認知症とまちづくり

岐阜・恵那と東京・町田で、スタバやお寺や書店が…認知症とまちづくり2

認知症カフェに毎回参加している地元の冠婚葬祭業者が、テーブルを彩る季節にあった装花を提供してくれている
認知症カフェに毎回参加している地元の冠婚葬祭業者が、テーブルを彩る季節にあった装花を提供してくれている

この記事のポイント

●岐阜県恵那市はまちづくりの仲間をどう増やしていったのか
●多層的な取り組みが光る東京都町田市の「認知症まちづくり」

コアチームから認知症まちづくりの仲間を広げる

今年6月に策定された政府の「認知症施策推進大綱」には、まちづくりの視点として認知症当事者との「共生」が必要と盛り込まれていました。しかし、新しく自治体の認知症施策推進を担当する方や医療介護関係者、家族の方々は、どのように「認知症の人にやさしいまちづくり(以下、認知症まちづくり)」を進めていけばよいのでしょうか。

「認知症まちづくり」を進める上での課題や、まちづくりを進めるためのコアチームについて考えた前回記事に引き続き、今回は「コアチームからまちづくりの仲間を広げる」事例について考えていきます。

NPO法人認知症フレンドシップクラブ理事で株式会社DFCパートナーズ代表の徳田雄人さん、医療法人静光園 白川病院(大牟田市)医療連携室長の猿渡進平さん、株式会社フューチャーセッションズ セッションプロデューサーの芝池玲奈さんにお話を聞きました。

岐阜県恵那市はまちづくりの仲間をどう増やしていったのか

――徳田さんは岐阜県恵那市との関わりが深いとのことですが、恵那市でどのような「認知症まちづくり」の取り組みをしているのか、教えてください。

徳田 私はNPOの仕事として、各地でまちづくりをする地域の人たちと一緒に、ワークショップを企画したり、研修をしたりする仕事をしています。恵那の皆さんとは、2010年からお付き合いがあります。

恵那市はもともと医療福祉専門職の方々の連携が密で、年に3〜4回ほど様々な職種の人が集まり、連携を深めようという会がありました。当初は、多様なメンバーが集まっているという認識だったのですが、認知症の人を取り巻くまちのことを考えていく中で、この会議に出ている人たちは、まち全体から考えればごく少数だということ。そして本当に連携しなくてはいけないのは、医療福祉の専門家同士ではなくて、認知症とは接点のない一般の市民や生活を支える様々な企業や部門で働く人たちであるという認識が強くなっていきました。

つまり「専門家だけで連携していても仕方がない」「認知症の専門職以外の人にも働きかけたい」という声がコアチームの会議で上がってきた。そこで地域の方々や地元企業に声をかけ、一緒にまちづくりを進めるようになったというわけです。

恵那の取り組みには、様々なタイプの人たちが関わっています。1つは地元のスターバックスコーヒーの取り組みです。店長さんが、「認知症まちづくり」に関心を持ってくれたことがきっかけとなり、地元で開催される「認知症カフェ(※)」にコーヒーを提供してくれるようになりました。今では、単にコーヒーを提供する関係ではなく、まちづくりを一緒に考えるパートナーになっています。

認知症カフェ オランダで始まったアルツハイマーカフェを源流として、世界各国にさまざまな形で広がったもの。日本では2012 年の認知症施策推進5か年計画(オレンジプラン)で紹介され、続く認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)では、全市町村設置を目指すことが示された。

2つめは地域のお寺。認知症カフェの開催場所を考えていた際に、地域の人にとって馴染みのある場所はどこかということになり、候補としてお寺が挙がりました。お寺での開催も好評で、普段の認知症カフェにはいらっしゃらない方が参加してくれました。

3つめは、私たちNPO法人が行っている「RUN伴」。これは地域の中で認知症の方と一般の方が襷リレーをするイベントで、恵那でも毎年開催しています。当初は医療福祉関係者が中心で運営していましたが、地元の企業の人たちも徐々に加わるようになり、ある年は建設会社の社長さんが実行委員長を務めました。

恵那市の成果はイベントが広がったことよりも、イベントを行う3〜4名の中心メンバーが「まちの未来をどうしていくか」を考えるメンバーへと成長していったことです。フューチャーセッションズさんと私たちNPOで行っている「認知症まちづくりファシリテーター講座」を受講した彼らは、今では早朝5〜6時の仕事前に地元の喫茶店に集まり、「イベントだけでなく、認知症の方の日常が変わるためにはどうしたらいいだろうか」「3年後、5年後、恵那をどういうまちにしていこうか」と話し合っています。

「まちの有り様は誰かが決めてくれる」と考える方が多い中で、恵那のメンバーは自主的に喫茶店でまちの今後を話し合っている。この姿は「認知症まちづくり」において、ある種、理想的だと思いますね。

芝池 ほかの取り組みとしては、お花が大好きな認知症の方のために、地元の冠婚葬祭業を執り行う企業と連携して「フラワーアレンジメント講座」を開く活動もありました。

恵那市の取り組みのいいところは、本人たちにやらされている感覚がなく、コアメンバーの間できちんと問題意識が共有されているところですよね。「認知症カフェ」の話も、どうしても「カフェ開催ありき」になってしまいがちなところ、もともと地域の中で「開かれたスペース」や「居場所」に興味のあるお寺の方とつながって広がっていった。地域に住んでいる同じような考えを持った方とどんどん出会って、連携をしながら活動を広げていきましたね。

多層的な取り組みが光る東京都町田市の「認知症まちづくり」

――東京都町田市の事例は、いかがでしょうか。

徳田 東京都町田市は、先ほどの岐阜県恵那市同様、私的なグループから活動がスタートしましたが、今では「認知症まちづくりのゴール設定するワークショップ」を市が主催して市民の方たちと一緒に行っているんですね。認知症関係の取り組みで注目される自治体の1つで、「町田に見習おう」という雰囲気が他の自治体関係者のなかで高まっています。その強さは、市だけで課題を抱え込まずに、民間と一緒になってまちづくりをするところにあります。

スターバックスコーヒーでの認知症カフェ「Dカフェ」
スターバックスコーヒーでの認知症カフェ「Dカフェ」

――具体的にどんなことが行われていますか?

徳田 1つめは、町田市内のスターバックスコーヒー8店が、月1回「認知症カフェ」に早変わりする「Dカフェ(※)」です。認知症の方が気軽に地域の方とつながれる場づくりをしています。

※「Dカフェ」=町田市内で開催する認知症カフェはDカフェと呼ばれています。スターバックスコーヒー開催のものに限らず、市内にはNPO法人や社会福祉法人が主催する「Dカフェ」が20ヶ所以上あります。

2つめは「D活」です。認知症の方の働きたい、地域の役に立ちたいという思いを実現する活動を、町田市が中心となって推進しています。市内のデイサービス「DAYS BLG!」では、「Honda Cars」(Honda車の販売店)で洗車をしたり、「HATARAKU認知症ネットワーク町田」という任意のグループでは、町田市から管理を委託された竹林の整備や伐採した竹を使っての竹炭・竹製品づくりをしたりしています。

3つめは「本をきっかけにしたまちづくり」です。認知症に関するオススメ本をまちの本屋さんや図書館に置いてもらうプロジェクトです。介護の専門職の有志と書店、図書館、市役所などが連携して推進しています。認知症のご本人が書いた本の読書会なども行われています。

こう見ていくと、プロジェクトのジャンルが多岐にわたっているのがわかると思います。市役所の方を含め、地域の方たちが主体的に動くと、毎年のようにジャンル開拓が行われるようになるんですよね。町田では「認知症まちづくり」の1年間の活動報告をする「Dサミット」を毎年、開催していますが、昨年は参加者が400人以上もいました。結構な数ですよね。市のあちこちで新しい活動が生まれる。これが町田市の特徴ですね。

芝池 こういった社会的な活動は、同じ人がずっと頑張り続けてしまって、だんだん疲弊していくイメージがあります。でも町田は年を重ねるごとに新しいプレイヤーが出てきていて、外から見ていると非常に多層的な印象を持ちます。

――どうして町田は多層的な活動になるのでしょうか?

徳田 やはり町田市は「認知症まちづくりのコアチーム」がしっかりしているのだと思います。

実は多くの地域は、自治体主催の活動と民間の活動がほとんどリンクしていないのです。自治体は計画に基づいて活動することが多いので、たとえば「認知症サポーター養成講座を受けた人の今年の目標値が5000人だから、あと何回講座を開催しよう」という発想になるかと思います。しかし民間のNPOなどは、「今まさに困っている方がいるから、一緒に活動しよう」というように、その場その場で臨機応援に動きますよね。どちらも大事なことだと思うのですが、見えている範囲や行動原則が違うので、自治体と民間団体は直接相対すると、うまく話がまとまらないことが多いのです。

町田では、私たちが開催している「認知症まちづくりファシリテーター講座」を受講した人たちが町田のコアチームとなり、両者の間にうまく入りこんでいます。コアチームの中には市役所の人もいれば、医療福祉の専門家、地元のNPOの人もいます。「そもそもまちをどうしていきたいのか」という視点で、それぞれの意思が見えるようにしながら、1つにまとめていく作業が、認知症という課題を中心に進められています。

次回に続く

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徳田雄人
東京大学文学部を卒業後、NHKのディレクターとして、医療や介護に関する番組を制作。NHK退職後、認知症にかかわる活動を開始。2010年よりNPO法人認知症フレンドシップクラブ理事。NPOの活動とともに認知症や高齢社会をテーマに、自治体や企業との協働事業やコンサルティング、国内外の認知症フレンドリーコミュニティに関する調査、認知症の人や家族のためのオンラインショップの運営などをしている。著書に『認知症フレンドリー社会 岩波新書』。
猿渡進平
医療法人静光園白川病院医療連携室長。1980年福岡県大牟田市生まれ。日本福祉大学大学院卒。同居の祖母が認知症になったことが理由で福祉の道に進む。2002年、医療法人静光園白川病院に入社。その後大牟田市地域包括支援センター、厚生労働省社会・援護局の出向などを経て現職。また、一般社団法人人とまちづくり研究所理事、認知症未来共創ハブ運営委員、NPO法人認知症フレンドシップクラブ認知症まちづくりファシリテーターチーム、NPO法人しらかわの会理事・事務局長、NPO法人大牟田ライフサポートセンター理事、大牟田市認知症ライフサポート研究会コアメンバーなど、社会活動に従事している。
芝池玲奈
慶應義塾大学総合政策学部卒業。学生時代から開発教育ワークショップの企画やファシリテーションに取り組み、卒業後は大手研修会社にて講師を勤める。2013年より、新しい未来を創っていくために、株式会社フューチャーセッションズに参画。セクター横断のイノベーションプロジェクトや、組織内ファシリテーターの育成を通じた組織開発・変容プロジェクトを、企業や自治体などで多く手がけている。つくりたい未来は、私たち一人ひとりの「自分ごと」が引き出され、表現され、実現され、響きあう世界。

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