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映画『長いお別れ』認知症当事者たちと特別試写会。監督ドキドキ、参加者は?

『長いお別れ』本文写真1

5月初旬、映画『長いお別れ』の特別試写会が開催された。直木賞作家である中島京子さんの同名小説を原作に、少しずつ記憶を失っていく父と、それを支える家族の姿を描いた物語。メガホンを撮ったのは、前作『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016年)が称賛を浴び、次回作を期待されていた中野量太監督(45)だ。

「前の方が見やすいよ、きっと」
開場と同時に、参加者たちが声を掛け合いながら席を見つけては腰を下ろす。久しぶりに顔を合わせる人もいるのか、ときに挨拶を交わし会話に花が咲く。足取りは軽く、この日を楽しみにしていたことがよくわかる。席に着くなり、受付で手渡された同作のパンフレットを熱心に読み込んでいる姿も多く見られた。和やかで優しい空気が会場を包む。

この日集まったのは、デイサービス「DAYS BLG!」を利用する認知症当事者とその家族、そして介護者だ。「DAYS BLG!」は、通う人たちの意志を尊重し、自由に過ごせる空間を提供するデイサービスとして注目を集める。利用者という言葉を使わず「メンバーさん」と呼び、誰もが「素」になれる居場所を一緒につくっていくことをモットーにしている。

いよいよ開演。自身も介護経験者であるフリーアナウンサーの町亞聖さんの呼び掛けで、中野監督が前へ。
原作者である中島さんから、原作を自由に解釈していい、と言われたこと、唯一の注文は「原作が持つ人間の可笑しみ、そしてユーモアを忘れないで欲しい」ということだったと明かした。
「もちろん、(認知症とともに生きるということは)それだけではないということは重々承知しています。人間なんて生きるだけでも大変なわけで。そんななかでも、ユーモアというものを忘れないで欲しい。それを伝えられれば、この映画をつくった意義があると思っています」

「決して暗い映画ではありません。観終わって『家族っていいな』『生きていて良かったな』と思えるような映画に仕上げているつもりです」と中野監督が語りかけるように話すと、大きく頷くメンバーさんもいた。

上映が始まると、自然と身体が前のめりになる。とくに介護のシーンでは、食い入るようにスクリーンを見つめるメンバーさんの姿が印象的だった。物語の後半に差し掛かると、ときにすすり泣きも聞こえてきた。2時間7分と、短い作品では決してない。けれど、最後の最後まで会場の集中力が続いていたように感じる。上映が終わると、自然と静かな拍手が起こった。

『長いお別れ』本文写真2
思わず涙をこらえきれなくなる人も

「僕自身、久しぶりに観ましたけれど、我ながら良い映画だなと思っています(笑)」
上映が終わると、中野監督がそう軽やかに話しながら再び前へ。予定外の記念撮影が始まった。

メンバーさんたち、そして常日頃、認知症当事者の人たちと過ごす介護者は本作をどう観たのか。

両親を亡くした頃から認知症が進んでいるという美並宏さん(54)は、大きなスクリーンで映画を観たのは『植村直己物語』(1986年)以来、と話す。
「内容について深く理解することはできなかったけれど、横にずっと泣きっぱなしのスタッフがいて(笑)。自分はいつも皆さんに良くしてもらって、毎日楽しく過ごすことができている。いまコメントとして言えるのはそんなところです」

『長いお別れ』本文写真3
美並宏さんは取材に対し、「大きいスクリーンで見る映画は久しぶり」と笑顔で話してくれた。

「DAYS BLG!」代表の前田隆行さんと一緒に仕事をしてきたという佐保延子さん(78)は、「実際に認知症の方々を介護されている方のなかには、実際はもっともっと大変だ、と感じている方もいらっしゃるだろうな、と思いました」。最も印象に残っているシーンとして、本作の見どころの一つであり、中野監督自身が大切にしたという遊園地での家族のシーンを挙げた。

佐保さんとともに試写会に参加した金野ちず子さん(79)は、認知症当事者たちの週一回の食事会を得意な料理で支えてきた。近所に暮らす、自分で炊事をすることが難しくなった高齢者から電話がかかってくれば、料理を手に駆けつけることもある。タケノコが美味しい季節にはタケノコを。一つ一つの量は多くなくとも、品数はできるだけ多く。とくに喜ばれるのは、肉も野菜も入っていて、見た目も美しいスペインオムレツなのだという。

「衣食住の『食』が心を豊かにしてくれて、精神的な支えになるんです。この映画でも、ジャガイモが出て来たり、ケーキが出て来たり。家族で好きなものを食べることで、心が豊かになるんです」

映画については、こんな感想を抱いたという。
「認知症当事者の家族については、映画なので割と綺麗に描写しているな、とは思いました。ただ、映画のなかの娘達は(夫とともに暮らす)アメリカから帰って来たり、近くで常に寄り添っていたり、と家族一人一人が支え合っていた。家族の絆が一番大事であり、『実感がこもっていていいな』と思いました」

『長いお別れ』本文写真4
中野量太監督、司会の町亞聖さんと一緒に記念撮影。

【作品情報】 『長いお別れ』

監督:中野量太  脚本:中野量太 大野敏哉
出演:蒼井優 竹内結子 松原智恵子 山﨑努
北村有起哉 中村倫也 杉田雷麟 蒲田優惟人
原作:中島京子『長いお別れ』(文春文庫刊) 主題歌:優河「めぐる」
公式サイト http://nagaiowakare.asmik-ace.co.jp
©2019『長いお別れ』製作委員会 ©中島京子/文藝春秋
5/31(金)より全国ロードショー

『長いお別れ』

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