介護の裏ワザ、これってどうよ?

認知症のばーちゃんはなぜ「孫が男遊び」と訴えたか これって介護の裏技?

青山ゆずこです! 祖父母がそろって認知症になり、ヤングケアラーとして7年間介護しました。壮絶な日々も独学の“ゆずこ流介護”で乗り切ったけれど、今思えばあれでよかったのか……? 専門家に解説してもらいました!

「おどれ!」「騒げー!」「あ、が、れー!」

「孫は毎晩男を何百人も連れ込んでいるんだよ」モテモテ孫のパーティーライフ

ありもしない架空の出来事を、まるで実際に体験したように周囲に言いふらしてしまうのも認知症の症状の一つです。しかも本人は「自分が見た、聞いた」と本当に思い込んでいるので、描写ももの凄く細かくて生々しい……。

ある日ふと、ばーちゃんが誰かに電話をかけている声が聞こえたので、なんとなくその会話を聞いてみました。すると、
「まったく、ゆずこは男の人を毎日“何百人も”部屋に連れ込んで、こっちは迷惑しているんだよ!」
「一晩中もの凄い音量で音楽をかけて、舞を舞っているんだ」
「注意してもまったくやめてくれないし、もう出て行ってほしいよ……」と、悩み相談をしているではありませんか。

しかも家族や親戚中に電話をかけまくり、孫の男遊びの激しさを訴えかけている。実際は、ばーちゃんが不定期で暴れることもあり、家に気軽に人を呼べる環境ではありません。
それに孫の趣味は、ビールを飲みながら燻製を作ったり、一人で静かにネット上でチェスや将棋をすること。最高です。

親戚中に電話で告白「本気でモテない、どうしよう」

このままでは、「男遊びが激しい孫」というあらぬ疑いがかかってしまうので、ばーちゃんが電話をかけるより先に、親戚中に現状を説明してみました。「妄想がひどくて、多分近いうちにこんな内容の電話がいくと思うけど、信じないでね」と先に伝えます。この作戦のおかげであらぬ疑いをかけられることはなかったのですが、何人かの親戚からは、
「大丈夫、説明されなくてもゆずこがモテないのは知ってるから」
「あんたがそんなにモテるわけないじゃん(笑)」と、何とも辛辣な言葉が……。
 
そして次に、どれほど効果があるか分かりませんが、ばーちゃんに“孫のモテない現状”について説明してみました。クリスマスや自分の誕生日も部屋にこもって仕事をし、増えていく体重をグラフ化して見せたり。

ダイエット用につけていた体重の減グラフをみせて「このように順調に肥えておりますが、・・・これでも何人もつれ込めるほどモテると思う?」

すると、それまで攻撃的だった口調が穏やかになり、話し合いの最後にはなぜか、
「ゆずこ、大丈夫。女は愛嬌だよ」と慰められました。それからは電話攻撃もピタリとなくなり……でもなぜでしょうか。結果オーライなのに、涙で前が見えません。

認知症本人の世界を傷つけてはダメ。あくまでも刺激せずに先手を打って

しかしそもそも、なぜありもない話を親戚中に広めてしまうのか。「認知症の人と家族の会」の全国本部の副代表理事であり、『認知症の9大法則 50症状と対応策』(法研)の著者、川崎幸クリニック院長の杉山孝博先生にお話しを聞きました。

「まず、認知症の人の激しい言動を理解するための「3原則」というものがあります。
1.本人の記憶になければ、本人にとって事実ではない
2.本人が思ったことは、本人にとっては絶対的な事実である
3.認知症が進行してもプライドがある

本人にとっては、わたしが「誰かを連れ込んでいる」ということはあくまでも“事実”なので、まるで実際に見たような細かく生々しい描写で語ることも珍しくありません。ここで一番やってはいけないのは、通話中の電話を切ったり、受話器を取り上げたり、「なんでそんなウソばかり言うの」と相手を否定する行為です。
電話をかけてしまう行為の背景には、孤独感や不安が隠れていることもあります。相手の言葉の表面だけを見て否定した上にプライドを傷付けてしまうと、その瞬間「なんで私の邪魔をするの」と激しい反発を受けたりします」

それでは、わたしの対応はあながち間違いではなかったということでしょうか。

「相手を刺激せずに、先手を打ってフォローする。まさに大正解です。事前に周囲の人々に状況を説明して、納得してもらうのが得策です。ただ、ご自身がいかにモテないかをいくら説明しても、論理的な話を理解してもらうのは少々難しいかも知れません。今回は上手くいったようで良かったですね」
悲しいかな、今回は結果オーライ。皆さま「女は、愛嬌」です。

杉山孝博先生
川崎幸クリニック院長。認知症の人と家族の会の全国本部の副代表理事であり、神奈川県支部の代表を務める。著書に『認知症の9大法則 50症状と対応策』(法研)、その他多数。

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