家族間の介護の溝に、ばーちゃんのパパラッチ激写 これって介護の裏技?
青山ゆずこです! 祖父母がそろって認知症になり、ヤングケアラーとして7年間介護しました。壮絶な日々も独学の“ゆずこ流介護”で乗り切ったけれど、今思えばあれでよかったのか……? 専門家に解説してもらいました!
見せる態度が違うことで生まれる「家族間の介護の溝」
ばーちゃんは身近で介護をする人に、よりキツくあたってしまうという法則を、前回取り上げました。でも、例えその法則を分かっていても、一番身近なわたしに対してだけあたりがキツイのはどうしてもツライときがあります。しかもこの法則を家族間で共有できていないと、余計にストレスとなってしまうこともあるのです。
たとえば、時々来る“お客さま”状態の家族の前では、ばーちゃんは別人のようにしっかりと話して、ちゃんと会話も成り立ちます。そしてその様子を見た相手は、それを日常的な光景やいつもの状態だと思ってしまうのです。
現状を訴えても、返ってくるのは、「えー(荒れたり、罵声を浴びせてくるなんて)想像できないけど」「思ったよりしっかりしていて、元気そうじゃない」「も~ゆずこったら大げさなんだから」「ぶっちゃけ、話ちょっと盛ってね?(笑)」などの言葉ばかり。
とにかく、たまに会う人と身近な介護者に対して圧倒的に違うばーちゃんの態度の差を分かってもらうのが想像以上に難しいのです。
この態度の差、そしてわたしの心の中には「周りの人はこのツラさを分かって“くれない”」という黒いもやもやとした感情が蓄積されていきます。そのたびに、一人カラオケでX JAPANの『紅』をシャウトしたり、ブルーハーツの『人にやさしく』を熱唱したりして必死にクールダウン。なんかもう、通いすぎ歌いすぎで、カラオケの採点ではどちらの曲も96点を軽く取れるようになってしまいました。
誰かが来てくれると、こうやってカラオケで一瞬ストレス発散ができるのでありがたいのですが、発散できているような、余計にたまっているような……もやもや、もやもや。
便利ツールを駆使して、同じ温度で共有しちゃえ!
そこで考えたのが、「ばーちゃんは相手によって態度がかなり違う」ということを、家族間で一斉に共有できる方法です。それは、「LINEなどSNSを駆使して、写メやムービー(動画)で一斉に送信しちゃえ!」作戦です。
ばーちゃんの、人によって態度が違うという事実も、動画で一部始終を録画してしまえば家族・親せき全体で共有できます。言葉だけで伝えようとしても、どうしても伝言ゲームのように歪曲してしまい事実を伝えるには限界がありました。話が伝わるうちに、どうしてもそれぞれの感情や予想、昔の因縁などが織り込まれていって、最終的にまるで別の話のようになってしまうこともあるからです。
だったら、ねじ曲がらないようにありのままの事実を切り取っちゃえ!という思いから、わたしは何かある度にスマホを構えるようになりました。
裸で謎のダンスを踊りながら、わたしの部屋の荷物を廊下に出しているところを録画。
真夏、寝ているときにクーラーを勝手に消されて部屋の網戸をすべて開け放たれたところを撮影。そして目覚めた時には、体中15カ所以上、蚊にくわれているところもおまけに撮影。
じーちゃんとばーちゃんに買ったお弁当も、目を離したすきになぜか庭に埋められていたところも録画しておく。こんな感じでありのままの光景や、その場面そのものを写メや動画で切り取って、SNSの家族グループに一斉に送ります。
現場の熱をそのままの温度で、フィルターなしで同時に見てもらう。
いつもはばーちゃんの“しっかりとした仮の姿”しか見て来なかった親せきはかなり衝撃的だったようで、「お前本当に大変だったんだなあ……」「こんなに暴れちゃうのか。想像できなかった」など、労ってくれる言葉が一気に増えました。
ただちょっと気を付けたいのは、動画や写メは決して「わたしこんなにひどいことをされているんだよ!」と被害を訴えるものではなく、あくまでも現状を見てもらうためのもの。
紙一重というか物は言いようなのですが、一斉送信をする際に「なるべく感情的にはならないようにしよう」と心がけていました。母や叔母にとっては自分の親が、妹たちにとっては自分のおばーちゃんが、例え家族の中でも悪口を言われるのはいい気分がしないと思ったからです。だからどんなに荒れたばーちゃんが写っていても、写メや動画に付けるメッセージは「今日のばーちゃん★」だけ。家族同士でも意外と、いや、家族だからこそ気を遣っていました。
便利ツールを駆使して、同じ温度で共有しちゃえ!
SNSや動画や写メなどを駆使したこの方法。認知症の人と家族の会の全国本部の副代表理事であり、『認知症の9大法則 50症状と対応策』(法研)の著者、川崎幸クリニックの院長・杉山孝博医師いわく、こんな注意点もあるといいます。
「ゆずこさんが気を付けていたように、『被害を訴える目的ではない』と事前に家族に説明しておくことは大切です。そしてそれをSNSなどで一斉送信するというのは、同じ温度で状況を伝えるにはいい方法だと思います。しかし、人によっては『自分に対してはしっかりしていて穏やかだったはずなのに……』と、それまで想像もしていなかった激しい言動や行動を目の当りにすることで、強い衝撃となってしまうこともあるので注意が必要です。前回お話した、『症状の出現強度に関する法則』について、あらかじめ知識をもって、ある程度理解してもらう配慮も必要ですね」
場合によっては、ケアマネジャーさんや介護職の方から現状を説明してもらうのも一つの手だとか。
「身内から現状を訴えられたり説明されても、自分が見ていないからこそどこか納得できない、と考える家族も少なくありません。ただ第三者から説明を受けると、意外と冷静に受け入れて納得できたりします。状況によっては、医師や看護師、ケアマネジャーさんなどから話してもらう機会を持つようにするといいですね」
温度差を新たな火種にしないためにも、わたしは家庭内パパラッチとしてスマホを構えまくります!
- 杉山孝博先生
- 川崎幸クリニック院長。認知症の人と家族の会の全国本部の副代表理事であり、神奈川県支部の代表を務める。著書に『認知症の9大法則 50症状と対応策』(法研)、その他多数。