認知症とまちづくり

福岡・大牟田の「出張商店街」から学ぶ本人目線 認知症とまちづくり3

出張商店街の様子
出張商店街の様子

この記事のポイント

●大牟田市の「認知症まちづくり」の事例
●「認知症まちづくり」を進めるための自治体担当者の心構えとは

認知症まちづくりのための自治体担当者の問いのつくりかた

何故「認知症の人にやさしいまちづくり」が必要なのか。「認知症の人にやさしいまちづくり(以下、認知症まちづくり)」を進めていくために、コアチームがどうして必要なのか。医療法人静光園 白川病院(大牟田市)医療連携室長の猿渡進平さん、NPO法人認知症フレンドシップクラブ理事で株式会社DFCパートナーズ代表の徳田雄人さん、株式会社フューチャーセッションズ セッションプロデューサーの芝池玲奈さんと、2回にわたって話し合ってきました。

「認知症まちづくり」の成功事例である岐阜県恵那市、東京都町田市の取り組みを紹介した前回記事(岐阜・恵那と東京・町田で、スタバやお寺や書店が…認知症とまちづくり2に引き続き、今回は猿渡さんが実際にまちづくりの一員となって取り組む福岡県大牟田市の事例や、自治体で新しく認知症施策推進を担当する人が持つべき考え方について語り合いました。

認知症当事者の課題をカバーしつつ、まちの問題も解決する福岡県大牟田市

――猿渡さんは地元の白川病院にソーシャルワーカーとして勤務する傍ら、福岡県大牟田市の「認知症まちづくり」の一員としても活動していらっしゃいます。大牟田市の取り組みを教えてください。

猿渡 1つは商店街とコラボレーションした取り組みです。地域に住む人は皆、それぞれ立場があり、各々課題を抱えています。たとえば、入院されているある高齢の患者さんは、補聴器や老眼鏡を欲しがっていました。一方、地域包括支援センターは、買い物で不自由を抱える高齢者が多いという課題を抱えていた。また商店街の眼鏡屋さんは大牟田市の高齢者率が36%にもなり、店まで車で来てくれるお客さんが少なくなったことで、物が売れずに困っていました。

私や地域包括支援センターの職員といった医療介護専門職は、高齢者が買い物難民であることを理解していましたが、商業者の方々はそういった情報を知らずにいたんですね。そこで商業者の方々に「地域の高齢者が集まる公民館やサロンに行って、販売してみたらどうですか?」と提案し紹介すると、店の商品をたくさん買ってもらえるようになった。あるいはサロンで新たに知り合った高齢者が、その後に店まで来て商品を買ってくれるようになる。

地元企業の人たちの間で「こんなに面白い取り組みはない」と口コミが広がり、今では「出張商店街」が毎週まちのどこかで実施されるようになりました。また、この取り組みをきっかけに、認知症の方々のお買い物中に、よりよい対応が出来るよう、商店街の方が「認知症サポーター養成講座(※)」を受講し、「認知症サポーターのいる商店街マップ」も作りました。

※認知症サポーター養成講座=認知症高齢者等にやさしい地域づくりに取り組むため、認知症に対する正しい知識と理解を持ち、地域で認知症の人や家族に対してできる範囲で手助けする「認知症サポーター」を全国で養成するもの。

まさに地域にあるリソースとリソースがつながって、お互いの利益になる活動が生まれた取り組みです。最近では、保育園や学校の敷地内にも「出張商店街」が進出しています。子どもやまちの人たちにとっても、商店街がまるごとやってくるのは面白いですよね。

認知症サポーターのいる商店街マップ
認知症サポーターのいる商店街マップ

――2つめの取り組みはいかがですか?

猿渡 2つめは、企業とのコラボレーションです。事の発端は、よく行方不明になるおばあさんがいたことでした。地域で見守り体制を作りたいと思い、そのためには地元の企業の方々と関わりを持たなくてはいけない。そこで企業にコンタクトを取ると、「忙しくて、行方不明者の捜索をする時間なんてない」と言われてしまった。それはそうですよね。こちらの自己都合の問いかけでは、企業も協力してくれないわけです。

一方で介護施設を利用する高齢者からは「高齢になっても社会参加したい、働きたい」という要望があった。その声は、もしかしたら人手不足などの企業の困りごとの解決につなげられるのではないか。それぞれのニーズが合致した形で始まったのが、Honda Cars(Honda車の販売店)での洗車事業、ヤマト運輸のダイレクトメール配達事業でした。

――Honda Carsの洗車事業と、ヤマト運輸のダイレクトメール配達事業について教えてください。

猿渡 Honda Carsでは、大牟田市内の要介護1、2程度のデイサービス利用者が展示車の洗車を行っています。Honda Carsの営業所に行き、介護サービス利用時間中に軽作業(洗車作業)を行うものです。1回1時間程度。毎日1〜2人が洗車に取り組んでおり、1台につき200円の対価を得ています。その対価を得ることによって、自分の好きな物を購入する。また社会的な役割を得ることが、利用者のよりよい生活に結びついています。

ヤマト運輸大牟田支店は、2つの介護サービス事業所と業務委託契約をし、介護サービスの利用者に、事業所近隣のご家庭にダイレクトメール便を歩いて配達してもらっています。1日平均10〜13通。委託料は、事業所を介して利用者に支払われます。

「認知症まちづくり」を進めるための自治体担当者の心構えとは

――先ほど猿渡さんから「自己都合の問いかけでは、企業は協力してくれない」とありました。自治体の認知症施策推進の新任担当者は「認知症まちづくり」を進めるにあたり、地域の方に向けて、どのような問いを作ればよいでしょうか。

芝池 私たちフューチャーセッションズは、「フューチャーセッション(※)」という手法を通してイノベーションの創出に取り組んでいるのですが、「問いが変わると、集まる人が変わる」と考え、共創の起点となる問いを大事にしています。大牟田市の事例は、協業する相手の立場やニーズに合わせてきちんと問いが変わっていっていますよね。

「認知症にやさしいまちづくり」を進めようとすると、「認知症にやさしいまちづくりはどのようにすればできるだろうか」という問いだけで考え続けてしまいがちですが、その問いだけではまちづくりに関心のない方が輪の中に入って来にくい。大きな問いかけで基本となる仲間を増やしつつも、個別の課題に対してはそれぞれのニーズを踏まえ、1つひとつの問いかけを丁寧に作っていかないと、なかなか具体的なまちのアクションにはつながっていかないと思います。

フューチャーセッション 日本で生み出された「参加型イノベーション」の新しい考え方。未来のステークホルダーを招き入れ、創造的な対話を通して、未来に向けての「新たな関係性」と「新たなアイデア」を生み出し、ステークホルダー同士が「協力して行動できる」状況を生み出す手法。

何が本当の課題なのかを話さないままだと……

徳田 まちづくりに関わる多くの方が陥りやすいのは、先に解決する手段の方に注目してしまうことです。何が本当の課題なのか、まちの人で共有できるゴールは何なのかを話さないまま既存のやり方を続けていると、いつも同じ関係者で話を進め、周りからは協力が得られないということになって、終わってしまう。

でも「いい問い」があると、その問いに関係する人が見えて、地域の方がどんどん招き入れられてきます。たとえば、「地元で買い物のできない認知症の方が、どうすれば好きなタイミングで地域のスーパーで買い物ができるか」という問いがあったとします。まず移動手段を考えますよね。話をするのはバス会社なのか、タクシー会社なのか。すると今度はスーパー側が「認知症の方に買い物をしてもらうためには、どのような店の工夫が必要なのだろう」と考えるはずです。また買い物ができるようになった後は、さらに自立した生活を送るには何が必要か、という次の問いが出てくるでしょう。

高齢者福祉の担当者の中には、今まで行ってきた1対1の対応にプラスして、新たな事業の負荷がかかったように思われるかもしれません。ただでさえ、忙しいのにと思う方も多いでしょう。

でも逆をいえば、認知症の課題は発想を変えて、自分たちの役割を考えていかないといけないところまで来ている、とも言えます。船底に穴が空いているのに、一生懸命バケツで水を掻き出している。バケツで水を掻き出すのに忙しいので、船底の穴を塞ぐ余裕はないと言っているようなものだと思います。日常業務に追われているからこそ、立ち止まって、課題の本質は何なのかを考える必要があると思います。

芝池 「私は何をするために、目の前の仕事をするのだろう」と、小さな仕事と大きな目標の関係性をつなぎ直すことが必要ではないかと思います。「『認知症サポーター養成講座』の回数を増やそう」とする前に一度立ち止まって、前回の記事で出てきた岐阜県恵那市の方のように、「3年後、5年後、このまちをこんな風にしていきたい。そのために誰と仲間になって、何をする」と、まちづくりの構想を描く。大きな目的・目標を立てて共有することと、小さな具体的な課題に取り組むこと。その両方があるといいですよね。

――猿渡さんの大牟田市の事例で、困りごとを共有する話がありました。具体的に認知症の方の困りごとを共有するには、どうしたらいいでしょうか?

猿渡 1つは、認知症当事者ともに時間を共有することです。本人の生活により密着して、認知症の方の困っているところを、私たちが見つけていきます。

2つめは、大牟田市でも行っている「本人ミーティング」です。これは認知症当事者同士の話し合いで、本人さん同士だから口を開けることもあるんですね。私たちも病気をした場合、同じ病気にかかった人の話を聞いてみたいと思うはずです。そういったミーティングからヒントを得る方法もあります。

困りごとは、当事者一人ひとり異なっているので、個別の意見はそれぞれ吸い上げたうえで、多数派の意見を、企業に「大きな声」として届けることが大切ですね。

徳田 猿渡さんのおっしゃる通り、最初のステップは「認知症の方と一緒に時間を楽しむ」ことですよね。ある地域では「認知症当事者と一緒にサーフィンをするプロジェクト」があります。すると参加した自治体の方は、「今まで見えなかった課題が見えてきた」とおっしゃるんですね。一緒に時を過ごすことで、結果的に当事者の困りごとや課題が見えてきます。

「認知症まちづくり」が道半ばでつまずいてしまう自治体担当者の方の多くは、認知症当事者の方にきちんと出会えていない。また「認知症の方に困りごとを聞いても『別にない』と言われてしまう」とおっしゃいます。

何故そう言われてしまうかというと、1つは信頼関係がないから。2つめは聞き方が間違っているから。当事者の方からすると「1人で買い物に行きたいと私が希望を言ったって、どうせ解決してくれないじゃない。解決してくれるならば教えるけど」という気持ちになる。あと「『困りごと』というセンシティブな話題をいきなり聞かれても」とも思う人もいますよね。

自治体担当者の方は初期の段階でつまずかないように、前任者に話を聞いたり、地域で活動されている方と接したりすることで徐々に学んでもらいたいです。先進的な取り組みをする自治体の方は皆さん、突破するきっかけをくれた具体的な課題を持った当事者の方の顔が思い浮かぶと言います。たとえば、最初の記事で登場した静岡県富士宮市役所の稲垣康次さんは、「認知症になったら、私は終わりですか」と問いかけた若年性認知症の佐野光孝さんの顔が忘れられなかった。「目の前の人のために何ができるか」という視点に立てば、具体的な課題に落とし込めると思うのです。

自治体のみなさーん!誰とコアチーム作ってますか?認知症とまちづくり1はこちら
岐阜・恵那と東京・町田で、スタバやお寺や書店が…認知症とまちづくり2はこちら

徳田雄人
東京大学文学部を卒業後、NHKのディレクターとして、医療や介護に関する番組を制作。NHK退職後、認知症にかかわる活動を開始。2010年よりNPO法人認知症フレンドシップクラブ理事。NPOの活動とともに認知症や高齢社会をテーマに、自治体や企業との協働事業やコンサルティング、国内外の認知症フレンドリーコミュニティに関する調査、認知症の人や家族のためのオンラインショップの運営などをしている。著書に『認知症フレンドリー社会 岩波新書』。
猿渡進平
医療法人静光園白川病院医療連携室長。1980年福岡県大牟田市生まれ。日本福祉大学大学院卒。同居の祖母が認知症になったことが理由で福祉の道に進む。2002年、医療法人静光園白川病院に入社。その後大牟田市地域包括支援センター、厚生労働省社会・援護局の出向などを経て現職。また、一般社団法人人とまちづくり研究所理事、認知症未来共創ハブ運営委員、NPO法人認知症フレンドシップクラブ認知症まちづくりファシリテーターチーム、NPO法人しらかわの会理事・事務局長、NPO法人大牟田ライフサポートセンター理事、大牟田市認知症ライフサポート研究会コアメンバーなど、社会活動に従事している。
芝池玲奈
慶應義塾大学総合政策学部卒業。学生時代から開発教育ワークショップの企画やファシリテーションに取り組み、卒業後は大手研修会社にて講師を勤める。2013年より、新しい未来を創っていくために、株式会社フューチャーセッションズに参画。セクター横断のイノベーションプロジェクトや、組織内ファシリテーターの育成を通じた組織開発・変容プロジェクトを、企業や自治体などで多く手がけている。つくりたい未来は、私たち一人ひとりの「自分ごと」が引き出され、表現され、実現され、響きあう世界。

▼実際の認知症まちづくりワークショップの様子はこちらから

認知症の人にやさしいまちづくりの始め方

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