認知症とともにあるウェブメディア

認知症という旅、工夫・発見まとめた冊子が世界の指針に? 慶応大チーム

慶応大チームのプレゼン(金子さん)
慶応大チームのプレゼン(金子さん)

「旅のことば:パターン・ランゲージを用いた認知症フレンドリーコミュニティーの実現(Words for A Journey': Realizing Dementia Friendly Communities with Pattern Language)

前半は、慶應大学井庭崇研究室と認知症フレンドリージャパンイニシアチブが共同で進める研究プロジェクトである、認知症とともによりよく生きることを実践する工夫をまとめた冊子「旅のことば」について、作成の背景から国内外での実践など5年間の活動を話した。後半は現在進行している、一人ひとりに寄り添ったより良い高齢者支援のあり方を言語化し、誰もが納得のいく死を迎えることのできる社会の実現を目指す「よりよく生ききる支援のパターン・ランゲージ作成」プロジェクトについて話した。

「本人の尊厳を尊重した名称」に各国が注目

金子智紀
25歳/慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科

学外で「認知症フレンドシップクラブ」に所属して、「多世代まちづくりプロジェクト」を担当してきました。今回、各国の参加者との交流を通じて強く感じたのは、日本だけではなくアジア全体、さらには世界という、もっと広い視点で認知症のことを考えていかなければならないということです。全世界の認知症の人の半数がアジア圏の人たちです。その中でも、日本がフロントランナーとして各国から注目されているということを知り、自分たちの日々の研究活動はもちろん、情報発信にも力を入れていかなければいけないと感じました。

ユース・エンゲージメント・プログラム(YEP)では日本チームのトップバッターとして発表しました。内容は学部の1年生の時から関わっている「旅のことばプロジェクト」と、いま自分たちが所属する井庭崇研究室で進める「よりよく生きる支援のパターン・ランゲージプロジェクト」についてです。

「旅のことば」は気軽に手に取りやすく、その時々の状況に応じた新しい発見を得やすいデザインであることが高く評価され、2015年に「グッドデザイン賞」や、認知症フレンドリーな取り組みを推奨するNPO法人「オレンジアクト」が選ぶ「認知症フレンドリーアワード大賞」を受賞しました。2016年には川崎市が人間の「自立」を支援する革新的な製品を認証する「かわさき基準(KIS)」にも選ばれました。私はこれらのプロジェクトで実現したいことや、この5年間でどんな活動をしてきたかを話しました。後半の「よりよく生きる支援のパターン・ランゲージ作成プロジェクト」については、研究室の後輩の伴野さんが担当しました。

印象に残ったのは、「認知症」という呼び方について。各国の参加者から「日本のように我々も本人の尊厳を尊重した名称に変えていかないといけない」と言われたことです。「認知症」という呼称がふさわしいのかどうか、という議論もあるでしょうが、日本が行った変革やそのための活動が評価されていることに驚きました。

「認知症の人にやさしいまちづくり」の分野では、各国で様々な取り組みが続けられています。ところがキャンペーン的な取り組みで終わってしまっているものが多く、若者を含めた一般人や当事者の参加が進まないことを訴える発表者がいました。介護者の負担をどうやって軽減するか。どうやって自分たちの活動を知ってもらうか、といった活動の発表が多かったという印象です。

2020年3月にシンガポールで開催されるADI国際会議でもぜひ発表したいと思っています。2年前に京都であったADI国際会議にも参加しましたが、このときは国内のことを考える視点しか持てませんでした。今回、いつも日本国内での活動を海外で発表することで、自分たちにとっても良い気づきがあることがわかりました。国ごとに認知症対策の前提が違い、認知症の人にやさしいまちづくりの段階も違います。違うからこそお互いに学び合うことができると思います。「認知症」という人類共通の課題について、現地ではたくさん意見交換ができました。日本の情報を、こうした国際会議などで発信することは、間違いなく世界がより良い方向に進んでいくために必要だと確信しました。

開会式であいさつするADIのグレン・リース議長
開会式であいさつするADIのグレン・リース議長

他の国の若者に負けていられない!

伴野友香
21歳/慶應義塾大学総合政策学部3年

日本が高齢化社会に移行するなかで、家族だけでなく本人や医療者など介護に関わる全ての人との対話が必要不可欠だと感じています。ところが家族が本人の気持ちを「代弁」してしまい、本人の気持ちを置き去りにしてしまう介護のあり方が多いのでは、と思います。そこで、対話のきっかけになるツールを作りたいという思いから、福祉介護に関係する言語を研究してきました。今回のプレゼンでは、今まで作成、活用を全国的に行ってきた「旅のことば~認知症とともによりよく生きるためのヒント」を中心に、これから仕上げをしていく「高齢者がよりよく人生を生きるためのヒント」の紹介を行いました。

普段は慶應義塾大学の井庭崇研究室で、創造実践学の研究をしています。具体的には、日々の実践における「工夫」や「大切にしていること」を抽出し、その共通点(パターン)を言語化するというものです。その「言語」を用いて、対話型のワークショップを実施し、アイディア発想のヒントを得ることが可能となります。

KLに到着した歓迎夕食会で、はっとしたことがありました。「あなたの専門は何?」と多くの人に聞かれたのです。私自身は「YEPでプレゼンするためにここに来た」と思っていましたが、みんなが聞いてきたのは「学生の視点でどのように認知症や介護の問題に向き合っているのか」ということでした。これを踏まえて「なぜ介護分野のスペシャリストではない私が介護の問題について向き合っているのか」。「学生としてどんな社会をつくっていきたいのか」を軸にしてプレゼンすることにしました。会場で参加者と話し雰囲気を感じることで、プレゼンのアピールの仕方を工夫するという術を学ぶことができたかなと思っています。

私と金子さんの専門は創造実践学で、介護福祉ではありません。正直、私たちのプレゼン内容が国際会議で受け入れてもらえるか不安でした。でも、私たちが話すつもりだった「認知症になってからの本人と家族の対話の重要性」について、議長のグレン・リーズさんも開会式のスピーチで話していたので、これが自信になりました。プレゼン中も参加者一人一人がきちんと目を見て聞いてくれていて、あたたかさを感じました。会議が終わった後、日本チームで着ていたオレンジのTシャツを配ったのですが、たくさんの人が押し寄せて嬉しかったです!

認知症700万人時代を迎え、私たち若者は介護や福祉といった課題を避けては通れなくなると思っています。今回のYEPを通じて、ますます若い世代が介護や福祉に関心を持つこと。家族と将来の生き方について対話し続けることの大切さを再認識しました。そして何より、他の国の若者の取り組みを見て、負けていられないという気持ちにもなりました!

1日目のプレゼンが終了し、日本チームの女子でお昼ご飯
1日目のプレゼンが終了し、日本チームの女子でお昼ご飯

マレーシア会議の模様や、その他の若者たちからのレポートはこちらから

認知症の「新しい時代」、アジア国際会議で日本の若者が発信

年齢も障害も問わない、古着活用のユニバーサル農業を紹介 近畿大チーム

医療介護だけでなく農業もITも連携して進もう 新潟県立看護大学チーム

「認知症フレンドリーイベント」 の一覧へ

あわせて読みたい

この記事をシェアする

この特集について

認知症とともにあるウェブメディア