中学生たちが協力者として活躍する街へ 古賀市役所
朝日新聞社は認知症の人への理解を含め、ともに暮らす社会を考える「認知症フレンドリー事業」を展開しています。自治体や企業、学校などから依頼を受け主催者のみなさんと啓発活動に取り組んでいます。その取り組みの一端をご紹介します。
2010年の秋ごろ。福岡県古賀市内。小学校から帰宅途中の複数の子どもたちに80代の男性が突然声をかけたそうです。
子どもたちは「様子がおかしい」と感じたようで、その中の一人が帰宅後に母親に顚末を伝えました。その母親は「不審者かも」と思い込み、警察に通報するという出来事がありました。
その後の警察の調べで男性の所在はすぐにわかりました。男性は認知症の症状はあるものの、いつもの散歩中だったといいます。警察から事情を聞いた男性の妻は、そのときこう感じたといいます。「夫は認知症と診断されただけ。誤解されたことは悲しかった」
この件は市内の介護事業所職員らでつくる市キャラバンメイト連絡会「橙」のメンバーに伝わりました。市にも共有され、「ほんの少しの誤解で悲しむ人がいるのはよくない。小学校の段階から理解を深める必要があるのではないか」と話し合いが持たれました。
VR体験は興味津々 生徒の考え変わった
市と連絡会はすぐに動き出しました。認知症の啓発活動で先行事例がある同県大牟田市を視察するなどして、12年12月には小学校5年生を対象に啓発講座「オレンジ教室」を開始しました。小学校からの継続を考えて15年には中学生を対象に「フォローアップ講座」も立ち上げました。テキストを作り上げたり、ロールプレイングを採り入れたりするなど工夫を続け、23年3月末で5104人の子どもたちがジュニアサポーターになりました。
立ち上げから10年以上がたち、中学生向けは新しい段階に進みます。体験型によって「より自分事として考えてもらいたい」と朝日新聞社が提供する「認知症VR体験会」の採用を決定。22年12月7、8の両日、市内の公立中学全3校で1年生約580人が参加することになりました。
市と連絡会は構成も工夫しました。1コマ目に連絡会による認知症の基礎知識が楽しく学べるクイズ形式の講座を実施。2コマ目は「認知症VR体験会」です。生徒が先に基礎知識を踏まえていることを前提に、認知症のある本人が思いを語るインタビューを聞いてもらったうえで、VR体験に臨みました。初めてVRヘッドセットに触れる生徒が多く、みんな興味津々。生徒の一人は「階段を下りる」を視聴して「階段を下りるのは大変。お年寄りがためらう理由がわかった」と話しました。
市福祉課の吉武淳子さんはこう振り返ります。
「認知症になると何もできなくなると思っていた生徒が、やれることはたくさんあるし、認知症のある本人の思いに寄り添うことの大切さに気づいてもらえたことが成果でした」
■開催日 2022年12月7、8日
■イベント名 VR技術を用いた中学生向け認知症講座
■実施内容 認知症VR体験会
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