認知症に特化した「グループホーム」って何?専門家が徹底解説します
取材/中寺暁子
少人数で家庭的な雰囲気のなか、認知症の専門的なケアが受けられるグループホーム。正式には「認知症対応型共同生活介護」といい、「地域密着型サービス」の1つです。サービスの内容や入居の条件、費用、ほかのサービスとの違いなどについて専門家に聞きました。
グループホームについて解説してくれたのは……
- 高室成幸(たかむろ・しげゆき)
- ケアタウン総合研究所代表
1958年京都市生まれ。日本福祉大学社会福祉学部卒業。介護支援専門員や地域包括支援センター職員・施設の管理者層から民生児童委員まで幅広い層を対象に研修を行う。監修に『介護の「困った」「知りたい」がわかる本』(宝島社)、『最新介護保険の基本と仕組みがよ~くわかる本 第8版』(秀和システム)、共著に『介護予防ケアプラン』(日総研出版)、著書に『地域ケア会議コーディネートブック』(第一法規出版)など多数。
グループホームとは
地域密着型サービスの1つである「認知症対応型共同生活介護」のことで、民間企業や社会福祉法人、医療法人、NPO法人などが運営しています。認知症と診断された要介護者が、5~9人の「ユニット」と呼ばれる生活単位に分かれ(原則は2ユニット)、少人数で生活する施設です。認知症の進行をゆるやかにすることを目的に、利用者は介護スタッフとともに食事、掃除、洗濯などの家事をともに担います。
グループホームの利用対象者
グループホームを利用するには、どのような条件が必要なのでしょうか。利用対象者について紹介します。
認知症と診断された要支援2と要介護1以上の人
利用できるのは、認知症と診断され、さらに要支援2、もしくは要介護1以上の認定を受けた人です。要支援1の人は利用できません。
事業所と同じ市区町村に住民票があることが条件
グループホームは、できる限り住み慣れた地域で暮らすことを目的とした「地域密着型サービス」の1つです。原則として、住民票がある市区町村の事業所のみ利用できます。
要支援2の人は「介護予防認知症対応型共同生活介護」のサービスを受けられる
要支援2の人は、「介護予防認知症対応型共同生活介護」の対象となります。介護予防を目的として、グループホームのサービスを利用できます。
グループホームでのケア内容
利用者が共同で暮らし、介護スタッフとともに生活するのがグループホームです。具体的に受けられるサービスについて説明します。
手厚い認知症ケア
グループホームは認知症の人を対象とした施設であり、認知症の専門的な知識をもったスタッフのケアを受けられます。常勤の管理者は3年以上、認知症の人の介護を経験した専門職で、認知症に関する法定研修を受けていることが条件です。
認知症の進行をゆるやかにするために、施設内でのレクリエーションやリハビリのほか、地域で開催されるイベントに参加するなど、地域交流を積極的に実施しています。
看取り対応が可能な施設もある
グループホームでは原則的に医療ケアは行いません。しかし利用者の重度化と医療ニーズの高まりを受け、医師や看護師と連携し、看取りまで対応する施設も増えています。まだ多くはないので、施設での看取りを希望する場合は事前に確認をしましょう。
介助・代行サービスが豊富
グループホームは介助やサポートがユニークで、利用者がスタッフの手を借りて共同生活するのが魅力のひとつです。食事の準備や片付け、掃除、洗濯など、スタッフにサポートしてもらいつつ、できることはみんなで役割分担します。
原則医療ケアは行わない
基本的には身体の状態が安定している人向けの施設であり、医師や看護師の配置は義務付けられていません。看護師が常勤している施設もありますが、日常的に医療措置が必要になった場合は、退去せざるをえないこともあります。
グループホームの費用
費用は要介護度別のサービス費のほか、食費、居住費がかかります。すべて含めると月に10~20万円程度かかります。介護サービスは介護保険を利用できるため、費用の負担は1割(一定以上の所得がある場合は2割または3割)です。
入居時に必要な費用
入居時に敷金や保証金(入居一時金)が必要な施設と、必要ではない施設があります。金額は施設によって異なり、数万円から20万円程度です。
介護サービス費
基本となる1日のサービス費は、次のように決められています。食費、宿泊費、おむつ代などは別途費用が発生します。事業所によって「サービス提供体制強化加算」や「介護職員処遇改善加算」などが追加されたり、利用者の状態によって加算があったりするため、サービス費の自己負担額が異なることがあります。
※03_指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準等の一部を改正する告示 (厚生労働省のPDF/P239、介護予防はP325)
日常生活費
主に食材費や水道光熱費など、日常生活にかかる費用が発生します。
居住費
賃料として費用がかかります。金額は施設の規模や設備、立地によって異なります。
雑費
おむつ代などのほか、散髪をしたり嗜好品を購入したりした場合、その分の費用がかかります。
グループホームの選び方
グループホームを選ぶ際には、どのような点に着目するといいでしょう。選び方のポイントを紹介します。
費用・ケア体制を確認しよう
介護保険を利用できるサービス費は要介護度によって定められていますが、自費となる食費や居住費、レクリエーション費などは施設によって差があります。入居一時金の有無なども含め、費用については事前によく確認しておきましょう。
医療や看取りのケアについても施設によって異なるので、特に認知症以外に持病がある場合などは、医療体制について確認しておくことをおすすめします。
可能であればショートステイもおすすめ
グループホームでは、空いている居室を利用して短期利用(ショートステイ)を受け入れている場合もあります。実際に宿泊してみることで、施設の雰囲気やスタッフの対応、他の利用者との相性などがつかめるでしょう。空き室があれば体験入居という形で試すこともできますが、介護保険は利用できないため自費になります。
理念や運営方針、運営母体、設備を参考に
グループホームは地域における認知症ケアの拠点という役割もあります。認知症対応型通所介護(デイサービス)や、認知症カフェなどの事業も積極的に実施することが期待されています。少人数での共同生活は外部の人と関わらない環境になりやすいのですが、先のサービスを実施している施設は第三者の目が入りやすく、介護サービスの質の評価や利用者の安全確保につながるというメリットがあります。
希望する施設の目指す理念や運営方針、運営母体について、事前にチェックしておくようにしましょう。
また、認知症の人は環境の変化が苦手なため、できるだけ自宅に近い環境で過ごすのが理想です。自宅と似たような居宅環境や設備があるかどうか、なじみの環境に近づける配慮があるかどうかといったことも参考にしましょう。
利用申し込みの流れ
グループホームの入居手続きは、施設によって違いがあります。ここでは一般的な流れについて紹介します。
見学や体験
施設に連絡をとり、見学します。空きがあれば体験入居も可能です。
書類の作成
入居先を決めたら、入居申込書や認知症の診断書、生活歴などの書類を提出します。
面談
施設あるいは自宅で面談を行います。要介護度と認知症の原因疾患、自立と中核症状・周辺症状などを総合的に判断し、空きがあれば入居可能です。グループホームの数は増加傾向にありますが、少人数制で満員になりやすいため、希望の施設に空きがなく、入居待ちになるケースも少なくありません。
※ 認知症について詳細はこちらにも
「認知症の症状 中核症状と周辺症状(BPSD)」
有料老人ホーム、介護老人保健施設、特別養護老人ホームとの違い
認知症に特化しているグループホームは、介護スタッフの手を借りながら利用者が家庭的な雰囲気のなかで共同生活するという点が、ほかの施設との大きな違いです。利用者は介護されるだけではなく、料理や掃除などできることは分担し、施設の中で役割を与えられます。
「有料老人ホーム」はグループホームと同様に民間企業が運営できますが、介護保険施設である「介護老人保健施設」や「特別養護老人ホーム」は、営利法人は運営できません。そのほかどのような違いがあるのでしょうか。各施設との違いを説明します。
有料老人ホームとの比較
さまざまな法人が運営できる高齢者向け施設。「介護サービス付き」と、必要なときだけ外部の介護サービスを利用する「居宅型」の2種類があります。基本的には要介護の程度や住所などの制約がないので、自分の条件に合った施設が選べます。
介護老人保健施設(老健)との比較
グループホームに比べて医療ケアやリハビリのサービスが充実しています。ただし、在宅復帰を目的としているため、入所期間は原則3カ月間と決められています。運営は医療法人がほとんどです。
※ 介護老人保健施設について詳しくはこちらにも
「『老健』とは? 介護老人保健施設について専門家が詳しく解説します」
特別養護老人ホーム(特養)との比較
入所期間は限定されていませんが、入所は要介護3以上が条件です。費用はグループホームのほうが高いのが一般的です。
グループホームの人員配置基準
グループホームには、管理者、介護に従事する人、ケアプランを作成する介護支援専門員が配置されます。
介護職員は入居者3人に対して1人
介護に従事する職員は、日中は1ユニットごとに入居者3人に対して1人、夜間・深夜は1ユニットごとに1人の配置が定められています。
計画作成担当者
1人は介護支援専門員(ケアマネジャー)を配置する必要があり、利用者の心身の状態や希望(意向)などに合わせたケアプランが作成されます。「認知症介護実践者研修」または「実務者研修基礎課程」修了者であることが条件です。
管理者
3年以上の認知症介護従事経験があり、「認知症対応型サービス事業管理者研修」を修了している人が管理者を務めています。
代表者
認知症の人の介護に従事、または保健医療・福祉サービスの事業の経営に携わった経験があり、「認知症対応型サービス事業開設者研修」を修了している人です。
グループホームの施設設備
グループホームの施設は、住宅地など地域住民と交流しやすい場所にあり、キッチンや浴室などは大きすぎず、一般的な住居と同じような設備であることが基準です。民家改修型の施設も多くあります。
施設は本体事業とサテライト型事業所がある
グループホームは基本的に5~9人を1ユニットとして、家庭的な雰囲気の中で共同生活します。同じ敷地内に3ユニットまで設置でき、本体事業とは別の「サテライト型事業所」という新たな形態も創設されています。
ユニット型の居住空間
居室は原則個室で、広さは7,43㎡(和室4,5畳)以上、そのほかユニットごとの共同設備として居間、食堂、浴室、台所、トイレなどが設置されます。
サテライト型事業所
サテライト型事業所は、複数の事業所で人材を有効活用しながら、より利用者に身近な地域でサービスを提供するという観点から創設されることになった形態です。人員配置基準が緩和されており、管理者は本体事業所と兼務している場合があります。また、計画作成担当者は「認知症介護実践者研修」を修了していれば介護支援専門員でなくても可能とされています。
ユニット数は、本体事業所の数を上回らず、かつ本体事業所のユニット数と合わせて4ユニット以内と決められています。本体事業所と同一建物や同一敷地内に設置することはできず、本体とサテライト型の距離は「自動車等による移動に要する20分以内の近距離」と定められています。
居室など設備の条件は、本体事業所と同様です。
メリット
家庭的な環境で過ごせるグループホーム。ほかにどのようなメリットがあるでしょうか。
認知症専門スタッフの存在
認知症の人のケアについて知識や経験があるスタッフがいるため、特有の症状が出たときも適切な対応が可能です。また、少人数で生活するため、スタッフの目が届きやすく入居者それぞれの生活パターンに合わせて過ごせるのもメリットです。
共同生活の中で役割を担える
グループホームではスタッフのサポートを受けながら、基本的には入居者同士で家事を分担します。生活機能の低下を防ぐほか役割を持つことが生きがいにつながり、人間関係も生まれ、施設が自分の居場所だと感じられる効果があります。
症状の緩和
認知症専門スタッフによる適切な対応や少人数での生活、共同生活の一員として役割を担うといったことから、精神的に落ち着いた生活ができるようになります。穏やかな精神状態は認知症の症状緩和にもつながります。
価格・費用
特養や老健などの介護保険施設と比べると地域によっては高くなる傾向がありますが、介護保険サービスを利用できるため、有料老人ホームなどより比較的抑えられます。
居住費は施設の規模や設備、立地などによって差があります。
デメリット
認知症の人にとってメリットが大きいグループホームですが、デメリットはどのような点でしょうか。
即入居が難しい
地域密着型サービスの1つなので、住民票がある地域の事業所以外は利用できません。1事業所あたりの平均入居率は97.5%(*)のため、入居したい施設があっても、満員ですぐには入居できないというケースが少なくありません。
*令和2年度介護報酬改定検証・研究調査(厚生労働省のPDF/P20)
家庭的な雰囲気がデメリットにつながることも
少人数の家庭的な雰囲気で生活できることはメリットですが、同時にそれがデメリットになることもあります。相性が合わないスタッフや入居者がいる場合、逃げ場がなくなるからです。また、認知症が進行して人物を認識できなくなると、自分は相手のことを知らないのに、相手は自分のことをよく知っているという状況に陥り、不安を感じることになります。