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介護の裏ワザ、これってどうよ?

「抱きついていいか!?」認知症の孤独から解放宣言 これって介護の裏技?

青山ゆずこです! 祖父母がそろって認知症になり、ヤングケアラーとして7年間介護しました。壮絶な日々も独学の“ゆずこ流介護”で乗り切ったけれど、今思えばあれでよかったのか……? 専門家に解説してもらいました!

「わたしはぁ〜どうせひとりぃ〜みんなに無視されるのぉ〜」変な歌うたいだした・・・

寂しそうな表情で突然グチを吐き出すばーちゃんに困惑

夫婦そろって認知症だったじーちゃん、ばーちゃんと一緒に暮らす中で、ある特徴に気が付きました。それはばーちゃんが、ご飯を食べていたりお風呂に入っていたり、テレビを見ていたりなど、毎日どんな場面でも「私はいじめられてるんだ……」「自分は迫害されている」「どうせ私は一人なんだ」と、なぜかこんな被害妄想を口にしていたことです。

もちろん、本当に仲間はずれになんかしていません。むしろ、わたしが食べようと思って剥いていたみかん(ゆずこは手間暇かけて、白いすじまできれいに取りたい派)を、剥いたそばから隣で自分の口に放り込んだり、ベルトコンベアーのようにそのままじーちゃんに横流しするくらい、連携が取れているのに……。
ほかにも、枝豆を剥いているときだって(ゆずこは剥いた豆を小皿にある程度溜めてから、ガバッと口に放り込みたい派)、小皿に置いた途端にパクパク食べてる。なんならわたしが迫害&嫌がらせをされているような状態なのに、それでも「私はみんなに無視されているんだ」と、何かある度にブツブツと呟き続けます。

もう強制的に家族の輪に溶け込ませちゃえ!

もうこんな“根拠なきグチグチモード”になったら、どんな言葉をかけても通用しません。そこで考えたのは、言葉がダメなら行動で示してしまえ!作戦です。やり方は簡単。
「ばーちゃん!抱き着いていいか!?」と堂々と宣言し、両手を広げて飛びつくのです。いい歳して恥ずかしいと思われる方もいるかもしれませんが、誰が見ているわけでもないし、それに子どもの頃を思い出せてなかなかいいもんですよ。
ばーちゃんは一瞬ポカーンとするのですが、「あんたは何をやっているんだい」と言いながら、いじめられていることや疎外感、迫害など、さっき言っていたことは気が付いたらすっかり忘れてる。これだけ密着していたら、「私を無視して……」なんてこと、ばーちゃんも思えないはずです。

または、いつの間にかゲームに参加させちゃうのも一つの手。
ルールを理解できなくても、勝手にトランプを持たせて一緒にババ抜きをしてもらったり、人生ゲームのルーレットを回す役をお願いしたり。それでも、「私はこんなのやらないよ!」と途中で投げ出されることもあるのですが、そんなときは強制的に手を出さざるを得ないゲームに混ぜちゃう。例えば、よく風船を打ち合うラリー遊びにばーちゃんを入れていました。
「ばーちゃん、あたし全国目指したいんだ。特訓に付き合って!」と本気で言うと、ラリーをちゃんと返してくれるのです。何の全国大会かわかりませんが、二人で汗をかきながら、時々じーちゃんも混ぜつつ風船ラリーを続けること30分。その日はもうばーちゃんの口から、愚痴がこぼれることはありませんでした。

疎外感や被害妄想の原因は、情報の欠落が原因だった

今回は、半ば強制的に輪に入れちゃうことでばーちゃんの疎外感や被害妄想を抑えられましたが、そもそもなぜ日常的に思い詰めてしまいがちなのでしょうか。
東北福祉大学福祉心理学科の教授で日本認知症ケア学会の理事、そして『認知症になるとなぜ「不可解な行動」をとるのか』(河出書房新書)の著者である加藤伸司先生にお話を聞きました。

「まったく隙がない鉄壁の守りだ・・・!」スラムダンクの桜木花道みたい!

「歳をとっていくと物事が覚えられなかったり、記憶したことや思い出を忘れてしまうこともありますよね。そのように情報が欠落していくと、どうしても『自分は仲間外れにされているんじゃないか』と思ってしまう。すると家族間でも話がかみ合わなくなり、さらに『ばーちゃんには関係のない話だよ』とか言われてしまうと、一層「のけ者にされている」「私のことが邪魔なのかな」と疑心暗鬼になってしまいます。それが認知症のある方だと、もっと顕著に表れるかもしれません。
基本的に、それまで出来たことが出来なくなるという漠然とした不安も抱えているので、余計に自分だけ取り残されていると思ってしまうのかもしれませんね」

加藤先生いわく、そんなときにはゆずこが実践した「風船バレー」がめちゃくちゃ効果的だそうです。マジですか。全国目指しますか。

「いや、風船バレーに限った話ではありません(笑)。確かにいくら言葉でフォローしても、一度抱えてしまった寂しさや不安、被害妄想はなかなか無くせません。そこで有効なのが、本人自ら『家族や仲間の輪に入っている』と自覚してもらうことです。ボディタッチもいいですね。ゲームを通しで何か役割を担当してもらって、言葉だけじゃなくちょっと無理やりでも自然に輪に溶け込ませてしまう。本人に『私も一員として役に立っている』と思ってもらうことが大切です」

特訓が終わって数日間は、「よっ! 風船バレーのプロ!」と呼ぶと、嬉しそうに風船を持ち出してくる。最長記録1時間15分。もう勘弁してください……。

加藤伸司先生
加藤伸司先生
東北福祉大学総合福祉学部福祉心理学科教授。認知症介護研究・研修仙台センターセンター長。日本認知症ケア学会副理事長。近著に『認知症になるとなぜ「不可解な行動」をとるのか』(河出書房新社)『認知症の人を知る―認知症の人はなにを思い、どのような行動を取るのか』(ワールドプランニング)など

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