認知症で怪力に?桐タンス運ぶばーちゃん大丈夫か これって介護の裏技?
青山ゆずこです! 祖父母がそろって認知症になり、ヤングケアラーとして7年間介護しました。壮絶な日々も独学の“ゆずこ流介護”で乗り切ったけれど、今思えばあれでよかったのか……? 専門家に解説してもらいました!
驚愕! 重い桐タンスや荷物を運びまくる“怪力ばーちゃん”
家中の家具という家具を素手で運んで、自分が納得するまで毎日何時間も模様替えをしているばーちゃん。ある日とんでもないものを運んでいました。
それは、私が自室で原稿を書いていたときのことです。どこからともなく、「ミシッ……、ミシッ……」ともの凄く重い足音が聞こえてくるではありませんか。さらに「ドカッ! メキッ!」と“何か”が廊下の壁にぶつかっている。恐る恐る覗いてみると、今はもう使っていない小さ目の桐タンスを一人で担ぎ上げるばーちゃんの姿が! 小さ目といっても桐タンスなので、軽く十数キロはありそうです。
しかもタンスを運んでは、首を傾げてまた戻す。また戻しては、納得のいかない顔をしてまた別のところに持って行く。ばーちゃん本人に「何がしたいの」とたずねても、何一つ明確な答えは返ってこないので、「もうこれは一つのリハビリ(筋トレ)ということにしてしまおう」と、私はただ見守ることにしました。
黙って仕事をしながら様子をみていたのですが、タンスを掴んで何往復もするばーちゃんの影が障子に浮かび……。鼻息荒く、でっかい影だけがひたすら行き来します。止めようとしても本人はなぜか割と上機嫌でタンスを運んでいるので無理には止められません。このときの光景があまりに“ゴリラ感”が強かったので、後に出版するコミックエッセイ『ばーちゃんがゴリラになっちゃった』(徳間書店)のタイトルにしたほどです。
寝ないし、すごい活動量だし、とにかく体が心配
そのほかにも、ばーちゃんは3日に一度、勝手にわたしの部屋の荷造りをしまくる習慣がありました。ある日仕事から帰ってくると、テレビや布団(を置いているセミダブルのすのこ)、パソコンに二人掛けのソファ、洋服、そして大量の雑誌や漫画の本がきれいにビニールひもでくくられて、廊下にどさっと出されていたのです。部屋の中を見ると、すっからかんでほとんど何も残っていない状態。一瞬パニックになりかけましたが、その手際の良さに「え、ガチで業者じゃん(笑)」と感心してしまうほどでした。
桐タンスも一人で運べる、荷造りも何もしなくてもOK、その姿はまるで優秀すぎる引っ越しスタッフです。その荷物を毎回元に戻すわたしの上腕二頭筋も、日々鍛えられていきました。
「今日は何がどこに運ばれているんだろう」と、ちょっとだけワクワクする気持ちもありましたが、心配だったのはその体力です。その当時は、日中ほとんど休むことなく物を運んだり荷造りしたり、ろくにまとまった睡眠もとらずに動き続けていました。いくら体力があるといっても、80代の体はいつ悲鳴をあげてもおかしくはありません。
結局はどこかで帳尻が合っている
一体ばーちゃんの怪力はどこから来るのか。そして、いつかオーバーヒート(動きすぎ)で倒れないか、認知症の人と家族の会の全国本部の副代表理事であり、『認知症の9大法則 50症状と対応策』(法研)の著者、川崎幸クリニックの院長・杉山孝博医師に話を聞きました。
「ご家族が心配される気持ちも分かりますが、活動量が多い時期は同時に“過食”をしていることがとても多いんです(※前回の話参照)。
一日に何度も食事をとったり、一度に食べる量が多かったり、心配しなくても動く分のエネルギーはしっかり確保しています。だから大半の人々はほとんど太らない。また、睡眠が極端に減る人もいますが、エネルギーがあるから苦になりません」
「さすがに食べ過ぎじゃないかしら」「動きすぎて体力が心配」と悩んでいても、結局は食事の量と活動量のバランスが釣り合っているようです。食べるけど、動く、動くから太らない。そしてまた食べる。
杉山先生いわく、「過食をしても、神経質になりすぎたり食べる量を無理に制限するのではなく、『どこかで帳尻が合っている』と、どんと構えるくらいがちょうどいい」とか。
そしてばーちゃんの梱包テクニックと運ぶ技術は、日ごと磨かれていくのでした。
- 杉山孝博先生
- 川崎幸クリニック院長。認知症の人と家族の会の全国本部の副代表理事であり、神奈川県支部の代表を務める。著書に『認知症の9大法則 50症状と対応策』(法研)、その他多数。