フードファイターvsウナギ泥棒?認知症のばーちゃんの食欲が…介護の裏技?
青山ゆずこです! 祖父母がそろって認知症になり、ヤングケアラーとして7年間介護しました。壮絶な日々も独学の“ゆずこ流介護”で乗り切ったけれど、今思えばあれでよかったのか……? 専門家に解説してもらいました!
食べ方も食べる量も。それはまるでフードファイター
『あの白いやつ食わせろ!認知症のじーちゃんは今日も… これって介護の裏技?』でも書いたように、食事の栄養バランスはできる範囲で工夫してみるとしても、今回ばーちゃんを見ていて驚いたのはその「食べる量」でした。
茶わん大盛りのご飯をお箸で縦横に四分割して、その一つの大きな米の塊を、ガブリと頰張って飲みこんでしまう。お茶碗一杯を食べるのに5分もかからず、まるでフードファイターのような勢い。思わず見入ってしまうほどのスピードです。
飲みこむ力の嚥下(えんげ)がいいのでしょうが、それだけ一気に食べていたら、水分や食べ物が気管や肺に入るなど誤嚥を起こしたり、喉に詰まって……という最悪の事態に陥る可能性があります。それに、放っておくと2人前、3人前と軽くおかわりをして食べてしまうのも困りものです。
隠したから奪われた? 執拗に催促されたウナギの行方
食事のとり方に不安を覚える中、お土産に頂いたうなぎのかば焼きをばーちゃんが見つけて執拗に催促されたことがありました。さっきたらふく食事をしたばかりなのに、「今すぐ食べたい」「私は夕飯はまだ食べていないよ」と一点張り。
認知症の方とのコミュニケーションの取り方として、相手を否定してはいけない、責めてはいけないというのが大前提です。しかし、何度も催促されるとこちらも穏やかではいられません。思わず、少し強い口調で、「さっき食べたばかりだからダメ!」「食べ過ぎてお腹を壊すよ」と言ってしまい、ウナギは冷蔵庫の奥に隠しました。そして、自分の部屋に戻ったのですが、
ドンドンドンドン……!
「あたしのウナギを返せ」
ドンドンドンドン……!!
「あんたはウナギ泥棒だ!」と、大声を上げながら、ばーちゃんがずっとドアを叩き続けるではありませんか。
最初はわたしも「何がなんでもウナギは渡さない!」と意地になっていましたが、あまりの執念に驚き、諦めてウナギを出すことに。ばーちゃんはウナギを一気に食べ終わると、2時間以上騒いでいたのがウソのように、スッと落ち着いた表情になって布団に戻っていきました。今思うと、そのときのわたしの行動が余計にばーちゃんの気持ちを逆なでしたのかもしれません。
介護は物を食べてくれるうちがラク。まとめて出さずにひと工夫
思い返すと「あのときの対応はまずかったな」と反省することの方が多いのですが、本来あのような場面ではどんな対応をすればよかったのでしょうか。
「認知症の人と家族の会」全国本部の副代表理事であり、『認知症の9大法則 50症状と対応策』(法研)の著者、川崎幸クリニック院長の杉山孝博先生にお話しを聞きました。
「認知症の方の中には、異常に食欲が増す“過食”という期間がかなりの割合であります。
その時期は食事をした直後でも、『お腹がすいてたまりません』と訴える人もいます。さらに記憶障害の症状でもあるように根本的に食べたこと自体を忘れているので、本人の世界の中では本当に何も食べていないことになっている。そこで、今回のゆずこさんのように『さっき食べたでしょ』と言って隠してしまうと、『なんでこの人は私をいじめるの』『食事もろくにとらせてくれない』と、一方的に負の感情を抱かれてしまいます。そしてより強く執着してしまったり、パニック状態に陥ることもあるのです。
介護は相手が物を食べられなくなったときの方が、圧倒的に大変と言われています。過食の時期は一過性のものなのでずっと続くことはありません。相手を否定してパニック状態になってしまうより、ちょっと食に工夫してみてはいかがでしょうか」
ズバリ、工夫といいますと……?
「例えば同じ量を出すにも、一気にどかんとまとめて出すのではなく、小分けにして出してみる。足りなかったら足してあげたり。また、キノコ類やこんにゃく、野菜などカロリーは少ないけれど“かさ”がある食材を多めに使ってみるなど。私たちがダイエット食として考えるメニューと似ていますね。あとは、食事中におしゃべりをしながら気を紛らわせてみるのも有効です。何でもかんでも徹底して管理しようとせずに、時にはドンと構えておおらかな気持ちで接してもいいと思いますよ」
もうウナギ泥棒とは呼ばせない。わたしももっと心に余裕を持って、楽しい食事の時間を心掛けたいです!
- 杉山孝博先生
- 川崎幸クリニック院長。認知症の人と家族の会の全国本部の副代表理事であり、神奈川県支部の代表を務める。著書に『認知症の9大法則 50症状と対応策』(法研)、その他多数。