「いいから座ってて」でヘコむばーちゃんを活性化 これって介護の裏技?
青山ゆずこです! 祖父母がそろって認知症になり、ヤングケアラーとして7年間介護しました。壮絶な日々も独学の“ゆずこ流介護”で乗り切ったけれど、今思えばあれでよかったのか……? 専門家に解説してもらいました!
「もういいから、ばーちゃん座ってて!」
相手が認知症ということは頭では分かっていても、元気だった頃の昔の姿を覚えているからこそ、「何でこんなこともできないの」と、ショックを受ける時もあります。また、失敗したり仕事が増えるのを恐れてつい言ってしまうのが、「あ~、もういいからじっとしてて!」という一言。
ウチのばーちゃんは、認知症になってから料理をほとんどしなくなりました。周りにいる人も「いいから座っていて」と、良くも悪くも何もやらせない。そんなやりとりを見ていたら、ばーちゃんがちょっとしょんぼりして布団にもぐっていってしまって……。誰も気付かないまま、さらに自分の中に閉じこもってしまうような場面に幾度となく遭遇しました。
なつかしのメモリーフード。しかし中身は……
そんなある日、突然ばーちゃんが台所に立って「料理を作ってやる」と言い出しました。症状にムラがあるばーちゃんは、たまに一瞬だけ昔の記憶や習慣が戻ります。その日に作ろうとしたのは、ゆずこが好きだった“おいなりさん”。
「本当に作れるの?」「突然どうしたの?」などと言うと自発的に何もやらなくなってしまうので、やることなすこと全部褒めてみました。お揚げさんを煮るのもつきっきり。時間や手間、片付けなどすごく時間がかかるけど、やたらめったら褒めちぎってみる。
すると、おぼつかない手つきながらも、ちょっと嬉しそうな顔でご飯をお揚げに詰めだしたじゃありませんか。途中で放り出さずに、せっせと作ってる……!
その後も、「わぁ~、ばあちゃんの米の握り方ステキ(はぁと)」とか、「鍋のゆすりかたカッコ良すぎだわ」「まな板の触り方、マジ痺れる! やばい」などと適当に褒めていたら、少しずつ笑顔になっていきました。台所に立っているところに付きまとわれ、「お腹すいたー!」「まだー?」とせかされていた昔を思い出したのでしょうか。
思い出のおいなりさん完成。しかし問題が……
そして見事に完成したおいなりさん。でも、ちょっとまって。炊飯ジャーに入っていたのって、たしか変色した5日前のご飯だったはずじゃ……?
目の前には、褒められて上機嫌&ゆずこが食べるのを今か今かと見つめるばーちゃんがいる。距離が近すぎて食べたフリはできない。ここで食べなかったら、拗ねてしまって次はないかも知れない。自分から何かをやろう!と二度と思わなくなってしまうかも知れない。
どうする、孫。どうする、ゆずこ……!
そして数時間後。ゆずこの便秘は、なぜかきれいさっぱり解消されたのでした。ふう、スッキリ。
教えて先生~!これってどうなの?
今回の、褒めて褒めてやる気を出させるこの方法。介護や認知症の専門家の方々からはどのように見えるのでしょうか。横浜相原病院の院長で『認知症は接し方で 100%変わる!』(IDP出版)の著者でもある吉田勝明先生にお話をうかがいました。
「家族は、要介護者の昔のしっかりした姿を覚えているから、ゆずこさんが感じたように、『なんでこんなにできなくなったのか』ということばかりに目が行ってしまうんです。でも、過去を知らない福祉施設のスタッフや、プロは、『今、その人ができること』に目を向けて褒める。この点が、在宅介護の難しさでもあると思います」
確かに注意するほど殻に閉じこもってしまったり、精神的に不安定になって暴れちゃうことも多い。そしてどんどん何も手を付けなくなるという悪循環。こんな負のスパイラルを防ぐためにも、責めるのではなく、今を見つめて褒めることが大事なのかも知れません。
「人に褒められるということは、自分の存在や行動を評価されるということ。褒められることが少ない認知症の患者さんにとっても、それがやる気の源になるんです」
よし、今度は炊飯ジャーの中身を炊き立てのご飯に入れ替えてから、褒めよう。
そう強く思ったゆずこでした。
〈つぎを読む〉認知症で病院嫌いのばーちゃんに捧ぐ創作ウワサ話 これって介護の裏技?
- 吉田勝明先生
- 横浜相原病院院長。日本老年精神医学会専門医・精神科専門医。「今を楽しく」をモットーに、認知症の患者と全力で向き合う。著書に『「こころ」の名医が教える 認知症は接し方で 100%変わる!』(IPD出版)など。