「家が燃える!」念入りな元栓確認を利用する これって介護の裏技?
青山ゆずこです! 祖父母がそろって認知症になり、ヤングケアラーとして7年間介護しました。壮絶な日々も独学の“ゆずこ流介護"で乗り切ったけれど、今思えばあれでよかったのか……? 専門家に解説してもらいました!
元栓チェックで車が前に進まない
家を出た直後、ふと家のカギや元栓を閉めたかどうしても気になってしまうときってありますよね。そして慌てて家に戻って確認したり。
うちのばーちゃんも車で出かけた途端、「私はガスの元栓を閉めたかな……」と口ぐせのように言い続けます。今はもうガスを使うのも危ないので料理はほとんどしていないのですが、気になりだしたらもう止まりません。「元栓はちゃんと閉めたよ」と言ってもまったく聞く耳を持ってくれない!
もしそこで「はいはい、閉まってるから大丈夫だよ」などとばーちゃんの不安を軽くあしらってしまうと、「家が燃える! 火事になる! 今すぐ家に帰らせておくれ」と車の中で大騒ぎします。なので、説明してもばーちゃんの不安が解消されないときは、出発して10メートルも進んでいなくても家に戻ります。
そして実は、大変なのはそれからです。元栓が閉まっているのを確認して、車が動き出して間もなく、「……元栓閉めたかな」「家に戻っておくれ」と再び言い出すのです。さっき家に帰って確認したことを根本的にまるっと忘れてしまう。何度確認しても不安だけが残っている状態です。
多い時は5回近くガスの元栓を確認しに戻ります。時には、わたしが車を降りて急いで確認し、閉まっていたことを伝えても5分も経たずにまた繰り返します。
もう「確認作業=リハビリ兼お散歩」にしちゃおう!
認知症のじーちゃんばーちゃんに対して否定や拒否をしてしまうと一気に事態が悪化してしまうことは、これまでの生活で身をもって痛感してきました。でも、今日は散歩やドライブに出かけよう!と決めても、なかなか予定どおりに進みません。そこで少し視点を変えてみました。
目的地にはたどり着けてないけど、車を降りて靴を脱いで家の中を歩きまくって、それを何度も繰り返す。もうこの行動自体を“お散歩"ということにしていいのでは? 元栓を確認するたびに家中の窓のカギも毎回チェックするので、運動量はかなり確保できています。予定どおりに物事が進まなくてイライラする気持ちもありましたが、こだわる必要もありません。結果オーライです。
でもあまりに確認に戻る頻度が多いときは、ばーちゃんが元栓を閉まっているか確認している一連の様子を、携帯の録画機能を使って記録に残しておきます。そして、動画を見せて安心してもらう。何度も繰り返すと効果が薄れてしまうこともありますが、あの手この手で不安を解消できるように奮闘していました。
相手を納得させるには、いくつかのシナリオを準備
この、繰り返される元栓確認など、どうしても不安が解消されないときはどう対応すればいいのでしょうか。認知症の人と家族の会の全国本部の副代表理事であり、『認知症の9大法則 50症状と対応策』(法研)の著者、川崎幸クリニックの院長・杉山孝博医師に聞きました。
「認知症をよく理解するための法則の中に、このように何かひとつのことに集中したり不安になると、そこからなかなか抜け出せなくなる『こだわりの法則』というものがあります。たとえ正論でも、周囲が無理に説得したり否定すると、逆にこだわり続けてしまう(場合によってはより強くこだわる)という特徴があります。そこで無理に止めようとせずに、
今回のゆずこさんのように『もうこれがお散歩(リハビリ・運動)でいいや』と視点を変えてみるのも一つの方法です。
『(元栓が閉まっているか)見てくるからまってて!』と、本人の代わりに行くのもいいですが、『どうしても自分の目で確認しないと気が済まない』という方もいます。
携帯の動画や写真で証拠画像を残すのも面白いですね。要するに、本人が納得して安心できればそれでいいんです。でも、ひとつの方法が上手くいったからといって、毎回それが通じるわけではありません。決して拒否したり否定したりせず、相手を納得させられる何通りかのシナリオを準備できるとベストですね」
「繰り返す行動を運動だと思っちゃえ」という発想は、受けるストレスを減らす自分を守るための視点の切り替えでもあったような気がします。「今日は絶対にこれをやらないといけない!」とがんじがらめにならずに、臨機応変、柔軟に対応策を考えてみるのもいいかも知れませんね。
- 杉山孝博先生
- 川崎幸クリニック院長。認知症の人と家族の会の全国本部の副代表理事であり、神奈川県支部の代表を務める。著書に『認知症の9大法則 50症状と対応策』(法研)、その他多数。