアカード(BSC)を活用して、チーム全員で話し合って決めていくため、具体的な目標を設定しやすいといいます。そして、個人の目標を決めた後は、主任クラスの職員が各スタッフと面談し、目標達成までのステップを一緒に考えていきます。スキル獲得に応じたランクが「見える化」されているので、キャリアプランも立てやすいそうです。

施設内で開かれた催し「喫茶店」を楽しむ入居者と職員(提供写真)

このような努力を続けてきた結果、和心の介護職員数は他の施設よりも多く、通常は入居者3人に対して介護職員1人の比率で人員配置するところを、入居者2人に対して介護職員1人を置くことが実現できています。それによって新卒者にも人気が出て、毎年2~3人ずつ採用することが可能になりました。

さらに、新卒採用した介護職員には介護現場以外にも活躍できる場を用意しています。たとえば、施設内では月1回、居酒屋や喫茶店を開店するイベントをしています。その店長の仕事を2年目の介護職員に1年間任せています。いわば小さな経営やマネジメントの体験を積んでいく機会を創出することにより、介護をより広い視野で見ることを養っていく効果もあります。

「イベントの運営ノウハウを学んでもらうのと同時に、フロアを超えた職員の交流を促す目的もあります。若手が業務のあり方や人間関係などで悩んだときにフロアが違うと相談できることもあるからです。さまざまな仕掛けを講じ、働き手からも選ばれる施設になっていくことが人材戦略を考えるうえでとても重要です」

 

宮崎幸子さんからのメッセージ

家庭の事情で勤務時間を自由に設定できるのは好条件

宮崎幸子さん(みやざき・さちこ)
49歳。出産後は専業主婦に。一人息子が中学生になり、子育てに余裕が出てきた2018年4月よりライフメイトとして働き始める。現在は同居する80歳前後の両親の世話をしながら週3日勤務する。夫、息子(高校2年)、両親の5人暮らし。
食事前の居住者とコミュニケーションをとる宮崎さん(提供写真)

子どもが大きくなり、継続して働ける仕事がしたいと考えていたところ、タイミングよくライフメイトの募集チラシがポスティングされたので、すぐに応募しました。子育ては一段落したものの、同居する両親の身の回りの世話が始まり、通院の付き添いなどがあったのでフルタイムで働くのは難しく、勤務時間を自由に設定できるのは好条件に思えました。

介護に対するイメージは良くなかったのですが、家事援助の仕事だったのでそれほど抵抗はなかったです。もともとお年寄りは好きだったのと、親の介護をするときにこの経験が役立つかもしれないと考えました。

現在は週3日働き、月曜と木曜は15~19時までの4時間、水曜は11~19時までの8時間勤務です。洗い物やシーツの交換、消毒液の補充、入浴後の風呂場の掃除、着替えの準備、お年寄りの見守りや話し相手といった補助業務ですが、多岐にわたります。介護職員がやりたくてもできないことをサポートすると「助かります」と言葉にして感謝してもらえるので、それがやりがいにつながっています。また、勤務時間の変更なども施設長に相談すると、すぐに対応してもらえますし、もちろん対応できないことはできないといってもらえるので、とても気持ちよく働けます。

50~60代の主婦にとって自宅の近くで、長年やってきた家事能力をいかした仕事ができるのはとても魅力的だと感じています。ライフメイトとして働く中で、認知症の人に対する初期対応を学べたのもよかったことの一つです。おかげで、親の将来の介護に対する安心感が生まれています。

宮崎さんが考える、介護の現場で働き続けられる理由と条件

  • 介護のスキルがなくても働ける
  • 介護職員に感謝してもらえる
  • 家庭の事情に応じて勤務時間を設定できる
  • 自宅から近い

 

堀喜代子さんからのメッセージ

体に負担がなく余暇を利用した働き方はシニアには理想的

堀喜代子さん(ほり・きよこ)
72歳。事務職として60歳の定年まで働いた後、雇用延長して同じ職場で65歳まで勤める。趣味の麻雀や茶道を楽しむためにおこづかい稼ぎのつもりでライフメイトの仕事を始める。一人暮らし。
ユニットで食事の片付けをする堀さん(提供写真)

自宅にポスティングされたチラシを見てライフメイトに応募しました。独身でずっと働いてきたので生活には困っていませんが、体もまだ動くし、趣味の麻雀や茶道に使えるおこづかいになればいいなと思って問い合わせました。チラシには、介護の資格は不要で、具体的な仕事の内容も書いてあったので、ライフメイトの仕事がイメージしやすかったということもあります。

正直に言うと、母親や知人の介護経験から介護施設に対する印象は良くありませんでした。だから、ライフメイトのチラシを見るまで介護施設で働くことを考えたことはなかったです。最初はコンビニエンスストアや掃除のアルバイトを探しましたが、時間的にきつかったり、スキルや経験が必要だったりして私には合うものがありませんでした。その点、ライフメイトの職場は自宅から徒歩5~6分と近く、仕事の内容も短時間勤務で体力的にもちょうどよく、高齢者にとって理想的な働き方ができると感じました。

現在は月曜・水曜・金曜の週3日、15~19時までの4時間勤務です。洗い物、シーツ交換、掃除、洗濯物の整理など一般的な家事をこなしています。介護職員に「ありがとう」と感謝してもらえることにやりがいを感じられますし、単純な作業でも上達してくるとうれしいです。たとえば、シーツ交換といってもボックスタイプのシーツを交換するだけなのですぐにできますが、やっているうちに手際がよくなってくると達成感があります。また、介護職員の思いを知ることで介護施設への印象も変わりました。こういう施設なら自分も将来、お世話になってもいいなあと思えるようになりました。

この年齢になって若い介護職員と一緒に働けるのは楽しいですよ。人間関係を含めストレスはなく、職場の雰囲気もとてもいいですし。人との直接的なかかわりが少なくなったコロナ禍においては「この仕事をしていてよかった」としみじみ思います。体が元気なうちは、ライフメイトとして緩く長く働き続けたいです。

堀さんが、介護の現場で働き続けられる理由と条件

  • 余暇の時間を利用して働ける
  • 体力的にきつくない
  • 勤務時間が自由に設定できる
  • 生活の中で行っている家事が生かせる
  • 自宅から近い

社会福祉法人ケアネット 特別養護老人ホーム和心

2011年11月オープン。全室個室によるユニットケアを提供。特別養護老人ホーム定員100人(要介護度平均3.6)、ショートステイ定員20人。職員は98人、59名が正職員でパート職員は39人。そのうちライフメイトは16人。職員の平均年齢は40歳(常勤職員が37.6歳、パート職員が52歳)。2019年、サービスの質向上や人材育成、処遇改善等に一定の水準を満たす介護サービス事業所に認証される「かながわ認証」(公益社団法人かながわ福祉サービス振興会)を取得。

 

あわせて読みたい

この記事をシェアする

この連載について