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ベルギーの「認知症の人にやさしい」社会の作り方。きっかけは家族に悩んだ経験だった

オリビエ・コンスタントさん

オリビエ・コンスタントさんは、ベルギー・アントワープ(フランダース地域)を拠点に地方政府と連携して認知症の人のケアに関する研究などを行うフランダース認知症専門センター(Flemish Center of Expertise on Dementia)で、認知症対策コミュニケーションを担当しています。また、専門分野や国境を越えて認知症対策を模索する、若い専門家の国際ネットワークWYLD(WORLD YOUNG LEADERS IN DEMENTIA)のベルギー代表も務めています。

国際シンポジウム「認知症の人にやさしい街をめざして」(2019年5月18日、主催:朝日新聞社、朝日新聞厚生文化事業団)に合わせた来日を機に、活動内容や担当しているプロジェクトについてお聞きしました。

――フランダース認知症専門センターは、どのような組織なのですか。

「認知症の人に対する認識の向上などの啓蒙活動、情報収集や知識の発信、認知症の人のための政策立案、プロの介護士の養成などを行っています。フランダース政府と公式にパートナーシップを結んで、科学など学術領域と日常的なケアの実践との間で、橋渡しのようなことをやっています。現場からヒントを得て、より積極的に研究を進めていくんです」

――コンスタントさんは何を担当しているのでしょうか。

「私はここで7年半ほど仕事をしています。主に認知症の人とのコミュニケーションを図るツールの啓蒙活動や、『認知症フレンドリーコミュニティ(Dementia Friendly Community:認知症の人にやさしいまちづくり)』のプロジェクトが私の主な仕事です」
「認知症の人が、毎日エネルギーにあふれ、偏見などもなくオープンな形で、自分の認知症について話すことは、ベルギーでもヨーロッパでも、そのほかの国でも難しい状況にあります。そういったことができるような状況を作るべく、努力をしているところです」
「また、私自身も認知症の家族を持ち、どう対応していけばいいのか悩み、とても難しい経験をしました。それがこの仕事の原動力になっています。何とかして認知症の人に対する偏見というものをなくしていきたい。それが大きなモチベーションとなっています」

認知症の人に対する偏見をなくしていきたいと話す、オリビエ・コンスタントさん
認知症の人に対する偏見をなくしていきたいと話す、オリビエ・コンスタントさん

――認知症の人とのコミュニケーションを図るツールとは何ですか?

「アニメーションやポスターをつくっています。ポスターは、認知症の人の写真を撮って、それをたくさん集めて大きなポスターにしました。認知症の人たちの視点やメッセージを伝えていきたいので、本人のコメントや、介護者が何を感じているかなどの短い文章も添えました。SNSなどで広げていこうと考えています」

――センターでは意識向上キャンペーンを実施していますね。

「はい。2012年から2014年まで第一弾キャンペーンを行い、2019年1月に第二弾のキャンペーンを始めました。このキャンペーンは、フランダース政府の支援を受けていて、センターがコーディネートを担っています。私の仕事です。『認知症のことは忘れて、その人のことを覚えておく』というスローガンを掲げ、周りの人々がオープンに、自由な形で認知症の人たちを受け入れることを広めるためのキャンペーンです。」
「この一環で、認知症の人だけでなく、介護士などの専門職の人、フランダース地方の著名人ら30人にインタビューをしました。多くの人たちに個人的な体験を語ってもらうことで、受け入れる側の理解が進みやすくなると考えています。

認知症の人たちの視点やメッセージを伝えていきたいと語る、オリビエ・コンスタントさん
認知症の人たちの視点やメッセージを伝えていきたいと語る、オリビエ・コンスタントさん

また、私たちの活動に多くの認知症の本人たちを巻き込み、しっかり関わってもらうことを意識しています。2018年に、認知症の人をメンバーに含めたワーキンググループを立ち上げました。このグループに、6人の認知症の本人たちと、その介護者やパートナーがメンバーとして加わり、会議やメディアを通じて情報発信もしています」

――ベルギーでは多くの認知症の人が自宅に住んでいるそうですね。

「ベルギーでは今約70%の認知症の人が自宅で暮らしています。政府は、これを今後10年で80%に増やそうとしています。でも、自宅で過ごしている認知症の人の多くは、残念ながら孤立してしまっているんです。孤立した状態のまま自宅生活者の割合だけを上げても意味がありません。もっとコミュニティとつながっていられる環境を整えていくことが大切です。これはDFCの重要な仕事の一つだと思います」

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