「母にいいかも」と膨らんだ期待 初のグループホーム見学で見た現実
いつかはやってくると思いつつ、ついつい先送りしてしまう親の介護の準備。関西在住のイラストレーター&ライターのあま子さんもそんな一人。これまで一人暮らしを続けていた母が、2022年正月早々に転倒し、骨折→入院という経緯で認知症を発症。姉と兄による“介護押しつけバトル”を経て、いったん母は首都圏に住む兄一家のところで暮らすことになったのですが、あっという間に関西に戻ってくることになりました。再び、母の住まい探しが始まりました。
認知症の人に特化した住まいがあるの?
母の住まい探しが進展しないまま、2022年も師走に突入しました。街にクリスマス音楽が流れだす時期は、いつも気持ちがウキウキする私。ところが、この年は「お母ちゃんの住まいが決まらんまま年を越すんやろか」と暗く沈んでいました。
そんなある日、母がお世話になっているケアマネさんから「お母さんに身体的な問題はないようなので、グループホームはどうですか」とすすめられました。グループホーム? 聞いたことあるような、ないような…。
インターネットで調べたところ、グループホームの正式名称は「認知症対応型共同生活介護」といい、認知症に特化した高齢者施設とのこと。1ユニット(グループ)9人までの少人数で共同生活を送ります。認知症の人は環境の変化に弱いため、同じメンバーのほうが穏やかに暮らせるそうです。
老人ホームなど他の施設と大きく違う点は「入居者が掃除や洗濯などの家事を分担して生活する」ところ。できることは自分でやり、必要な部分を介助してもらいます。これはありがたい! 最近まで一人暮らしをして、家事だって曲がりなりにもこなしていた母にとって、老人ホームでスタッフに全ての家事をしてもらう(逆に言えば何もさせてもらえない)生活はつらいかもと、ひそかに私は心配していたのです。
私が子どものころ、わが家は長年、中華料理店を営んでいました。そのころの母は、餃子やチャーハン、酢豚など多くの料理をお客さんのために作っていました。グループホームで食材を切ったり、盛り付けを手伝ったりできれば、母の生きがいになる気がします。ええやん、ええやん、グループホーム♪ 単純な私はいっぺんに気分が上向きになり、ジングルベルを口ずさんでいました。
老人ホーム検索サイトを改めて見てみると、サイトによっては検索条件に「施設種別」の項目があり、「グループホーム」で絞り込めるようになっていました。これまで私は「地域」や「料金」で絞り込むだけで、施設種別の項目はさわっていなかったので、検索結果にグループホームも含まれていたことになります。施設の種類は、施設名の横や下に記載されていることが多いので、気になる方は是非、チェックしてください。
検索の結果、よさそうなグループホームを、わが家のある自治体の隣のB市に見つけたので、見学を申し込もうとしたら、「この施設はB市の地域密着型の施設です。ご入居できるのはB市に住民票のある方のみです。」と注意書きがありました。なぬ? どゆこと??とググって(検索して)みると、グループホームは、介護保険法上「地域密着型サービス」というものに該当するため、施設と同じ市区町村に住民票があることが入居条件だそう。母の住民票はA市にありますが、隣接するB市のほうがリーズナブルな高齢者施設が多いので、これまではB市中心に探していました。グループホームに入るならA市でないといけないみたいです。選択肢が限られてしまいそう…。
見学6:2022年12月 A市のグループホーム
検索サイトで、わが家から自転車で通える範囲にグループホームを見つけたので、申し込んでみました。国道近くの建物が密集した住宅街にある4階建ての建物です。
- <施設情報>
- ●1カ月の料金:家賃、共益費(水道光熱費込み)、食費、管理費あわせて約16万円
別途、介護保険利用料、電気代、医療費、生活消耗品代など
●部屋:個室約9m² 洗面台・収納スペース・エアコン・緊急通報装置(ナースコール)
●食事:施設内で調理
●人員配置:夜間2人
●特徴:屋上に上がることができる
グループホームの現実に夢やぶれる
温かみのあるベージュ系でまとめられた外観。「グループホーム〇〇」と書かれた大きな看板が印象的でした。出迎えてくれたのは施設長の50代の男性です。穏やかな口ぶりで、親切そうな方でした。まずは、個室で施設の説明をうけました。内容としては、これまでの施設と同様に、経営会社のことや施設の特徴、料金の説明など。入居者は日中、簡単な家事の手伝いをしたり、レクリエーションをしたりして過ごすそうです。当時はまだコロナ禍だったので、やはり面会に制限はあるとのことでしたが、施設内でなにかしらすることがあれば、母もさみしくはないかもしれません。
正直なところ、今回は耳で聞いた説明よりも、目で見た景色のほうが記憶に残っています。最初にびっくりしたのは、部屋が狭いこと。これまで見たサ-ビス付き高齢者住宅の部屋がだいたい18m²くらいあったのに対し、今回の部屋は約半分。部屋に洗面台はあるものの、トイレはありません。母は夜中に何度もトイレに行くので、廊下にあるのはしんどいなー。
つぎに案内してもらった共有スペースでは、入居者の方4、5人がテーブルを囲んで折り紙をしていました。スタッフが2人付き添っています。折り紙はせず大きな声を出している人や、うつむいてじっと座っている人もいました。それを見たとき、勝手な妄想でふくらませていた夢の風船がパンと割れた気がしました。一口に「認知症」といっても、程度も違えば症状の出方も違うのです。母は何度も同じことを聞いたりしますが、会話の受け答えなどは問題なくできます。母がこの輪の中に入って楽しく過ごせるとは思えませんでした。
一通りの見学が終わったあと、こちらから丁重にお断りをしました。最初の説明で、いまは満室と言われていたこともあり、気持ち的には楽にお断りできました。おわびとお礼を伝えて見学を終えました。
【感想&後日談】
あとで調べたら国の規定で、グループホームの個室は約9m²以上となっており、別日に見学したグループホームも同じくらいの大きさで、居室にトイレもありませんでした。日中は部屋から出て、みんな一緒に過ごすので、広い部屋やトイレは必要ないという判断なのでしょうか。今回は初めてのグループホームだったので、理想と現実の違いにやられて、きちんと見学できなかった気がしています。1軒見ただけでダメと決めつけず、ほかのグループホームも見学すれば違った発見があるかもしれません。そのようなわけで、さらにグループホームの見学を続けることにしました。