「本物の認知症研究者になれた」教え子の心に響いた 長谷川和夫さんの言葉3

認知症医療の第一人者であり、3年前に認知症であることを公表した長谷川和夫さんの新著「認知症でも心は豊かに生きている 認知症になった認知症専門医 長谷川和夫100の言葉」から心に響く言葉を紹介するシリーズ。最後にご登場いただく「あの人」は今井幸充さんです。

(編集協力/中央法規出版)

認知症医療の第一人者である長谷川和夫さんの新しい本を手に持つ、認知症専門医の今井幸充さん
長谷川和夫さんの新しい本を手に持つ今井幸充さん

認知症専門病院の院長として、自らも日々認知症の人と向き合っている今井幸充さんは、師と仰ぐ長谷川和夫さんの100の言葉に、どのような感想を持たれたのでしょう。医師として、また長谷川先生の弟子としての思いをお聞きしました。

●長谷川先生が身をもって伝えたいこと

認知症に人が喪失するのは、自分の所有するものではなく、まさに自分そのもの、「self」なのです。「認知症でも心は豊かに生きている」より

認知症になってしまったら何もわからなくなる、人生終わりだ、そういう感覚を心のどこかで持っている人が、今も多いのではないでしょうか。この本では、全体を通して、認知症の人も我々と同じなんだということを、長谷川先生が身をもって、おっしゃっているのではないかと感じます。

認知症の人に「だめじゃない」「どうして?」とつい、追及してしまうことがあるかもしれないけれど、それは本人にとっては辛いことなんだと。

また、ここで長谷川先生が書かれている、まさに自分そのものが失われていくような体験へのやりきれない気持ち、残されているものを大切にしようという気持ち。長谷川先生のいろいろな思いが詰まっていて、「人間とは」「生活とは」「生きるとは」ということも考えさせられる内容です。

●読み手それぞれの感性で

認知症は千差万別。原因疾患も、脳のどこに障害を受けるかも、そしてその程度も、です。「認知症でも心は豊かに生きている」より

私が多くの方々の診療に携わっていて感じるのは、心の動きや精神的な病気というのは本当に、十人十色だということです。それに加えて、認知症の人をどれだけ理解できるかは、その人との関係性によると思うのです。

その人らしさ、その人の物語とは、その人の生活の状態や役割を超えたところにある、その人のアイデンティティーです。「認知症でも心は豊かに生きている」より

この言葉にもあるように、人にはそれぞれの物語や関係性がある。ですから、この本を読んで「認知症の人はこうなんだ」と決めつけて捉えるのではなく、また、何がなんでも認知症の人の気持ちをわかろうとするのでもなく、読み手のみなさんそれぞれの感性で捉えればいい。

この本を手に取る人は、おそらく、認知症のことをもっと知りたいと考えていたり、自分や家族のことを心配していたりするのだと思います。そういう人には、建前的な「やさしく接しましょう」というメッセージよりもダイレクトに沁みる部分があるのではないでしょうか。

●家族がバーンアウトしないために

家族としての絆、関係性を作ることは、認知症の人に安心感を与え、居場所を見つけるきっかけを与えます。これは家族にしかできないケアです。
認知症のケアは決して一人ではできないことを知りましょう。「人に助けを求めるのは面倒だ」「自分のやり方でいいんだ」と思い込まないことです。「認知症でも心は豊かに生きている」より

介護者と認知症の本人との関係性は非常に重要です。この本に書いてあることを、ケアに生かすも生かさないも、関係性によると思うのです。夫婦の関係、親子の関係、配偶者の親との関係、いろんな意味で立場も違えば、歴史や感情もある。プロとの違いはそこにあります。それぞれの関係性があるから、家族はプロの介護者のようにはなれないんですね。

この2つの言葉につながりますが、私はいつも介護する家族の人たちには、介護をシェアしてくださいねと言っています。家族しかできないお世話と、プロのほうがうまい介護があるんだと。何から何まで家族がやろうとしてしまうとバーンアウトしてしまう。だから、家族にしかできないことをやってほしいと思っています。

●なってみないとわからないこと

自分が認知症になり、私もようやく本物の認知症研究者になれたのではないかと思っています。「認知症でも心は豊かに生きている」より

長谷川先生には、私が研修医として医局に入った時から、本当にお世話になりました。時には怒られたり、調査などいろいろな所に連れて行っていただいたり、私がアメリカにいるときには様子を見に来てくれました。

たくさんの思い出がある中で、一番心に残っているのは、ある日、何か学会の帰りだったでしょうか、電車で並んでつり革につかまりながら「今井くん、認知症の人の気持ちがわかるか」と、突然言われたことです。

「わかりません」と答えると「わかるはずないだろう。なってみないとわからないよな」と言うんですね。私も納得したのですが、長谷川先生の中には常に、認知症に関して、様々な思いがあったと思います。それを心の中にとどめておいて、実際に自分がなった時に、「これは伝えるべき」と思われたのかもしれないなと、そんな気がします。長谷川先生がおっしゃっている「本物の認知症研究者」というのは、そういうことかなと思います。

今井幸充さん

1950年生まれ。1983年聖マリアンナ医科大学大学院修了。米国ハーバード大学ブロクントンVAメディカルセンター、聖マリアンナ医科大学神経精神科講師、米国ワシントン州立ワシントン大学客員研究員、聖マリアンナ医科大学東横病院精神科部長などを経て、2001年から2012年9月まで日本社会事業大学大学院教授。2012年10月より医療法人社団翠会和光病院院長。

認知症でも心は豊かに生きているの書影
「認知症でも心は豊かに生きている 認知症になった認知症専門医 長谷川和夫100の言葉」
・著者:長谷川和夫
・判型:四六判
・頁数:208頁
・価格:1,300円+税
・発売日:2020年8月10日
・ISBN:978-4-8058-8190-3
・発行:中央法規出版

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