不器用すぎる認知症のじーちゃんばーちゃんの愛が重量級 介護の裏ネタ?
青山ゆずこです! 祖父母がそろって認知症になり、ヤングケアラーとして7年間介護しました。壮絶な日々も独学の“ゆずこ流介護”で乗り切ったけれど、今思えばあれでよかったのか……? 専門家に解説してもらいました!
胃腸炎で孫ぐったり。そのときじーちゃんとばーちゃんは?
ある日、わたしがウィルス性の急性胃腸炎で寝込んだときのこと。じーちゃんとばーちゃんは体調に変化がなかったのですが、わたしは水を飲んでもすぐに吐いてしまったり、トイレに駆け込んでしまうという結構やばめな状態でした。立ち上がるのもやっとで、ずっと布団の上で唸りながらのたうち回って……。
いつもと違うわたしに何か不安を感じたのか、二人揃って二階のわたしの部屋に何度も来ては、無言でドアの隙間から覗いて、また一階に戻っていくという行動をひたすら繰り返していました。途中でなんとか声を振り絞って、「ごめん……胃腸炎になっちゃって、今日は家事できないの。シチューは昨日のがあるし、何かあったらおかあさんか叔母ちゃん(ゆずこの母とおば)が来てくれるから、今日だけちょっと休ませて」と伝えました。そんなボロボロの状態を見ても、認知症のじーちゃんとばーちゃんは現状を理解できないかも知れない。看病してもらうなんて絶対無理だから、せめていつもより少しだけ静かに寝かせてくれたらな、そう思っていました。
しかし、しばらく経って再び二階に上がってくる二人の足音が。
しかもさっきより、ちょっと急ぎ気味で上がってくる。やっぱり分かってもらえなかったかと、ため息をついた瞬間でした。
スパアァァァン!と部屋のスライドの扉が勢いよく開けられ、そこには大量に「ある物」を持ったじーちゃんとばーちゃんが立っていたのです!
不器用すぎる二人の優しさ。突然始まる強制フードバトル!
「あんた、これを飲んで、食べな」
そういって渡されたのはキンキンに冷えた大量の缶ビールと、近くの中華料理屋の“名物・ビック餃子”が詰まったパック、そしてうな丼でした。普段だったら最高に嬉しい、嬉しいけど、なんで今なの。
どちらの店も、わたしが料理を作るようになるまで二人が毎日のように通っていたお店です。恐らく、弱り切っているわたしの姿を見て、じーちゃんとばーちゃんなりに「なんとかしなきゃ」と思ってくれたのでしょう。不器用な二人の愛情は、ホカホカのうなぎの湯気となり、熱々の餃子となり、大量のビールへと変わったのです。
そしてゆずこは重度の胃腸炎。やさしさが、今は……ツラい。
「あ、ありがとう。後で食べるね(はぁと)」と精いっぱいの笑顔で応えてみても、二人はしゃがみこんでじっとこちらを見ている。今、目の前で、美味しそうに食べなければ、この状況から逃れることはできない。
食べましたとも。餃子をビールで流し込んで、うな丼を飲みこんで。涙で余計しょっぺえじゃないか。弱り切っているゆずこ、このときばかりは「介護の裏ワザ」を発揮できずにただ必死にビールを飲みました。そしてその様子を見て、満足そうに去っていくじーちゃんとばーちゃん。その後、体重が6キロ落ち、嬉しいような悲しいような。
愛情をむげにはできないけど、自分の体も大切に
今回のようなじーちゃん、ばーちゃんからの優しさですが、ゆずこはどう受け止めるべきだったのでしょう。
認知症の人と家族の会の全国本部の副代表理事であり、『認知症の9大法則 50症状と対応策』(法研)の著者、川崎幸クリニックの院長・杉山孝博医師にお話しを聞きました。
「全部正直に食べたのですか(笑)。それは大変でしたね。目の前で弱っているゆずこさんを見て、おじいさんとおばあさんは何かしてあげたいと思ったのでしょうね。ただ、弱っているからといって、『そんなもの食べられないよ』『今はいらない』と正直に否定してしまうと、相手の好意や行動を否定することになってしまいます。認知症の方と接するときはまず絶対に“相手を否定してはいけない”ということを覚えておいてください。ゆずこさんも拒否をしなかったのは正解だと思います。
それと、認知症の方にとっての現在(今)は、最後に残った記憶の時点という、「記憶の逆行性喪失」という現象があります。おじいさんとおばあさんの記憶の中で、ゆずこさんが子供の頃などに、美味しそうにウナギや餃子を食べていた光景が印象深く残っていたのかも知れません。それはお二人の中では決して過去の思い出ではなく、今現在のことです。好意をむげにはできませんが、渾身の食べたフリの演技をしてもいいんですよ。
弱っている自分の体もきちんといたわって、大切に守ってください。もしくは、話を変えて場面そのものを切り替えるような工夫もしてみるといいですね」
高校生だった頃、ばーちゃんが買ってきてくれた餃子とうな丼を、ひたすら「うんまい! なにこれ、最高すぎる」と大量にかっ込んだこともあったっけ……。それ以来、遊びに行くたびに餃子を買ってきてくれました。
ちなみに、杉山先生いわく、「通常、急性胃腸炎(ウイルス性)の治療は24時間の絶飲食です。ゆずこさんのように、症状が続くと体重が見事に減りますが、回復すると倍以上食欲が出て、元の体重に戻ります」とのこと。
先生、確かに。6キロも激減したわたしも、見事に元の体重以上に肥えました……。
- 杉山孝博先生
- 川崎幸クリニック院長。認知症の人と家族の会の全国本部の副代表理事であり、神奈川県支部の代表を務める。著書に『認知症の9大法則 50症状と対応策』(法研)、その他多数。